はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

元気でいてね

2009-03-23 22:22:02 | はがき随筆
 長崎に住む94歳の義母は介護型老人ホームヘ入所している。
 半年ぶりに会いに行った。
 「退職してひまができたし、串木野に帰らないか」と夫が誘うと「もう死ぬ前になって言われても疲れる」。「次は夏におじゃましますね」と話す私に「今度来る時は、葬式の時でいい」と。可愛くない返事に戸惑った。が、高齢ゆえの義母の、ひそかな覚悟がそう言わせたのだと思う。
 気楽にこちらの都合で振り回したりして悪かった。
 ホームの玄関先まで車椅子を操り、見送る義母に手を振ると、ゆっくりうなずいていた。
   いちき串木野市 奥吉志代子(60) 2009/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載


ある家族

2009-03-23 22:06:37 | はがき随筆
ある家族

 家族4人の平均年齢が80歳と聞くと、多くの人は、中高年夫婦と老父母をイメージするだろう。加治木町の会社役員、森山孝一さん(64)宅は違う。孝一さんと妻のレイ子さん(66)、お二人の実母という顔ぶれだ。夫婦がそれぞれの実母、義母と一つ屋根の下に住む形態は珍しい。近所でも評判なのだそうだ。孝一さんの母、スズ子さんは大正8年生まれの90歳。レイ子さんの母、末吉キクエさんは明治41年生まれの100歳。足が少し弱ったり、耳が遠かったりするほかは、共にたいそうお元気である。

 聞けばご夫婦は連れ子を伴って11年前に再婚。現在の状態は4年前からという。要は2組の母子が同居する訳だから、子同士が夫婦とはいえストレスがないはずはない。しかも高齢者にとって環境の激変は大変なはずである。それでも「互いの気遣いがいい刺激になっているし、けんかになったことはない」(レイ子さん)というから驚く。

 先日、ふとした縁でお宅を訪ね一緒にお茶を頂いた。円満の鍵は世話役のレイ子さんの、実母にはもちろん義母にも平気で軽口をたたく開放的な性格にあるようだ。「ある時は娘、ある時は嫁と365日忙しい。でもどうせ暮らすなら明るく楽しく」とレイ子さん。盆や正月は、それぞれの子供たち家族も加わって大にぎわいとか。実にうらやましい話である。

 群馬県で起きた高齢者施設の痛ましい火災。近年では長崎県大村市のグループホーム火災が記憶に新しい。施設や管理・運営面の不備などはさておき、この種の悲劇のたびに、施設をついのすみかとするお年寄りが特に都市部で少なくないことを痛感する。一方、若者が都会に出た後の地方には、独り暮らしの高齢者がいかに多いことか。

 森山家は特別だとしても、家族のぬくもりの中で生涯をまっとうすることが難しい世の中というのは、考えさせられる。

   鹿児島支局長 平山千里 2009/3/23 毎日新聞掲載