はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

神の手

2020-11-09 21:47:30 | はがき随筆
 珍しいカタツムリ、ケマイマイを見つけたと先日の随筆に書いた。小学1年生の孫が、ケマイマイと普通のカタツムリの観察を、夏休みの自由研究のテーマにした。
 この観察が、県内の自由研究コンクールでの小学生低学年の部の特別賞に。種類の違う2匹の行動の特徴を絵日記風に描き、与えた餌や糞をチェックし、餌の好みや気温や湿気による動きの方の違いなど、気づいた点を60日間毎日記録している。
 受賞を一番喜んでいるのは、2匹を偶然捕まえたばあば。受賞の起因となったばあばの「神の手」に孫も感謝している。
 鹿児島市 高橋誠(69) 2020/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

大嫌い

2020-11-09 21:40:22 | はがき随筆
 今年の夏はチョウが多かった。アゲハがひらひら何匹も飛んでいた。黒一色、黒に黄色、水色と鮮やかな色合いだが前身を思うだけでゾッとする。もこもこした形、いやな臭いを想像し身震いする。苦手で大嫌いな芋虫。暑さにかまけ、庭にでるのもおっくうで草も伸び放題、消毒も1回だけ。虫たちには天下だったのかもしれない。
 子供たちが小学生だった頃、「チョウになるよ」とプラ容器に入れて持ち帰ったのを一目見て「捨てて! 気持ち悪い」と怒鳴った。あまりにも激しい私の口調に驚いたのか、彼らも芋虫系が苦手となってしまった。
 宮崎県延岡市 島田千恵子(77) 2020/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

私の夢

2020-11-09 21:26:30 | はがき随筆
 「今日からおばさん学生頑張ってね」と夫。「ママ、おめでとう、私が勉強教えてあげるね」と娘。10年間抱き続けた夢が今年3月やっとかなった。
 現在は、看護学校と家庭との両立に目まぐるしい毎日を送っている。机に向かって勉強をするのは久しぶりで戸惑いを隠せない。しかし、疑問に思っていたことが解決できた時は、入学できて良かったとつくづく思う。
 できる事なら、将来は実家の近くで活躍し両親に恩返しをしたいと思う。新たな夢に向かって日々精進しているところである。
 熊本県嘉島町 川尻絵津美(45) 2020/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

私は霊を見た

2020-11-09 21:18:31 | はがき随筆
 東京の最高地点雲取山。山頂直下の小屋にいまだ明けきらぬ頃たどり着いた。小屋の中は意外と明るく、奥にカップルが休んでいただけで、静かな時間。会釈をして先客が出て行くと、我々も重い腰を上げ出発した。
 夜が明けて歩き始めると、ある疑問が離れない。あの2人は? 登りも下りも視界を外れるには優に1時間はかかる距離なのに姿がない。1人がその疑問を発すると私も、俺も……皆叫んだ。服は何色? 顔の形は? 
 声は高い低い? すべて皆答えられない。後日談がある。その後、その小屋を見たことが私はない。
 鹿児島県湧水町 近藤安則(66) 2020/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載 

なっさけねえなあ

2020-11-09 21:09:12 | はがき随筆
 空を見上げた。天高く、遠く一面に澄んだ青色が広がっている。ミツバチの羽音をくぐって、畑の隣からおばあちゃんたちの会話が聞こえてきた。
 この間、米寿を過ぎたと言っていた。しばらくすると、野菜のお裾分けが話題になった。
 ふと「歯がいてえ」「病院行かにゃ」「行ったらよ、休みじゃった」「なっさけねえなあ」。
 深くため込んだ「情けない」の一言が、つんと心に染みた。「悔しかったね」と寄り添う一言に「ありがとう」と続いた。
 視線を落とすと、目の前の青ジソの下にこぼれた小さな花弁がライスシャワーに見えた。
 宮崎県都城市 平田智希(44) 2020/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

靴を買う

2020-11-09 21:02:21 | はがき随筆
 今一番気になっているのが靴である。季節が移ろい夏のサンダルに変わるシックなシューズが欲しくて店内をまわる。
 靴選びほど難しいものはない。色、形、値段、履き心地とねばって選んでも、家に帰り履いてみると不都合が出てくる。なんとなく窮屈だと手が伸びない。お金持ちだとオーダーでさぞかし履き心地の良い靴をお持ちだろうが、庶民はそうはいかず諦めの境地になる。
 白っぽい服にあわせグレーのシューズに決めた。チャックがないので紐は靴の奥に押し込み履く。面倒くさがりなのでこれでいい。いつ外出しようかな。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

ご安全に

2020-11-09 20:54:49 | はがき随筆
 鹿児島のペンクラブT会長は、歴代最年少で就任した。事務局を預かる私とは2学年差。なので勝手に、部活の部長か従兄弟のような感覚でいる。
 今年はコロナの影響で、春先の役員会も総会も中止になった。会の連絡は、専らメールのやり取り。要件の後に、私事や疑問を書き添えると、丁寧な返信が届く。芝居好きの私が、劇場再会で上京すると報告したら「ご安全に」との言葉が。
 思わず朝ドラの「ひよっこ」を思い出したが、北九州工業地帯で育った会長には、生活に根付いた言葉なのだという。私の知らない世界がまだあった。
 鹿児島市 本山るみ子(67) 2020/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載