はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

あふれる思い「圧縮の美」

2007-06-17 18:12:16 | グランプリ大会
はがき随筆大賞に古賀さん(佐賀)
    優秀賞に久保さん(飯塚)、海汐さん(宮崎)
第6回毎日はがき随筆大賞(毎日新聞社主催、RKB毎日放送、日本郵政公社九州支社後援)の発表・表彰式が10日、北九州市小倉北区のステーションホテル小倉であった。「大賞」には妻の静養にと引っ越したマンションでの新生活を描いた佐賀市、古賀弘史さん(71)の「近況報告」が選ばれた。また「恋」をテーマに募集した「毎日はがき随筆文学賞」は、弓道部の先輩の思い出をつづった鹿児島県出水市、清水昌子さん(54)らの4編が大賞に決まった。
 随筆大賞は、毎日新聞の九州・山口各地域に掲載されている作品から選ばれた06年の各地区年間賞11編を直木賞作家の佐木隆三さんが審査した。大賞に次ぐ優秀賞は福岡県飯塚市、久保美佐子さん(80)の「慕情の鈴」と宮崎市、海汐(うみしお)千乃さん(72)の「おばあちゃんの餞別」▽RKB毎日放送賞は長崎県平戸市、西哲男さん(84)の「死に甲斐(がい」▽日本郵政公社九州支社長賞は北九州市八幡東区、矢野朔男さん(83)の「珍しい人」―――にそれぞれ決まった。
 一方、今年が2回目となる文学賞には93歳から18歳までの男女計268人が応募。毎日新聞西部本社の加藤信夫編集局長らが審査し、大賞に清水さん▽鹿児島市、鵜家育男さん(61)▽北九州市小倉南区、加来慎志さん(41)▽同市小倉北区、豊浦美智子さん(50)―――の作品を選んだ。
 式には約150人が参加。RKB毎日放送のラジオ番組パーソナリティ、中嶋順子さんが朗読する各受賞作に聴き入った。各地区ではがき随筆の普及などに功績のあった米良武子さん▽前田昭英さん▽長谷目源太さん▽山川敦子さん―――への感謝状贈呈もあった。

大賞・受賞に喜びの声
難しいが楽しい
頭を使うのは数独の比ではない 佐賀市 古賀弘史さん
 「名前が呼ばれた時、月並みですが、頭が真っ白になりました」
昨年8月、妻冨貴子さん(73)の手術を機に、佐賀市中心部のマンションに転居した。散歩中に思い浮かんだ日常の暮らしぶりをまとめた。8月31日付で掲載された作品は同月の月間賞に。「8年前から投稿し、月間賞は何度か頂きましたが、まさか年間賞になるとは……」。最終的に九州・山口のトップに登りつめた。
 「250字に収めるのはいつもひと苦労。頭を使うのは数独の比じゃありません。難しいが楽しい」。受賞作は比較的すんなり書けたといい「それが良かったのかも」
 帰宅して受賞を告げると冨貴子さんは「へえー」と一言だけ。「自分のことが書かれていて照れもあったのでしょうが、副賞の万年筆をしみじみ眺めていました」。所属する佐賀・毎日はがき同好会の仲間から御祝いの電話をもらい、実感がわいてきたという古賀さんは「これからも書き続けます」と意欲を見せていた。

大賞・受賞作品の紹介
「近況報告」
 病を得た妻の静養にと静かなマンションの12階に移った。3LDKとはいえ、隠れ家的な15坪は50坪から移り住むにはいかにも狭い。2部屋は物置と化し、残り2部屋もテレビあり机ありで生活空間は3畳2間となった。
 しかし、病床の妻をまたいで物を取りに行くたびに、失われがちだった夫婦の会話が復活していくみたいだ。
 驚くほど静かな朝6時、ベランダから眺める背振、天山の美しさに息をのみ、ふり返ってまた息をのむ。座るところがない。 「すごさ」ではセレブのそれに劣らない。ともあれ楽しい新居である。よろしく。


優秀賞受賞 喜びの声
夫を思い出しながら   飯塚市 久保美佐子さん
よく推敲せずに出し、後からしまったと思うこともしばしば。受賞にはびっくりしました。月1回投稿しており、受賞作は万年筆や指輪もさりげなく贈ってくれた夫を思い出しながら書きました。鈴は今も鍵につけて持ち歩いています。

受賞作品の紹介
「慕情の鈴」
 「鈴って、案外高いものだなー。おっと失礼」と言ってプレゼントしてくれた鈴。チリリン、チリリンと、透き通るように美しい音色と、小手鞠のように細工された絵柄は、見ただけで高価な品と分かった。早速、家の鍵と共につけた。間もなく夫はあの世に旅立ち、鈴は形見となった。夫を思い出し、哀しさ、寂しさに鈴を抱きしめよく泣いた。そのつらさに耐えかね、鍵から外し、鈴の音を聞かないようにしたが、亡夫への慕情は募るばかり。すぐに元のところに戻した。15年の歳月が流れた今もチリリン、チリリンとささやきかけてくれる。


優秀賞受賞喜びの声
うれしい驚き  宮崎市 海汐 千乃さん
 投稿歴8年ほどでの受賞はうれしい驚きです。長男が学生時代、帰省の折に母は孫にこっそり小遣いを渡し、彼は東京の下宿で泣いたそうです。まさか包み紙をずっと残しておいたとは。世事に疎い印象だった息子の別の一面を見つけました。

受賞作品の紹介
「お婆ちゃんの餞別」  
 母は7年前、89歳で他界した。
 その葬儀で、私の長男が弔辞を読んだ。彼は折り皺のついたティッシュを出すと、遺影に呼びかけるように切り出した。「お婆ちゃん、この紙覚えていますか。20年前僕が学生だったころ、空港で頂いたお金を包んでいたティッシュです。その時はラッキーと思いましたが、後で涙が出てきました」
 後で聞いたところによると、彼はそれを日記帳に挟み、大切に保存していたと。私は彼の別の一面に触れて胸が熱くなった。紙の表には「勉強をがんばりませう」という見慣れた母の文字が書かれていた。

RKB毎日放送賞受賞 喜びの声
老後の良い楽しみ   平戸市 西 哲男さん
 80歳になって書き始めたので、賞を頂いていいものかと恥ずかしいような気持ちです。随筆がきっかけで書くのが好きになり、文芸誌の同人だった仲間で小冊子を作ったり、老後の良い楽しみができました。受賞がまた励みになります。

受賞作品の紹介
「死に甲斐」
 ミシミシ、ギーギーの音で目が醒めた。深夜である。強盗か? 傍らの黒カシの木刀を取って握り締めた。妻は老人施設に入っている。後顧の憂いはない。どうせ死ぬなら悪者を懲らしめたい。闘争心が沸き上がってきた。
 また奥の間でミシっと音がした。「おい、出てこい」と叫んで障子をさっと開けて構えた。誰もいない。人の気配もない。電灯をつけた。妻のタンスが傾いていた。根太が腐って畳もろとも落ち込んでいた。
 私は拍子抜けして独り笑いした。「死に甲斐」という言葉を思い出したが、どの国語辞典にもなかった。


日本郵政公社九州支社長賞受賞 喜びの声    
妻と評価し合い 北九州市 矢野 朔男さん

 釣りでの体験は、人の良い所を素直に取り入れよう、と相手の話を聞いたからこそでした。はがき随筆も一緒。妻の影響で投稿を始めましたが、日ごろから2人で作品を評価し合ったことが今回の受賞につながったと思います。

受賞作品の紹介
「珍しい人」
 釣りのある日。右側の人が実に良く釣る。何度目か視線が合った時、さおを置き、すたすたとやって来た。「あんた釣れんなあ」「はあ」「どれ見ちゃろう」。仕掛けを見て「これじゃ効率が悪い」と引き返し、自分のを持ってきた。「わしが作ったんじゃ。あんたにあげよう」と付け替えた上、釣れるコツまで教えてくれた。礼を言い名前を聞くと「名乗るほどのもんじゃない」と笑った。苦心して身に着けたコツを惜しげもなく他人へ、こんな珍しい人もいるんだと敬服した。やがて釣れだして目が合ったら、あの人が頭の上に両手で大きな丸を作って笑った。


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