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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

逆転の瞬間

2016-07-28 22:28:42 | はがき随筆
 「やったぁ」
 テレビの前で飛び上がり叫んだ。正気のさたではない(笑)。どこにそのような力を蓄えていたのだろうか。
 春の選抜高校野球大会。鹿児島実業が逆転で初戦突破したときのことです。大会初日、強豪校の常総学院との対戦は内心ハラハラしながら試合の成り行きを見守った。逆転のチャンスがきたその瞬間、テンションは上がり、立ち上がっての声援。
 年がいもなくはしゃぎ過ぎたせいか、すっかり疲れ切ってしまい、のどの渇きを感じて水分補給に立ち上がった。
  鹿児島市 竹之内美知子 2016/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載

家族に乾杯

2016-07-28 22:22:55 | はがき随筆
テレビで「家族に乾杯」という番組があります。いつも興味をもって見ています。鶴瓶さん、今日はどんな人に会えるかな。「こりゃ人がいないわ」と独り言を言いながら歩いていますが、彼独特の方法で人をみつけ、話を引き出していきます。話術の巧みさ、聞いていて自然とその話に引き込まれ、そこに笑いが生じます。家族のきずなを大切に一生懸命に生きてきた人々の息遣いが感じられます。
 若者が少なくなり、年寄りが多くなっても、できることは自分で、お互いが助け合って暮らそうとする雰囲気が伝わって、感じ入ってしまいました。
  鹿児島市 津田康子 2016/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載

少女

2016-07-28 22:15:26 | はがき随筆
 年に数回、親が残した畑の草刈りに精を出す。運動不足の私には唯一、汗を流すひとときである。一服どきに近くの少女が「おじちゃん、どうぞ」と小さな手のひらの飴を差し出した。
 久しぶりの見た少女も小学2年生になり、時の流れの速さを感じ飴を頂いた。お礼に畑に咲いているマーガレットを数本渡した。しばらくして少女はお母さんと来て、私の似顔絵を描き「おじちゃん、お花ありがとう」と添え書きをしてくれた。
 子供置き去り事件があった昨今、この母娘の心尽くしに少女の未来が楽しみになり、草刈りの疲れが癒された。
  出水市 宮路量温 2016/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載

松永文庫

2016-07-28 22:08:44 | はがき随筆
 本紙の「火論」でも紹介された「松永文庫」は北九州市門司区にある。長年の映画資料収集の功績が評価され、日本映画批評家大賞特別賞の受賞となった。すぐお祝いの電話を入れた。
 私は卒業後、文字に赴任して松永さんにクラシックギターを教わった。ギターはとんと上達しなかったが、練習後、奥さまの手料理をいただき、映画や音楽の話を聞くのが楽しみだった。
 自宅には日本映画の脚本、パンフレット、新聞記事などが所狭しと置かれていた。映画監督になる夢を諦めて、地道に資料収集をされていた。あれから50年。再会を楽しみにしている。
  鹿児島市 田中健一郎 2016/7/13 毎日新聞鹿児島版掲載

幼き日の父の像

2016-07-28 22:01:54 | はがき随筆
 父は私と妹を、海水浴へ連れて行った。深い海は怖かったが父は泳ぎ方を導いてくれた。腹ばいの形になり両膝を伸ばし、バタ足の練習をする。山のようなしぶきがあがった。バタ足は身体が左右に揺れ動き、浮き沈む。父の肩につかまると筋肉の塊だ。偉大な背中に手で触ると岩石のごとく硬かった。
 仕事好き、子供好きの父は常に末っ子には手を差し伸べてくれた。ある日、銭湯に新しいげたを履いて行き、古いげたで帰宅した。近くに盗人がいたとか……。明治生まれの父よ、ありがとう。バタ足もオリンピックで〝日の丸〟を掲げよう。
  姶良市 堀美代子 2016/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

アジサイ

2016-07-28 21:52:09 | はがき随筆

 細かな花々が寄り集まって、毬のように膨らみ咲くアジサイ。道沿いに今、あちらこちら美しい。ここにもあったのか、と気付くこの梅雨の時期。あの人も好きであった。よく車で送り迎えをした。雨の中を傘でテクテク歩いている姿によく出くわすので、どうですか、と声をかけて乗ってもらった。同じ会社であるし、方向も同じであるから。わずか数分間のたあいない会話だったが、それがとても楽しみだった。やがて私も退職し会社もなくなってしまった。彼女も結婚して元気でいるだろうか。水滴で輝く小さな花々でふと思い出すあの日々である。
  出水市 山下秀雄 2016/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載

一日の始まり

2016-07-28 19:33:18 | 岩国エッセイサロンより
2016年7月28日 (木)
   岩国市  会 員   上田 孝

 我が家の夫婦の会話は、朝刊にある川柳の批評で始まる。二人が読み終えると、それぞれに気に入った句、面白くなくてどうしてこんなのが載ったのかと思う句について言い合う。
 カミさんは、すでに世の中で言われていることでも、うまく五七五に詰め込んだ工夫を評価する。私は掲載狙いではなく、経験に基づく自然体の句が好みだ。
 時には、面白いものとつまらないものの評価が正反対になる。そんな時には、長年一緒に暮らしていても笑いのツボは全く近づいていないんだなと改めて思い知る。
(2016.07.28 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

郷土の大音楽家

2016-07-28 19:32:11 | 岩国エッセイサロンより
2016年7月26日 (火)
  岩国市  会 員   角 智之

なつメロファンの仲間から往年の作曲家であり歌手の林伊佐緒のCD全集を借りた。
 明治45年生まれで、下関出身。昭和14年に出版社が作曲を公募した軍歌に1等入選しシンガー・ソングライターの草分けとなった。歌手の名前は知らずとも私たちの年代ならば作品を挙げれば思い出す人も多いであろう。自身が作曲して歌った「高原の宿」「ダンスパーティーの夜」は大ヒット。「銀座夜曲」「若い旅愁」などは代表作だった。
 山口県は高名な詩人や作曲家、歌手を輩出している。ルーツに触れてみるのも興味深い。
  (2016.07.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

頭に住むそろばん

2016-07-28 19:30:55 | 岩国エッセイサロンより
2016年7月23日 (土)
岩国市  会 員   林 治子

 シルバーの人たちの集まりに行くと決まって脳トレという項目がある。指の運動、数の計算、体操などなど。その日は司会者が数字を読み上げる。計算しながら、ふと思った。頭の中にいつの間にか、そろばんがあり、右手の指は膝の上で玉をはじいていた。
 終戦になり、片田舎の小さな村にもそろばん塾ができた。物珍しさもあってか生徒が大勢集まった。乗り気でなかった母を口説いて熱心に通った。そのおかげだと気づいた。ここで役立つとは……。ありがとう。
 遠くで「ご破算で願いましては」という懐かしい先生の声が聞こえるようだ。 
 (2016.07.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)