はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

今も、そこに

2013-07-11 21:37:53 | はがき随筆

 雨の中、田の畦にヤブカンゾウが花開く。オレンジ色のほのかな明かりのように。朝に咲いて夕にしぼむ一日花だと知った。その変わらぬ風情を懐かしむ。夫婦2人の生活となり、農作業の繁忙さに投げ出したくなる時も「生きがいだから」とさらりとかわし、「俺がいるじゃないか」と笑う夫がいた。労苦いとわず働いた大きな手。その手が病院のベッドで細く小さくなった。「時計ができない」とそれでも笑顔を作る。涙があふれた。
 懸命に生き、消えた命のはかなさが私の心に宿る。思い出の風景と共に……今も、そこに。
  出水市 伊尻清子 2013/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

時間の隙間

2013-07-11 21:32:20 | はがき随筆
 午前11時、オランダ・アムステルダム行きの機内で時計は逆戻りを始め、7時間前に向かっている。帰りは未来へ向かうことになるが、ハリー・ポッターのように時間の隙間に入れたらどうなるのだろう?
 浦島太郎の亀は時間の隙間に入ったのだろうか、それとも時間より速く泳いだのか?
 現代物理学は、光よりも速く走る素粒子の実験をしているらしい。そうなると、未来への時間の隙間に入ることができるのではないか。そしたらどんなことが起こるのか……?
 いつか、飛行機は白く凍てつくシベリアの上空にあった。
  出水市 中島征士 2013/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載