はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

島の桜は次々と…

2017-04-15 10:15:23 | はがき随筆






 西之表の暖流桜が満開だ。牧電設の資材置き場横の丘に十数本の暖流桜が咲き誇っている。暖流桜はソメイヨシノに似た早咲きの桜で、主に種子島で多く見られる。この日も家族連れやお年寄りのグループが次々と見に来た。車で通る人も速度を落として眺めて行く。ところで種子島では1月末に緋寒桜、2月に河津桜、そして4月にかけて山桜が緑の山並を飾りつけ、4月までの4カ月勘も、それぞれの趣の異なる桜が楽しめるのだ。島の人々は見慣れていても、関東から移住した者には、この上なく楽しみな〝桜の季節〟である。
  西之表市 武田静瞭 2017/4/15 毎日新聞鹿児島版掲載

あれから10年

2017-04-15 10:07:53 | はがき随筆
 散歩するぼくを必死に追ってくる子犬、降り切れず車で元に戻せばと帰宅すると、宝物が飛び込んできたような妻の笑顔である。遼太郎と命名。欠かせぬ存在になってゆく。縫いぐるみのように眠っていたかと思うと、靴を持ち出してかんでいる。そんな遼太郎にも予防接種の時が来る。犬種、生年月日となると困惑するしかない。
 しかし心強いのは妻で、眉ひとつ動かさず柴犬と記入。花祭りの4月8日とした。時は流れ口の周辺には白髪が増え、すっかりおじさんになった遼太郎は、番犬を自覚しているのか、その役目を果たしている。
  志布志市 若宮庸成 2017/4/14 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆3月度

2017-04-15 09:57:04 | はがき随筆
 はがき随筆の3月度月間賞は次の皆さんでした。
 
【月間賞】21日「ドラマは続く」鳥取部京子=肝付町新富
 【佳作】17日「羽ばたき」山下秀雄=出水市西出水町
 ▽22日「おにぎりの日」堀之内泉=鹿児島市大竜町


 「ドラマは続く」は、父親の遺品の整理に悩む話です。以前とは異なり、どの家庭も不用品があふれている実情では、引き取る遺族も少なく、結局は公の焼却炉へ。悲しいし、もったいないが、生活の次のステップへ進む一過程と割り切らざるをえないようです。その割り切り方に好感をもちました。
 「羽ばたき」は、知人の退職祝いの会に招かれたときの感想です。現役のとき、異業種交流を主張されていただけに、参加者もまた異業種交流。歓談の後には、ご本人の鶴の鳴きまねの余興まで飛び出し、退職後のご活躍も想像できて。往々にして湿っぽくなる送別会が、明るい将来のある会になりました。
 「おにぎりの日」は。子供のとき、おにぎりの日があり、ご飯と具材とが並べてあるだけの料理だが、兄弟それぞれのおにぎり作りが楽しかったという内容です。今になっては、母の料理をしたくない日だったのだろうと想像できますが、子供たちには大満足のメニューでした。子供の歓声が聞こえてくるようです。
 この他に3編を紹介します。
久野茂樹さんの「3人の師」は、率直さが、読む人に快さを与えてくれます。軍人の父からは「愚直さ」を、早逝の友人からは「信じきること」を、妻からは「他人と比べず自分を生きること」を学んだ。この3人の師が与えた宝はこれからの人生の指針でもある。
 宮路量温さんの「初音」は、鶯の初鳴きのぎこちなさと、お孫さんの祖父母を呼ぶときの片言と比べて、そのもどかしさを楽しんでおいでの文章です。浅い春に、鶯の鳴き声の変化と、お孫さんの成長とを待ち遠しく感じているている時間は、おそらく幸福というものでしょう。
 脇田博さんの「ふるさと鹿屋探訪」は、柏市からの旧居再訪の文章です。終戦前後に住んでいた街も家並みもすっかり変わってしまっていたが、ギブ・ミイ・チュウインガムの世代の思い出はしっかりと残っていた。旧家の姿と旧懐の念とがこれからの生活の励みになりそうです。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦 2017/4/14 毎日新聞鹿児島版掲載


みきこばあちゃん

2017-04-15 09:27:06 | はがき随筆
 「みーちゃん、みきこばあちゃんと呼ばれるその日まで元気で生きるんだよ!」。20歳になったばかりの一人娘に私はしょっちゅう声をかける。たまにはギュッとハグをして……。
 どこの親後さんも同じ思いだろうが、たった2人家族なので、私がいなくなっても健康で元気に生きて、できれば結婚して、子供を作り、孫ができて「おばあちゃん」と呼ばれるまで生きてほしい。どこまで見とどけられるかわからないが、娘が「みきこばあちゃん」と呼ばれることを想像して、ウフフと笑っていると、なんだかとっても幸せな気持ちになる。
 鹿児島市 萩原裕子 2017/4/13 毎日新聞鹿児島版掲載

霧散霧消

2017-04-15 09:21:18 | はがき随筆
 ずっと昔、中学生向け月刊雑誌に「ペンフレンド募集コーナー」なるものがあって、興味半分で申し込んだら運よく私の住所と名前が掲載された。さあ、それからが大変。毎日毎日全国の女子中学生から10通以上の封書が届くことに……。悪友と2人で「こいつは字が下手だからダメ」とか勝手なことを言いながら、本命を絞るべく〝選抜〟作業をしたのだった。調子に乗って「きみの顔写真を送ってください」などとも。
 で、結局文通騒ぎの結末はどうなったのでろう。佐賀県鳥栖市の女の子を最後に霧散霧消したのでした。
  霧島市 久野茂樹 2017/4/12 毎日新聞鹿児島版掲載


傘寿を前に

2017-04-15 09:14:41 | はがき随筆
 1月10日スーパーで買い物のついでに血圧を測った。高い! 
 急ぎ帰宅しクリニックへ。更に上がって降圧剤をのむことに。5人家族の家事を元気にこなしているが大いにあわてた。
 血圧計も買い測定。減塩、体操、ブランコを大きくこぐこと100回、お陰で長寿検診も合格。脳のCTも異常なくホッとした。傘寿のお迎えが来たら「まだ役に立つヨ」とお帰りいただくのだそうだ。
 来年は2人の孫の大学、高校の受験もある。家族の者の心を乱さぬよう、更に役に立てればありがたいことである。来る6月1日に80歳の大台に乗る。
  鹿児島市 内山陽子 2017/4/11 毎日新聞鹿児島版掲載

散髪の思い出

2017-04-15 09:05:01 | はがき随筆
 棚の片隅にバリカンの箱を見つけた。半世紀も前に活躍したものだった。その頃、遊び盛りの子は散髪を嫌がり逃げ回っていた。おやつのアメ玉が口の中で転がっている間に急いでバリカンで刈り上げる。
 ところが急に横向きされ、思い切り突っ込んでしまう。再々の失敗はまるで段々畑を見るようだった。
 遊びに飛び出す子に無理やり帽子をかぶせて送りだす。やがて帰ってきた子の様相は泥だらけ、しかも段々畑の丸出しである。思い出すだけで笑いがこみ上げて、片付けを中断して当時を懐かしむ。
   鹿児島市 竹之内美知子 2017/4/9 毎日新聞鹿児島版掲載