はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

消えた時計

2014-07-27 23:00:52 | はがき随筆
 昨年夏のこと。娘と結婚式場へ向かう途中、ふと見た腕の中から時計が消えている。「あれっ、ない」。一瞬心臓が止まりそうでぼうぜん自失。その場で大泣きしたい衝動に駆られた。娘は引き返し、探しに行ってくれたが、足取りは重かった。それは、亡き夫とのペアの時計。余りのショックに悲しさで頭の中は空っぽ。どんな慰めの言葉も上の空。ため息ばかりの時間が流れ、さまざまな思いが脳裏をよぎる。そんな中、「仕方がないがねぇ」と夫の声が聞こえたようだ。「お父さーん」と心の中で叫び、涙があふれてきた。
  鹿児島市 竹之内美知子 2014/7/20 毎日新聞鹿児島版掲載

応援団

2014-07-27 22:52:32 | はがき随筆
 サッカーW杯、日本代表の応援には盛り上がった。早朝からテレビの前に陣取って観戦。一喜一憂の連続。ドキドキして心臓に悪い。結果は残念! 昔から、なぜかサッカーにだけは熱くなり、つい大声を出してしまう。長男が小学生の頃、スポーツ少年団に入り、休日返上で試合に同行したものだった。ルールも覚えてしまった。「お母さんは声がでかいから恥ずかしい」と言われたのを懐かしく思い出した。今年は孫がスポ少に入団した。新入部員で、期待を背に未来のJリーガーを目指して心身共にもまれ、成長してくれることを望んでいます。
  鹿屋市 中鶴裕子 2014/7/20 毎日新聞鹿児島版掲載

山門の仁王像

2014-07-27 22:45:19 | はがき随筆
 高く伸びた木々が初夏の日差しをさえぎる。駐車場から本道への道は、その影で覆われこけむしている。半袖から出た腕に触れる空気の流れは、いささかひんやりと感じる。
 5月の連休に訪れた北薩地方にある日本最古の禅寺。日本禅宗の草分けの地とはいえ、明治初頭の廃仏毀釈に遭い一時廃寺に。本堂にある十一面千手観音と脇立四天王像は、甕に隠して難を逃れた。
 山門に立つ阿吽の仁王像に破壊の跡が。石像は、傷つけられ風化した姿をさらしている。人の心の裏にある粗暴さを伝える、無言の語り部のようだ。
  鹿児島市 高橋誠 2014/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

イチイガシ

2014-07-27 22:38:44 | はがき随筆
 熊本県水俣市奥地の山紫水明名な里に寒川水源という冷やしそうめんが食べられる所がある。
 その食堂に、樹齢約200年のイチイガシが屋根を突き抜けてそびえている。神木として大切に伝えられていた。
 案内板によれば、西南戦争の時、付近の民家は焼き払われたが、イチイガシだけが燃え残ったという。近くに棚田100選もある、緑豊かなこの地であった、137年前の悲しい事件。
 そうめんもにぎり飯もおいしかったか何か胸につかえる。
 樹皮の剥がれかかったようなイチイガシは、いったい何も私たちに伝えたいのだろう。
  出水市 小村忍 2014/7/18 毎日新聞鹿児島版掲載