はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

収穫

2009-07-16 17:08:05 | アカショウビンのつぶやき
 収穫と言っても、実そのもの…種である。

 いつもの定番、ニガウリにミニトマトしか作ったことがない私が、今年初めて野菜作りに挑戦した。今まで隣の姉がせっせと作る野菜をその都度、ちょうだいしていたが「あんたも自分で作ってごらん…」と言われてしまい、プランター栽培だけれど苗を植え、種を蒔き数種類の野菜を育ててみた。

 種まき、水遣り、虫取りと世話することは多いが、成長が楽しみで次々とプランターが増えていった。まき時をずらして、やわらかな青菜を長い間、楽しんだ。

 まき時をとうに過ぎた6月中旬「まあどうなるか挑戦だよ!」と小松菜、べんり菜、水菜と次々蒔いてみたが、やはり無理だったようで、これは全滅。

 でも種を買って驚いたことがあった。水菜、小松菜、べんり菜の種、すべてが外国産なんて、今まで知らなかった。いつから野菜の種まで輸入しなきゃならなくなったのだろう。

 来年は自分で取った種で栽培しようと、それぞれ一株ずつ残して種を取った。小松菜や水菜、べんり菜の種は既に冷蔵庫に保管。今日はようやくレタスの種が取れた。小さな小さな種がこぼれるように…。

 花の種も同様に採取したので、来春は忙しくなりそう。

 心配なのは台風。植木鉢やプランターが増えすぎちゃったけど、さぁてどうしよう。

写真は去年のこぼれ種から発芽し、たわわに実をつけたミニトマト。
でも葉っぱが枯れはじめ、これで終わりになりそう…。 

美しい疑問

2009-07-16 16:37:27 | 女の気持ち/男の気持ち
 歩くとカツッ、カツッと岩をはむ登山靴の金具の音が昔から好きだった。が、今日の登山靴に金具はない。雨の中、年月を経た巨木や岩の立ち並ぶ薄暗い森の中を静かに歩いている。
 足元にはフタリシズカの花の群れ。行く手にはシャクナゲの花。頭上にはヒメシャラの花たち。霧が流れる谷間には満開のヤマボウシの花が見え隠れする。
 やがて今にも倒れてきそうな大岩に出合った。先客が岩の下に20本ぐらいの枯れ枝で突っ張りをしている。私たち8人全員両手で押し、祈った。
 「こんままでずっといるんだよ」
 妻の言葉が合図だったかのように、全員が再び歩き始めた。
 激しい風が森全体を揺らすとビー玉サイズの雨粒が落ちてくる。黄色い厚手のレインコートの内側にいるのを感じ、妙に心地よい。
 淀川登山口から3時間、花之江河に着いた。霧雨の中に湿原と木道が見える。油断すると突風に吹き飛ばされそうだ。風を避けて森の中で握り飯を食った。塩が利いて実にうまい。食べ終わると同じ道を引き返すことにした。
 山を下りると、荒れた海を眺めながら尾之間の温泉に浸った。
 「一日中コマドリの声がした。あれだけの雨でも淀川は濁らず透明なのだ。なぜ」
 美しい疑問を残した梅雨の屋久島の森であった。
  鹿児島県出水市 中島 征士・64歳 2009/7/12 毎日新聞の気持ち掲載 

グリーン作戦

2009-07-16 16:30:54 | はがき随筆
 わが家の居間は明るくて居心地がいい。ところが、夏は東側の掃き出しの窓に太陽が容赦なく照りつける。室温はぐうんと上って、涼しい場所を探して右往左往することになる。
 以前は、お隣の桃の木が緑のブラインドになってくれたのに、ばっさりと切られてからは、他力本願は無理と察して、今年は早々にツタ物を植える。
 夕方は水やりと、上向きに伸びたがるツタの先端を横向きに網にからませ直してやる。赤紫の朝顔と風船カズラの実が色づくのを見るのも楽しい。
 ガラス越しに緑が揺れる涼しさ。私のグリーン作戦は快調。
  霧島市 口町円子(69) 2009/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はyumikoさん

遠い日

2009-07-16 16:25:22 | はがき随筆
 小向井さんのはがき絵はいつもうれしい。思い出がよみがえり、遠い日の自分に帰ったようでウルウルになる。カメラやビデオのない時代、セピア色の記憶だけが頼りの私には、ぼんやりとしか浮かばない。でも小向井さんの絵はまるで写真のように鮮明によみがえる。小学生の時、日食があり、ガラスにススをつけて校庭で見たことがある。先生に、次は何十年後と言われたことを思い出した。還暦を迎え身体のあちこちが悲鳴をあげだした。その日食が間もなくくる。小向井さん、いつまでもご健康で、これからもたくさんのはがき絵をお願いします。
  指宿市 有村好一(60) 2009/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載

大せん定

2009-07-16 16:19:33 | はがき随筆
 最近、我が輩の主は庭木をバッサリ。お陰でクロガネモチの私も背が低くなり、柿の木さんなどは根元から切られて跡形もない。原因は手入れが出来なくなったからのようだが、心境の異変は他にもある。
 外出が多くなった奥さんと家事を分担して、遠出もやめ車も軽自動車に買い替えたようだ。
 園芸好きな奥さんは、庭が広く日当たりが良くなって喜んでいるが「先が心配。″埋蔵金″のタンス貯金の場所は教えてね」と皮肉っている。
 今度は、主は埋めた他の跡でメダカを飼い、ウオーター・レタスを育てている。
  鹿屋市 上村 泉(68) 2009/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は南さん

子離れ中

2009-07-16 16:15:58 | はがき随筆
 この春、高校を卒業した息子は熊本の大学に進学した。
 一人暮らしを始めてすぐ「夕ごはん何食べた?」とメールした。すぐきた返事には「うるさい」の4文字。心優しい人にと育ててきたつもりなのに。傍らでパソコンしている夫に話すこともできず、しばらくは顔を上げることができなかった。
 数日後、息子からの久しぶりの電話に心躍らせた。「メ-ルにハートマークつけるのやめてくれない」
 そして先日。「冬物のシーツの洗濯、どうすればいいの?」
 「行こうか?」 「何で?」。ことごとく愛想尽かされている。
  鹿屋市 藤崎能子(57) 2009/7/13毎日新聞鹿児島版掲載

正座

2009-07-16 16:12:35 | はがき随筆
 「かあさん。正座って知ってる?」
 ほっぺを真っ赤にした娘の、得意気な第一声。小学校に入学して間もなくのことである。
 「すごおい。どうして正座したの?」「先生が来るのを見に行ったの。そしたら『席を離れた子は正座しなさい』って」「そう、次から席で待とうね」「うん」。神妙に、けれども、さも楽しげに正座しているチビ遠の中で″紅二点″のTさんと娘。情景を思い浮かべて、いまでも時折笑ってしまう。
 あれから25年。「正座」がご縁で、Tさんの母親とのお付き合いは続いている。
  鹿屋市伊地知咲子(72) 2009/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載