月間賞に黒田さん(熊本)
佳作は福島さん(宮崎)、川嶋さん(熊本)、宇都さん(鹿児島)
はがき随筆3月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】19日「草と木と土と」黒田あや子=熊本市東区
【佳作】5日「命の重さ」福島洋一=宮崎市
▽10日「3月3日」川嶋孝子=熊本市東区
▽31日「ダモイ」宇都晃一=鹿児島県姶良市
「草と木と土と」は、自宅の庭と関わって来た長い歳月をふりかえる作品です。庭の老朽に自分の老いを重ねて。それがたとえ「草取りと落ち葉掃きに追われ」ただけであったとしても、庭にかかわる事物の一つ一つはかけがえのないものでした。ですから、それらに別れを告げる言葉は寂寥を突き抜けて深い安息に導きます。心うたれました。
「命の重さ」は、昨年末に生まれた孫を初めて抱くという経験。あらかじめ5㌔入りのコメ袋を抱えて練習したというところには、思わず微笑を誘われます。実際は「米袋に比べれば軽めだったが、代わりに命の重さをずしりと感じた」という展開には、一転して厳粛さが表されます。この作品がいつ書かれたかはわかりませんが、私たちが読んだのは、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、破壊と殺傷の報道に誰もが心を痛めていた頃(今もなお)でありましたから、その「重さ」は深い共感を与えました。
「3月3日」は、雛祭りにちなみ、ウクライナの悲惨な状況から昭和20年の熊本大空襲の体験を回想するもの。作者は、焼夷弾の降る中を逃げ、川に首までつかって一夜を明かし、翌朝は我が家の跡形もない焼け野原を目にしたとのこと。戦争体験を持つ方々の言葉は、惨劇の映像を遠い世界のできごとにしてしまわない重みがあります。
「ダモイ」は、ロシアの戦車に向かってウクライナ人が拳をあげて「ダモイ」と叫ぶ姿をテレビニュースで見て、戦後の復員兵から聞いた話を思い出したとのこと。シベリア抑留者たちは、「ダモイ」を合言葉に寒さと飢えと強制労働に耐えたのだと。それはロシア語で「故郷へ。故国へ」の意。復員兵が持ち帰り、戦後の一時期流行した言葉でした。ウクライナの現在と日本人の戦後、言葉の向きは違っても、「ダモイの二つの意」はたしかに「深い」。
戦争と歳月とが、心を深くし言葉を重くした三月でした。
熊本大学名誉教授 森正人
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