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●科学技術ニュース●NIMS、イオン性の液体表面で幹細胞の培養に成功し医療に貢献する細胞資源の培養効率を大幅引き上げ

2024-06-04 09:32:31 |    生物・医学
 物質・材料研究機構(NIMS)は「イオン液体」とよばれる液体の表面で、再生医療でも広く利用されるヒト間葉系幹細胞を培養する技術を確立した。

 従来はプラスチック皿で行われてきた有用細胞資源の培養効率を大幅に引き上げることが可能になると同時に、培養時に排出されるプラスチックごみの削減につながることが期待される。

 イオン液体は蒸発しないため、環境に拡散していかない。これまでは使い捨てにされてきたプラスチック皿と異なり、細胞培養後に回収、洗浄、加熱/乾燥による滅菌まで可能で、環境に優しいリユーザブルな“液体”細胞培養基材に展開される重要な一歩となる。

 通常、再生医療等に適用可能な(幹)細胞の培養、増殖にはプラスチック皿のような固体の平面が用いられる。

 これに対して水と混ざり合わない油のような液体の表面で細胞が培養できれば、その液体をドレッシングのように培養水溶液中に分散させて、培養効率(体積当たりの有効な培養表面積)を大幅に引き上げられるため、古くから研究が進んできた。

 これは増え続けるプラスチックゴミを削減できるばかりか、液体の特徴を活かしたろ過による細胞の分離・回収や、培養プロセスの完全オートメーション化などの技術革新が望めるが、その一方で、これまで研究に用いられてきたフッ素系液体は細胞毒性こそ低いものの、プラスチック皿より高価であり、なおかつその自然環境下における低い化学的分解性が「永遠の化学物質」「PFAS問題」としてクローズアップされており、細胞培養技術の進化に対する代償として、その高コスト化と高環境負荷が懸念されていた。

 今回、同研究チームは、水と混ざり合わず、なおかつ細胞毒性が極めて低いイオン液体を見いだし、その表面でヒト間葉系幹細胞を培養することに成功した。

 イオン液体はプラスとマイナスのイオンのみからなる液体だが「液体なのに蒸発しない、沸騰しない」ことが大きな特徴。細胞培養に用いた液体を洗浄、加熱、乾燥、滅菌することで、使い捨てることなく再利用することが可能になる。

 さらに同研究グループでは、イオン液体のイオンの組み合わせによって、液体表面に吸着するタンパク質の吸着状態が大きく変化し、そのことが優れた液体足場の形成に重要なことをつきとめた。

 今後、同研究チームは、イオン液体表面の幹細胞の分化状態を制御する技術の確立を目指すとともに、分散培養による有用な幹細胞資源の培養効率引き上げ、プラスチックごみを出さない培養プロセスの代替をにらみ、細胞培養に適切なイオン液体の洗浄、滅菌プロセスの開発を進めていく。

 同研究は、高分子・バイオ材料研究センターの上木岳士主任研究員と中西淳グループリーダーらのグループによる成果で、日本学術振興会 科学研究費助成事業(23H02030 (研究代表: 上木岳士), 22H00596, 23K17481(研究代表: 中西淳))の支援を受けて進められた。<物質・材料研究機構(NIMS)>
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