雨の中、田の畦にヤブカンゾウが花開く。オレンジ色のほのかな明かりのように。朝に咲いて夕にしぼむ一日花だと知った。その変わらぬ風情を懐かしむ。夫婦2人の生活となり、農作業の繁忙さに投げ出したくなる時も「生きがいだから」とさらりとかわし、「俺がいるじゃないか」と笑う夫がいた。労苦いとわず働いた大きな手。その手が病院のベッドで細く小さくなった。「時計ができない」とそれでも笑顔を作る。涙があふれた。
懸命に生き、消えた命のはかなさが私の心に宿る。思い出の風景と共に……今も、そこに。
出水市 伊尻清子 2013/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載