はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

老いる

2017-02-26 22:00:31 | はがき随筆
 今季一番の冷え込み。大霜が降り冬枯れの山肌が白く、朝日にキラキラ光っている。
 朝ゴミ出しに行く。いつものようにKさん宅のガレージに目をやる。高齢のご主人が椅子に座ってデイサービスのお迎えを待っておられたので声かけをしていたが、もうその姿は見られない。昨日はお葬式だった。
 花木を育てるのがお好きで人の目を楽しませてくださったが、春を待たずに逝かれた。近隣をボツボツ歩いておられたHさんも姿を見なくなって久しい。
 我が身の老いも見つめ、人生を生き抜く尊さと、命の重さがズシンと胸に納まる昨今です。
  鹿児島市 内山陽子 2017/2/22 毎日新聞鹿児島版掲載

身だしなみ

2017-02-26 21:43:36 | はがき随筆
 


 おしゃれとは無縁の私に帰省の子らが、年を重ねるほど明るくきれいな服を着るようにとアドバイス。身だしなみに気をつけろということか。老いては子に従え! 起床と同時にパジャマからセーターに着替える。遠のいていた美容院へも足を運ぶ。白髪のままでも調髪をすると様になる不思議。以来毎朝鏡に向かうことにしている。
 ある朝、ぬれ縁に毛繕いしている猫とふと目があった。「おう! お主も身だしなみに気を配っているのか」「そうなのニャー」
 以来、猫に倣ってというより猫と張り合っている私がいる。
  鹿屋市 門倉キヨ子 2017/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

おみやげだよ

2017-02-26 21:37:00 | はがき随筆
 「ひいばあちゃんには何をあげようかな。そうだこれをあげる」
 そう言って差し出したのは、お医者さんセット。注射器や体温計、薬、聴診器が入っている。「これは、おもちゃの注射器だからチクッとしても痛くないよ。早くよくなってね」と、にっこり笑う。
 隣に住むおいっ子家族の長男坊。昨年、保育園でつくしんぼう取りに行ったときにはつくしを、ブドウ狩りに行ったときにはぶどうを、「はい、これ、おみやげだよ」と届けてくれた。優しい心づかいがうれしかった。
  出水市 山岡淳子 2017/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

鳥たちの落とし物

2017-02-26 21:23:57 | はがき随筆
 


野鳥が庭に落とした万両が自然に発芽し、いま赤く色づき、日ざしを浴び、まるで宝石のように光り輝いている。昨年は正月を待つことなくあっけなく鳥に食べられ寂しい思いだった。
 今年は「せめて正月三が日までは食べないでほしい」という私の願いが届いたとみえて、殺風景な真冬の庭が実に美しい。私の肌とは程遠い、つやつや、てかてかの真っ赤な実に頬擦りしてみた。冷たく気持ちいい。幸せ。ピーピーチュルチュル。庭先でさえずる鳥たち、「もう、食べてもいいよ」。
 だってあなたたちが植えてくれたんですものね。
  指宿市 外薗恒子 2017/2/18 毎日新聞鹿児島版掲載

山眠る

2017-02-26 21:16:38 | はがき随筆
 霧島神宮参りをして、ここから烏帽子岳の往復をしようとなり、冬の山を味わえると参加した。緑葉樹の森を過ぎ、突然現れた高原ではクヌギ、コナラの木々が葉を落として裸の様相。寒々とヒューヒューとした音が響いていた。しばらくして名も無き滝は少しの流れとツララが下がっており、まさしく酷寒の地を訪れたみたいだ。恥ずかしげに少し積もった山道の雪を踏みつつ、ようやく山頂である。
 帰る途中、千里の滝にも寄って、約6時間の行程に疲れもあったが静謐の山に満足して「山眠る」を実感した。
  鹿児島市 下内幸一 2017/2/17 毎日新聞鹿児島版掲載
 

2人暮らし

2017-02-26 21:08:41 | はがき随筆
 「もうイライラする。アータにゃ自由などなかとバイ。みんな学校で勉強しとっとバイ」とおばあさんは、片足骨折で入院し宿題を嫌がる反抗的な小学4年のヤンチャな孫を息を殺した小声で叱っておられた。沈黙の後、申し訳なさそうに「ごめんね」と孫を抱きしめられていた。
 後日、おばあさんから私に話しかけてこられた。「娘が死んだんです。孫と2人暮らしです。小学1年の妹は婿側に引き取られました」。先日、2人は退院していかれた。自分の放射線治療を受けながら「2人暮らし」が気にかかる。
  出水市 塩田幸弘 2017/2/19 毎日新聞鹿児島版掲載