はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆1月度

2014-02-27 18:32:11 | 受賞作品
 はがき随筆の1月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)
 
月間賞】14日「巡る1年」年神貞子(77)=出水市上知識
【佳作】1日「サザンカの花」竹之内美知子(79)=鹿児島市城山
▽25日「密航船」森孝子(71)=薩摩川内市祁答院下手


 巡る1年 新年とともに期待される草木の香りを列挙した、匂いづくしとでも名づけられる、華やかな文章です。何なにづくしという文章の書き方は、『枕草子』以来の伝統で、簡単に見えて意外と難しいものです。それは豊かな語彙が要求されるからです。本誌の「余録」欄に、匂いのする小説家のことに触れていましたが、匂い豊かな文章になりました。
 サザンカの花 山茶花の花咲く季節になり、かつての子息の選定の失敗に対する、亡き夫君の反応を思い出したという内容です。夫君の寛大さを、ほほ笑むように咲いている山茶花の印象に重ねたところに、あたたかい雰囲気が流れて、いい感じの文章になりました。
 密航船 奄美復帰60年で思い出すのは、小学6年の時のみんなの喜びと、子どもたちのために密航してまで、教科書を持ち帰ろうとした教師たちが居たということ。一言でいえば密航船で済まされますが、その持っている歴史的な意味の重さを考えさせる文章です。
 3編を紹介します。
 馬渡浩子さんの「夫、耳を負傷す」は、夫婦間の感情の機微に触れた文章です。ご主人が耳を5針も縫うけがをしたら、その直前の自分の物言いが悪く、それがけがの原因ではないかと気になったという内容です。これも夫婦の絆でしょう。
 畠中大喜さんの「1本のツバキ」は、子供の頃住んでいた屋敷跡を訪れてみると、既に荒涼としていて、1本の椿の木だけが残っていた。そこいらで遊んだ子供の時を知る唯一の生き証人のその椿の幹をそっとなでて帰ってきた、という内容です。過ぎ去る時間のもつある種の感慨を感じさせてくれる文章です。
 若宮庸成さんの「我が家の元旦」は、夫婦2人だけで過ごしたことが淡々と語られています。おそらく2人だけの元旦という方は、かなりの数に上ることでしょう。元旦の行事(?)として、お年玉と奥さまの日常を記した日記帳とを手渡したというのは、素晴らしいことだと感じました。
  (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)

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