はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

少年の日の風景

2014-07-08 11:42:03 | はがき随筆
 子供の頃、よく木に登って遊んでいた。高い木になればなるほど、挑戦欲をそそって、いつの満仁か木登りが好きになっていた。津代も終わったある日の午後。「登ってみたいなぁ」と思っていたクスノキのてっぺんまで登ってみることにした。両手に唾をつけ、手をかけた枝が細くなるにつれて目の前が急に明るくなってきた。「うわぁ、たっか」舌をみっとめめがも。「うちもみゆい」と小米で叫んだ。青々と萌える棚田の緑、かやぶき屋根、遠くの山並みの風景をいつまでもぼんやりと枝に座って眺めていた。あの少年の日がいまでも小米に残る。
  さつま町 小向井一成 2014/7/6 毎日新聞鹿児島版掲載

光と影

2014-07-08 11:18:13 | はがき随筆
 

小豆色の枝先に黄緑や赤紫の新芽を出して花を咲かせるヤマザクラが好きで、山口県に住む弟の山で、新芽の色が違う9本のヤマザクラを運び、弟と鉢に植えた。自宅の車庫の軒下に並べて10年たつ。が、花はまだだ。葉陰に椅子を置いてよく読書をする。特に雨の日などしみじみとして格別である。
 「おっ!」。先日、藤沢周平短編集で「山桜」を見つけた。読後、人生を回り道した女性、野江の心情の明暗と一枝のヤマザクラの花の姿に、苦しみ屈折していたわが青春の日の光と影が一瞬、フラッシュバック、しばらく涙は止まらなかった。
  出水市 中島征士 2014/7/8 毎日新聞鹿児島版掲載