はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

追悼歌文集

2013-09-06 18:07:27 | はがき随筆


 12年前に拙い歌文集を出した。その時は夫も母も健在で、私たちは幸せいっぱいの日々だった。その6年後に夫が急逝しようとは思ってもみないことだった。今度、夫と母の写真も載せて追悼集「夫を待つ庭」を出した。題は次の拙歌より取った。
 三度目の夏めぐり来ぬゆふすげと桔梗咲く庭夫を待つ庭
 短歌とはがき随筆、女の気持のミニエッセーをまとめたもの。夫と母の生きた証しの本にしたかった。何よりの供養ですねと言ってもらえるのが、うれしい。夫の同級生や母を介護してくださった方々も喜んでくださったのが望外の幸せである。
  霧島市 秋峯いくよ 2013/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

赤とんぼ

2013-09-06 17:04:54 | 女の気持ち/男の気持ち


 朝5時、妹と2人で実家の田んぼの草取りを始める。
 夜明け前のにわか雨は日照り続きにあえいでいた大地にあっけなく消えてしまった。それでも1カ月ぶりの雨、久しぶりの涼風に葉ずれの音が心地よい。
 「あっ、精霊様だ」
 「父さん、父さんが雨を降らせてくれたんよ」
 朝もやの中、草に覆われた稲田の上を死者の化身、赤とんぼが無数に飛び交っている。
 独り暮らしの母が、今もなお手放さないこの田んぼ。気力はあっても体力の衰えは土地の荒れ具合を見れば誰だって分かる。
 「姉ちゃん、限界よね」
 「うん、私から話すから」
 「母さん……」
 母の耳が急に日曜日になった。意に沿わぬ話、都合の悪い話になると、何も聞こえなくなるらしい。それでも構わず米作りをやめるよう説得する。
 「人の手を借りるようになった時が引き際。思い入れを思い出にかえて──」と。
 相変わらず押し黙り、お手上げ状態の田んぼをじっと見つめる母。
 帰り際、1匹の赤とんぼがバックミラーにとまった。
 「父さん、ごめんね。もういいよね」
 手伝うのは今日が最後と決めた私たち。発進と同時に赤とんぼは飛び去り、いつまでも手を振る母の姿だけがだんだんと小さくなっていった。
  北九州市 安元洋子 2013/9/6 毎日新聞「の気持」欄掲載

よみがえる

2013-09-06 16:48:05 | はがき随筆
 息子と娘が愛用していた剣道の防具が、海を渡りアフリカのモザンビークでよみがえることになった。現地では剣道の啓蒙活動が行われているとか。
 JICAシニア海外ボランティアで、剣道を指導するため赴任される志布志のSさんに託した。Sさんによると、世界の最貧国の一つで、貧困ゆえに治安も悪く、自分の部屋に入るのに四つの鍵を開けるとのこと。
 長い内戦状態が終わり、僅か十数年。この国で剣道が普及し、剣道の理念や日本人の勤勉さが国づくりに貢献し、一日も早く安定した豊かな暮らしが訪れますように……。
  垂水市 竹之内政子 2013/9/6 毎日新聞鹿児島版掲載