はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

世紀の天体ショー

2009-07-29 21:10:23 | かごんま便り
 雨音で目が覚めた。時計は午前4時過ぎ。外は土砂降りだ。夜が明けるに連れて小降りになったが空は真っ暗。あと数時間で世紀の天体ショーを迎えるはずなのにだ。

 日食にお目に掛かるのは個人的には78年以来。高校の校庭で、望遠鏡で投影された「欠けた太陽」を見たのを思い出す。今回は、日本の陸地で見られる46年ぶりの皆既日食。皆既帯は県内のごく一部の島々だけで、現地に記者を送り出した代わりに私は「お留守番」だったが、鹿児島市でも食分(直径に対し欠けた幅の割合)0,96というのは皆既と紙一重だ。調べると31年前の食分は0,28。当時この程度で感動したのだから、これはすごいぞと期待していたところへ例の天気である。

出社して取材に散った記者たちに確認すると「今世紀最長の皆既」となるはずの悪石島を筆頭にどこも芳しくない。期待が持てそうなのは喜界島くらいだ。分厚い雲を横目で見つつ夕刊の原稿をさばいていると、支局周辺でもちょっとだけ日が差した。雲越しに半月状の太陽が見える。路上で日食グラスをかざしている人もちらほら。

 そのうち周囲がみるみる暗くなった。時計は間もなく午前11時。車は前照灯をつけ、ほとんど日没後の雰囲気である。仕事の手をしばし休め、昼間に突然訪れた夕暮れを味わう。悪石島ほどの闇には至らなくとも「皆既と紙一重」の気分は十分感じることができた。

 それにしても、運動会で転がす大玉と米粒ほども大きさの違う二つの天体の、見かけの大きさがほぼ同じというのは何という偶然か。加えて太陽の通り道(黄道)と月のそれ(白道)とが交差するから起きる訳で、天の配剤に驚くほかない。古来、天変地異や政変の前触れと恐れられたのも分かる(後者は、現代でもひょっとするかも?)。

 さて次は26年後の北関東か。いや、その前に3年後の金環日食がある。

鹿児島支局長 平山千里 2009/7/27 毎日新聞掲載

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