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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

決断

2016-07-06 15:03:14 | はがき随筆


 受話器を取るやKさんの弾んだ声が。「Hさん、Yさん、私がバイオリン。あなたはハープね。15分ぐらいの演奏をしたいので」。「もう年だから人前では弾きたくない」と断りたかったが「私は11歳も年上よ。年のことは考えないで」となるハズなので口にださなかった。
 サンサーンスの白鳥、バッハのプレリュードなど6曲。ぐうたら生活に陥った自分に難曲をこなす練習をやれるだろうか?
しばらく頭をかかえていたが、意を決してハープに向かった。皆と合奏する楽しみと責任感で熱のこもった、質の高い練習になった。やれるかも。
  鹿児島市 馬渡浩子 2016/7/6 毎日新聞鹿児島版掲載

確率2.5%

2016-07-06 14:46:58 | はがき随筆
 高齢者のスポーツは今やグランドゴルフが主流だ。先日わが市の老人クラブでも430名が熱戦を展開した。ねらうはホールインワンだ。
 430名が16ホール第1打を打つと6880本がホールインワンの可能性がある。しかし、当日は172本だった。その確率は2.5%で、極めて低い確率だ。それでも1人で2本、3本と入れる人がいる。これは実力か、運か奇跡と思われる。だれもがねらうのは2.5%のホールインワンだ。簡単なスポーツだが難しい。だから面白い。今日も多くの人が必死にねらっている。
  出水市 畠中大喜 2016/8/5 毎日新聞鹿児島版掲載

特大のメロン

2016-07-06 14:40:16 | はがき随筆


 出水のペン友、Hさんより熊本産のメロン2個とお手紙が届いた。今年の初物で、その大きさに驚いた。私は再三スーパーに行くが、メロン売り場は眺めるだけで、高価で手が出ないのである。Hさんのお考えによると、出水は熊本に近く、大地震で被災された人たちの支援と思って買われたとのこと。ほのぼのとしたお心が全身に染みる。「大事に食べよう」と夫が神前に供え、その後近くの兄弟に切り割りして「どうぞ」と。皆さん舌鼓を打たれ、おいしさを満喫。お礼に肝付の新米を差し上げますとの約束で楽しい会話。互いの健康維持を誓った。
  肝付町 鳥取部京子 2016/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

ゴゼムケ

2016-07-06 14:32:40 | はがき随筆
 「6月の花嫁」は幸せになれるといわれている。久しぶりの結婚式に心が和やかヨカアンベになった。結婚式のことを「ゴゼムケ」と言っていたが、方言も忘れ物となりつつある。「嫁と姑」で、こんなことわざもあった。「嫁とコエ(肥料)じょけはシイ(尻)を叩け」。コエじょけとは、堆肥を運ぶざるのこと。裏に土が付いて重くなるので時々棒でたたいて土を落とす。嫁は新婚当初はよいが、なれてくるとサボり癖がつく。だからコエじょけと同じようにケツを叩け、という意味である。今では考えられないことわざがあったものだ。
  さつま町 小向井一成 2016/7/2 毎日新聞鹿児島版掲載

行列の若冲展

2016-07-06 13:51:53 | はがき随筆


 デフォルメされた構図。繊細すぎる筆遣い。ポップアートのような色遣い。90年代ごろから美術雑誌で知るようになった伊藤若冲。今、本物を目にしている。でも鑑賞の列は動かない。
 生誕記念の回顧展が4月末から1ヶ月間、東京の美術館で開かれた。大混雑が予想される大型連休や土曜、閉幕前を避け、5月11日を選んで上京した。
 にもかかわらず開館の午前9時半には既に500㍍以上の行列。会場に入るまでに2時間。作品の前で立ち止まる人が多く、約80点の作品を鑑賞し終えたのは午後3時近く。会場の外は入場者の長い列が続いていた。
  鹿児島市 高橋誠 2016/7/1 毎日新聞鹿児島版掲載

神の汚れた手

2016-07-06 11:42:07 | はがき随筆
 曽野綾子の小説のタイトルから見えてきた。そうなのだ。たしかに神の手は汚れている。働いて働いて節くれだち、血がにじんでいる。
 神は人間がかわいくてたまらない。弱くて愚かで身勝手な私たちを幸せにしてやりたくて「昨日も今日も明日も」働き続ける。
 人間は「仏の顔も三度まで」などと言って互いを見捨てることがあるけれど、神は「七の七十倍」も人間を赦し、決して見捨てることがない。ありったけの愛をこめて「あなたってほんとに馬鹿みたい」とつぶやき神を見上げている。
  鹿屋市 伊地知咲子 2016/6/30 毎日新聞鹿児島版掲載

トマト

2016-07-06 11:34:10 | はがき随筆


 中町の通りでいま店を出した人が、立派なトマトをまさに並べんとして汗をふいていた。
 「うわー、おいしそうなトマト、立派ですね。桃太郎ですね」「はい桃太郎です
」「桜島の」「ようく知っていますね」。短い会話の間にも私はどれにしようかと選んでいた。「これください」「はい、ありがとう。今年はこれでおしまいです」
 ぴっちり実った桜島の桃太郎を1袋買って、冷やしてひとり食べるさまを想像してうれしかった。が、夕方になると一番大きいのを孫に持っていく。おいしいものは分けて食べるに限る。小さいときからの習慣ゆえ。
  鹿児島市 東郷久子 2016/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載

釜茹で

2016-07-06 07:18:47 | はがき随筆
 「うわっ、うわっ、うわあ~っ!」。あらん限りの大声で妻を呼ぶ。「すわ、殿の一大事!」と押っ取り刀で恋女房が駆けつけた。何事か? 真っ裸の私が指差した物は、何と湯船の底に沈んだひとさし指大のムカデ。「とっくに成仏してるし、正にムカデの釜茹でだよね」。平静を装ってみたものの、心中穏やかではないことは一目瞭然。家が築15年なら、私たちの山暮らしも15年。ヘビ・ムカデ・カマキリと私の好き嫌いに関わらず何でもいる。「最後は慣れだな」。言い聞かすように自分に言った。
  霧島市 久野茂樹 2016/6/28 毎日新聞鹿児島版掲載

白ネギつくりと孫

2016-07-06 07:04:24 | はがき随筆
 

 自宅周辺は畑地帯であるので、20年余り白ネギを栽培している。厳しい出荷基準をクリアして農協に共同出荷している。目的は健康づくりと、わずかな収入をためて楽しい旅行をすることである。
 先月末、薩摩川内市に住む義母から孫がソフトボールで初ヒットを打ったとの電話。4年生から5年生まで補欠、今度正選手になった。よし、褒美にヒット賞で商品券をプレゼントした。次はホームラン賞だなあ、と思った途端、いんにゃこりゃまだ元気で白ネギで稼がないと、支出が増えるからいかんなあーと思う今日このごろです。
 湧水町 本村守 2016/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

短歌の仲間

2016-07-06 06:57:54 | はがき随筆
 今夜もまた、私は頭をかきむしる。適切な言葉がみつからないときの私の癖だ。退職後、私は短歌を学び始めて12年にしかならない。難しいはずだ。
 ところで、出水市の短歌の仲間には、90歳の方が1人いる。88歳のとき、仲間に入られて2年だが上達が早い。
 それに、薩摩川内市の短歌の仲間には95歳の方が2人いる。1人はいちき串木野からつえをつきながら、電車で通われる。もう1人の方は東郷の方で、2人は励ましあって学習される。
 3名ともひたむきで、学びは年ではないと私は教えられる。
  出水市 小村忍 2016/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載

彼女は宇宙人

2016-07-06 05:45:51 | はがき随筆
 間もなく86歳になる彼女は、体は丈夫だけれども自分の家が分からなくなったり、夫が他人に見えたりして時々宇宙人になってしまうことがある。認知症といっても、不安でたまらない彼女は私に救いを求めてくる。
 彼女夫婦には四十数年前に、20歳を過ぎたばかりの一人息子を交通事故で亡くした悲しい過去がある。そのどん底から救われたのは、寺で聞いた親鸞の教えだったという。住職は代わったが、宇宙人になった彼女の頼るところは今でも寺なのだ。彼女の不安はどうしたら癒されるのか。話し相手をする私の心はいつも悶々として悲しい。
  志布志市 一木法明 2016/6/25 毎日新聞鹿児島版掲載

裏の畑

2016-07-06 05:38:30 | はがき随筆
 


裏の畑、ハクレン、モモ、ソメイヨシノザクラ、ヤエザクラ、オオデマリ、マツリカと順々に咲き誇り、6月、今度はアジサイがきれいに咲いた。白・赤・紫・青・水色……。どれもきれいだ。花を咲かせ終わった木々はまた一回り大きくなり、緑の葉をしげらせている。
 母がキュウリとトマトの苗を植えたので、その手入れと草取りをしていると、隣のOさんが通りかかって手伝ってくださり、ありがたかった。
 きれいになった畑を何度もながめて、にっこり笑う。土神様もご先祖様も喜んでおられることだろう。大切にしたい。
 出水市 山岡淳子 2016/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載

裏の畑

2016-07-06 05:30:58 | はがき随筆
 裏の畑、ハクレン、モモ、ソメイヨシノザクラ、ヤエザクラ、オオデマリ、マツリカと順々に咲き誇り、6月、今度はアジサイがきれいに咲いた。白・赤・紫・青・水色……。どれもきれいだ。花を咲かせ終わった木々はまた一回り大きくなり、緑の葉をしげらせている。
 母がキュウリとトマトの苗を植えたので、その手入れと草取りをしていると、隣のOさんが通りかかって手伝ってくださり、ありがたかった。
 きれいになった畑を何度もながめて、にっこり笑う。土神様もご先祖様も喜んでおられることだろう。大切にしたい。
 出水市 山岡淳子 2016/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載