はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

里芋植え

2015-07-10 15:09:27 | はがき随筆
 初夏、我が家では、里芋を畑に植えるのはもっぱら私で、調理はつまだ。煮物やみそ汁に入れて食べると里芋の味は格別。
 前の年、畑の隅に残した親芋から、5月ごろ小芋が芽吹く。その子芋を1個ずつ切り離す。畑に肥料を施し、子芋を一列に植える。土に触れ、土の匂いをかげば、なんとなく気持ちが安らぐ。偽物ではない確かなものを感じる。台地は、里芋だけではなく私を育ててくれる。
 親離れした子芋は新しい環境でぐんぐん育つ。やがて小さな傘のような葉を広げる。
 2年前、里芋掘りで転んだ孫は横浜で成長したことだろう。
  出水市 小村忍 2015/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

プレゼント

2015-07-10 15:04:24 | はがき随筆
 スーッとリンクに姿が現れた途端に大歓声が上がった。テレビで見るよりすてきな本物の羽生結弦選手。いくつもの試練を乗り越え、ますます磨かれた演技はさすがにすばらしく、近くで見たので迫力も十分伝わった。
 幕張メッセの膨大な数の観客席がぎっしりと埋まっていた。
 5月24日生まれの孫に誕生日祝をしてあげたいので上京するからと息子に伝えたら「30日に来て」という返事が来た。
 私が羽生選手のファンだからアイスショーを見に連れて行きたかったのだ。「遅くなったけど母の日のプレゼント」だった。
  鹿児島市 馬渡浩子 2015/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

そよ風と音

2015-07-10 14:57:54 | はがき随筆
 台所の窓を開けると、こいのぼりがそよそよ、そよ風と共に青空に泳いでいる。いい眺めだなあと、ホッと一息。甥夫婦の子どもたちの健やかな成長と幸せを祈りながら、しばし眺めていると、チェーンソーの音。
 どこの木を切っておられるのだろうと出てみると、向かいのKさんたち一家が、駐車場のヒトツバの木を切っておられた。
 木材業をしていた亡き父が、近くでチェーンソーの音がすると、すぐに見に出掛けていた。そんな父の思い出話をすると「お父さんの声が聞こえたなあ」とHさん。会話がはずみ、楽しいひとときだった。
 出水市 山岡淳子 2015/7/2 毎日新聞鹿児島版掲載

進むしかない

2015-07-10 14:50:32 | はがき随筆
 ポーチの内壁でツバメが営巣を初めて10年になる。今年も5羽の雛を確認できた。まさかカラスが襲撃するなんて。巣は壊され雛は消えた。翌朝散歩から戻るとポーチの隅で雛が1羽震えている。天井からざるをつるし、雛を入れ、カラスの再来に備えて網を張る。あとは網を避けて給餌できるかだが、子を思う親の一途さの前では杞憂でしかない。育児と巣の再生は同時進行。このたくましさには舌を巻く。7日後には雛は巣立ち、巣は完成した。次の抱卵に向けて休む間はない。自然界で生き、子孫を残すには立ち止まる暇はないのだ。
  志布志市 若宮庸成 205/7/1 毎日新聞鹿児島版掲載

チョコと私

2015-07-10 14:39:51 | はがき随筆


 小学校の子供が小学校低学年のころ、初めて札幌に出張した。会場外には名産品のブースも。家族の土産探しにのぞくと、コーナー外れに「しれとこで夢を買いませんか」のポスターが。
 知床の森を乱開発から守るため、100平方㍍8000円の寄付を求めていた。「北海道に土地を持っている」と洒落に使える。軽い乗りで夢を買った。
 娘らがねだったホワイトチョコは、夢への支出で小ぶりに。約20年後、知床は世界の自然遺産へ。彼女たちのチョコの事は忘れていたが「知床の森を買った」父の土産話は覚えていた。この7月で登録から10年目。
  鹿児島市 高橋誠 2015/6/30 毎日新聞鹿児島版掲載