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●科学技術ニュース●京都産業大学と富山県立大学、細菌における新規翻訳促進因子を発見しバイオものづくりや創薬開発への新たな可能性

2024-07-05 09:50:11 |    生物・医学
 翻訳装置リボソームは、mRNAにコードされた塩基情報をアミノ酸情報へと変換する生体機能の担い手であり、生命活動に欠かすことのできないタンパク質の合成装置である。

 しかし、リボソームはどんなアミノ酸でも一様に翻訳できるわけではなく、特定のアミノ酸配列では翻訳効率が低下すること、場合によっては翻訳が停滞してしまうことが知られている。

 翻訳反応の停滞や未成熟な異常タンパク質の蓄積は生体機能に甚大な影響を及ぼす。

 このようなリボソームの不完全さを補う因子として、EF-P(Elongation Factor P)などの翻訳促進因子が発見されてきた。

 一方で、EF-Pは、細菌の生育に必須な因子ではないため、同様の機能を持つ他の因子の存在が議論されてきたが、その実態はこれまで不明のままであった。

 京都産業大学と富山県立大学は、モデル細菌である枯草菌(こそうきん)を用いて、翻訳促進遺伝子であるefpの変異体との二重変異によって合成致死となる変異の探索を行い、機能未知なタンパク質の一種であるABCF因子のYfmRを同定した。

 さらに、EF-PおよびYfmRが、プロリンとアスパラギン酸が交互に含まれる配列によって生じる翻訳停滞を解消する役割を果たすことを明らかにした。

 以上の結果より、これまで機能未知であったABCF因子がリボソームの翻訳停滞を解消し、タンパク質合成を促進するメカニズムを詳細に解析した。

 さらに、生命情報科学注5)を用いた解析から、多剤耐性遺伝子として注目されているARE(antibiotic resistance)-ABCF因子群が、こういった翻訳促進因子として作用するABCF因子を共通祖先として進化してきたことを明らかにした。

 これにより、タンパク質合成装置リボソームの動的調節メカニズムに関する新たな知見が得られ、抗菌薬耐性機構の解明や新たな抗菌薬の開発に向けた基盤になることが期待される。<科学技術振興機構(JST)>
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