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●科学技術ニュース●QST、パーキンソン病やレビー小体型認知症でのαシヌクレイン沈着を捉えるPET薬剤を開発し生体脳で可視化することに世界で初めて成功

2024-06-11 09:35:56 |    生物・医学
 量子科学技術研究開発機構(QST)量子医科学研究所脳機能イメージング研究センターの遠藤浩信主任研究員と量子生命科学研究所の小野麻衣子研究員らは、パーキンソン病およびレビー小体型認知症患者脳におけるαシヌクレイン沈着病変を世界で初めて可視化し、その沈着量が運動症状の重症度と関連することを明らかにした。
 
 パーキンソン病やレビー小体型認知症は、αシヌクレインというタンパク質の病的な凝集体が出現し、神経細胞死を引き起こすことが示されている。

 パーキンソン病は、根本治療薬のない進行性の脳の病気のうちアルツハイマー病に次いで多いにも関わらず、αシヌクレイン病変を生体脳で可視化する技術は未確立で、患者が亡くなった後で脳の病理検査(組織を取り出して染色等を行う)により病変を調べない限り、確定診断は行えなかった。
 
 QSTでは、アルツハイマー病の原因となりうるタウタンパク質の病変を世界に先駆けて画像化するなど、異常タンパク質の沈着を生体脳で可視化する技術の開発に取り組んできた。

 そうした開発で得たノウハウを活用し、タウ病変よりもさらに量が少なく画像化が難しいとされるαシヌクレイン病変の生体脳での検出に挑み、2022年に製薬企業との連携でPET用薬剤(18F-SPAL-T-06)を開発した。

 このPET薬剤では、αシヌクレインが多量に沈着する多系統萎縮症という疾患では病変を画像化できたが、病変量が非常に少ないパーキンソン病やレビー小体型認知症では病変の画像化に至っていなかった。
 
 そこで同研究では、αシヌクレイン病変に強く結合する別のPET用薬剤として18F-C05-05を開発し、パーキンソン病やレビー小体型認知症のモデルとなるαシヌクレイン病態伝播マウスおよびマーモセットで、病変を画像化できることを明らかにした。

 次にこのPET薬剤を臨床で評価し、パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者で病変を検出できることを実証した。また、PETで検出されるαシヌクレイン病変の量と、運動症状の進行の間に関連性があることが示された。
 
 今回新たに開発された18F-C05-05は、脳の病理変化に基づくパーキンソン病やレビー小体型認知症の診断や病気の進行度を客観的な評価に利用できることに加えて、治療薬開発時の効果判定にも有用な可能性がある。また、疾患モデル動物と患者の両方でαシヌクレイン沈着を検出できることから、非臨床と臨床をつなぐ橋渡し研究に利用でき、病態解明や治療薬開発を促進することが期待される。<量子科学技術研究開発機構(QST)>
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