はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

美しい半月板

2008-02-05 10:48:06 | アカショウビンのつぶやき
 昨年秋から膝の痛みを訴えて両手に杖を持ち、整形外科、整骨院、鍼、灸とあらゆる手当を試みた姉が、とうとう鹿児島の病院で半月板の手術を受けた。
 子供の頃からO脚だった姉は、50代で<変形性膝関節症>を患い、その後、長いあいだ小康状態が続いていた。70代後半で痛みがぶり返し、こともあろうに長年のO脚を自己流で矯正しようと無理な運動をしたらしい。バリッと音がしたと言うほど激しい運動だったらしく、それ以来、両手に杖でもやっと…と言う状態が続いていた。知人に何か紹介されると藁をもつかむ気持ちで、次々に試してみたが痛みは取れなかった。そんな時、鹿児島市のある病院の外科手術で多くの方々の膝の痛みが取れた、と聞くや「診察だけでも行ってみたい」と。
 診察の結果は予想通り<半月板損傷>。「内視鏡で膝内部の様子を見ながら、痛みの原因を調べ取り除きます、あなたの痛みは私が治しますよ」と言う力強いドクターの言葉にかけた姉は、昨日笑顔で手術室に入っていった。
 オペの模様はモニターで見せていただいたが、いわゆるお皿に2ヵ所穴を開け、内視鏡で見ながら傷んだ半月板をハサミのような道具でチョキチョキ切り取る。フワフワの羽毛におおわれたような半月板はとっても美しい。最後に屑を取り除いて終わり。術後、家族への説明では「半月板の損傷は予想以上にひどく、完全に痛みを取り除くのは難しいでしょう、これから足底板治療やリハビリで痛みを改善しましょう」と。本人もこれで100%治るとは思わない…と言ってるので、ドクターの説明に大きく落ち込むことはないと思うけれど…祈るような気持ち。今朝はまだメールが来ない。往復4時間の鹿児島は遠い。

厄払い

2008-02-05 10:37:55 | はがき随筆
 節分の夜、母に連れ出された。
 十字路になっている橋のたもとで立ち止まると、かっぽう着のポケットからくしを取り出して折り、流れに落とした。
 わたしの厄を払うためだという。
 こんなことをして、厄から逃れられると、母が信じていたはずはないのだが……。
 娘の幸せを願う母の祈りを引き継いで、いつかわたしも睦美を連れ出すだろう。コンビニからラップのリズムが流れているかもしれない夜の十字路へ。
 あの夜は、犬の遠ぼえが聞こえていたような……。
   鹿屋市 伊地知咲子(71) 2008/2/5 毎日新聞鹿児島版掲載

すきなもの

2008-02-05 10:32:19 | はがき随筆
 「鍋だからおいで」とお招きがあった。一緒にひとしきり食べた孫がはしを置いて「あれないの」と母親に聞く。この上何があるのかしらとけげんな顔をして待つと、しゃぶ肉を持ってきて鍋へ。だしのいっぱい出た汁をくぐらせて「はいどうぞ」と彼はうれしそうに食べ始めた。いかにもうれしそうに。
 すきなものを適量食べて満足そうである。ともすればあるものを食べて一食としがちな私。見習って工夫すると彼のように喜びもわくことだろう。ものを植えても、食べることより花を咲かせることに期待して、大根も菜も春菊も花になりがちだ。
  鹿児島市 東郷久子(73) 2008/2/4 毎日新聞鹿児島版掲載

小正月

2008-02-05 10:26:22 | はがき随筆
 私の郷里、内之浦には「ナレナレ棒」という小正月の風習があった。子供衆が果実のなる木の幹を棒でたたくのである。棒はイヌビワの枝。皮をはぎ墨で黒の巻き模様をつけて刀に見立てて「ナレナレ○○の木、ならんとすれば根から葉からすっ切っど」と歌いはやしながら集落の家々を回り、お礼にお餅などをもらう。
 大正月の華やいだにぎわいもごちそうも消えた後に、もう一度やって来る催しだから何ともありがたい。不思議な刀やどこか呪術めいたはやし文句に、作物の恩や労働の尊さへの祈りが込められていたのであろう。
   鹿屋市 上村 泉(66) 2008/2/3 毎日新聞鹿児島版掲載