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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆10月度

2012-11-10 15:17:07 | 受賞作品
 はがき随筆10月度の入賞者は次の皆さんです。

【月間賞】10日「更地とチョウ」小村忍(69)=出水市
【佳 作】7日「運動会」清水恒(64)=伊佐市
     28日「たまには」永瀬悦子(62)=肝付町

 更地とチョウ 亡き家族の遺品の整理でさえ、なかなか簡単にはいかないものです。それがたくさんの家族の思い出の詰まった、旧居の解体となると、いわば一家の歴史がなくなるようで、寂しさも格別のものでしょう。「断捨離」とかが話題ですが、それも一つの生き方には違いありません。更地に飛ぶチョウに亡父母のイメージを重ねたため、素晴らしい文章になりました。
 運動会 義理の祖母が運動会好きで、どこかで運動会があると弁当持参で出かけていたらしい。単に好きなだけかと思っていたら、ある時、走るのが速かった2人の息子を早く亡くしていた事情を知り、運動会はその子供たちの帰ってくる日かと思い知らされた、という内容です。日常に人生の深奥を感じ取る、深みのある文章です。
 たまには 散歩に出かけただけの文章ですが、精細な色彩感覚と的確な観察力が、美しい文章に仕上げています。とくに「ピンクの雨傘としゃれる」という表現が光っています。毎日の生活の中で、爽快な気分へと転換できる、ささやかな決断と行動をもつことも、やはり生活の知恵でしょう。
 この他に 3編を紹介します。有村好一さんの「村祭り」は、中学時代は、遅れた友達のために、小枝や小石で道しるべを作って村祭りへ誘導したりするなど、知恵と工夫を出し合って過ごしていた。物はなくても、時間はたっぷりあった時代への懐旧の念が、生き生きと描かれています。
 若宮庸成さんの「秋魚の味」は、サンマは昔は七輪で今はロースターで焼くが、はらわたの美味と熱かんはまさしく大人の味である。それにつけても「被災地の秋を思う」という結びは、3.11以来の日本人の心情に見事に触れた文章です。
 田中健一郎さんの「中秋の名月」は、台風接近でつい忘れそうだった中秋の名月を、老母と見ることができ、母はその喜びの表現として名月にとを合わせていた。長寿を自然に感謝するのも日本人の心情で、快い文章です。
  (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

はがき随筆9月度

2012-10-25 16:11:03 | 受賞作品
 はがき随筆9月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】3日「ミカン泥棒」清水恒(64)=伊佐市
【佳 作】24日「わっはっはっ」吉井三男(70)=肝付町
26日「同じ歌でも」馬渡浩子(64)=鹿児島市

ミカン泥棒 小学校の下校時にミカンを盗んで怒られた話です。怒るKさんの、まず親の名を言わせ、罰に歌を歌わせ、図らずもミカンに関係のある歌を歌ってしまったら、表情が和らいだという態度に、かつては確かにあった、地域全体で子供を育てるという共同体意識がほうふつとしていて、懐かしい気分にさせてくれる文章です。
 わっはっはっ 夕方を待たずにしぼむ朝顔の花に、しぼんでも確実に種子を残して行く生命の持続を感じるにつけても、古希の自分は何を残したのかと忸怩たる思いにとらわれわれながらも、ふと気がつくと、立派な子供と孫が居るではないかと、高笑いする心境が描かれています。知足といいますか、多くを望まない幸福も確かにあります。
 同じ歌でも 中学校の時は心をこめて歌えといわれても、将来の希望に燃えていた年ごろで、心のこめようがなかった「オールド・ブラック・ジョー」の歌が、六十路の半ばにさしかかった今、「若き日早や夢とすぎ、我が友皆世を去りて」の歌詞が心にしみてきたという、落ち着いた内容です。何故あの歌詞を中学生に歌わせたのでしょうか。
 以上のほかに3編を紹介します。
 中鶴裕子さんの「義父」は、97歳で亡くなられた義父は、自分が介護されている立場なのに、家庭や施設で周囲を和ませてくれる達人であった。その毎日は、周囲の人々への感謝の念に満ちていた。身近に学ぶべき手本があるのは良いことですね。若宮庸成さんの「行く末考」は、50歳ごろ、残りの人生は奥さまと自由奔放に生きようと決め、実践してきた。ところが、そろそろ往生際考(?)が必要になってきた。誰でもが通る道ですが、これが一番難しい。久野茂樹さんの「懐かしの母校」は、45年ぶりの母校再訪です。今昔の感のある高校生たちの清新な態度に、往事の思い出を抱えて帰ってきた。老いの兆しとともに、過去がよみがえってくる様子が具体的なイメージで描かれています。
  (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

はがき随筆8月度

2012-09-15 17:45:35 | 受賞作品
 はがき随筆8月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】15日「白いスニーカー」竹之内美知子(78)=鹿児島市
【佳 作】26日「半歩でも前へ」種子田真理(60)=鹿児島市
▽30日「ソウメンカボチャ」年神貞子(76)=出水市


 白いスニーカー 梅雨の晴れ間に、亡夫の残したスニーカーをベランダでほしあげ、陽光を浴びたスニーカーをそっと履いてみた。その瞬間に亡夫の姿がよみがえったという、一瞬の感覚を捉えた優れた文章です。スニーカーの白、太陽を吸った靴の温かさとその感触、それらの感覚が合わさって、夫婦愛を懐かしく漂わせています。
半歩でも前へ 地デジ化以来、テレビ離れし、読書にいそしんでいる。すると、自分の未熟さに気づかされ、その克服に悪戦苦闘している、という内容です。テレビ無しの生活が幸いしました。人は努めている間は迷うものだ、とはゲーテの言葉です。前進していってください。
 ソウメンカボチャ 年神さんの描写力にはいつも感心します。ソウメンカボチャの生育、収穫、食材などの模様が色彩豊かに描写されています。このような文章が書けるのは、観察の細やかさに基づくものに違いありません。
 他に4編を紹介します。
 武田静瞭さんの「撮った!」は、夜しか咲かない月下美人の花の撮影に成功した喜びが書かれています。他人には些細なことかもしれませんが、本人にとってはやはり幸福な瞬間です。
 畠中大喜さんの「裸電球の夏」は、節電騒動につけても、敗戦直後の窮乏生活が思い出され、むしろ懐かしいという内容です。あの頃を体験した人も少なくなってきました。
 内山陽子さんの「ゴーヤー」は、ゴーヤーの苦みに馴れたのが、義母の葬式の弁当を食べた時だったという、意外性で読ませる文章です。「人は悲しい時にもおなかがすくものだ」という感慨はリアルな発見ですね。
 高野幸祐さんの「身勝手な男」は、その飄逸さが素晴らしいと感じました。アパートの1人暮らしの無聊を慰めようと買って来たグアバの鉢植えが伸び過ぎてしまい、グアバからどうするつもりだと問われて、困惑している心境が書かれています。

(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

はがき随筆7月度

2012-08-15 11:17:42 | 受賞作品
 はがき随筆7月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)
【月間賞】31日「祖母の悲しみ」秋峯いくよ(72)=霧島市
【佳作】3日「天然生活」清水恒(64)=伊佐市
  ▽19日「まぶしい教え子」小村忍(69)=出水市

月間賞に秋峯さん(霧島市)

佳作には清水さん(伊佐市)、小村さん(出水市)

 祖母の悲しみ 90歳を過ぎて認知症になってから、戦死した息子のことが、祖母の記憶の断片としてよみがえってきたという悲しい内容です。戦死公報に「バンザイ」を叫んでお祝いをしたほどの気丈夫な祖母も、本心はどうだったのでしょうか。戦争は国家が始め、個人の悲しみで終わるものです。
 天然生活 奥様に関してのノロケの文章です。うっかり屋は人の良い証拠という祖父の言葉に従ったわけでもないが、超のつきそうな天然自然体の妻を選んでしまった。その悲喜劇を、自分にも奥様にも距離を置いて描いたところに、味のある文章ができあがっています。
 まぶしい教え子 九州合同植物観察会で、案内役と講師を務める教え子に出会ってまぶしかった。その上、その教え子が植物を専門にしたのは、筆者に中学校の植物採集の宿題を叱られたことがきっかけだったと聞いて、うれしさも倍加したという、教師冥利に尽きる内容です。追い越される楽しみは、教師にしか分からない楽しみです。
 他に3編を紹介します。
 森孝子さんの「ミカドアゲハ」は、チョウを飼い育てる楽しみが克明に描かれています。驚くのは、育てて放ったチョウかどうか、庭に戻ってきて産卵するということです。植物も含めて、生き物を育てる楽しみは、おそらく生命の神秘への畏敬の念に支えられているのでしょう。
 下内幸一さんの「田舎の観音様」は、新しい散歩コースで、岩に彫られた「茂頭の観音様」を見つけ、この大発見に喜びと感謝を感じ、毎月お参りしようと決めたという内容です。「観音様との秘めた逢瀬を楽しみにしている」という表現がいいですね。
 内山陽子さんの「ヘビやムカデ」は、ヘビ嫌いの性分からくる生活の一面を真面目くさった文章にしていますが、ご本人には相済みませんが、読んでいるとおかしくもなってくる文章です。蛇の出ない「町のど真ん中に住みたい」希望が実現するとよいのですが。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

はがき随筆6月度

2012-07-27 05:38:10 | 受賞作品
 はがき随筆6月度の入賞者は次の皆さんです。
 【月間賞】19日「私は冷たい?」伊地知咲子(75歳)=鹿屋市
 【佳作】7日「キターッ」東郷久子(77)=鹿児島市
     29日「あしたもおいで」種子田真理(60)=鹿児島市

月間賞に伊地知さん(鹿屋市)
佳作には東郷さん(鹿児島市)、種子田さん(鹿児島市)

 「私は冷たい?」 臨終直後の母親の頬に触れた時感じた、その冷たさへの嫌悪感と、18年たった今もその感覚を悔いている心理がよく描かれています。遺体はなぜあのような独特の冷たさと重さとをもっているものでしょうか。その感覚が、たとえ母親の場合でさえも、別の感覚にならないところが、哲学的にいえば、人間の実在の不気味さというものでしょう。
 「キターッ」 鹿児島ならではの文章です。灰交じりの噴煙を逃げ回る模様が描かれています。降灰を迷惑なものとして暗く描くのは比較的楽ですが、降灰にもそれを逃げる自分にも距離を置いたところが、軽妙な文章になっています。噴煙を「黒いオーロラ」とは絶妙な表現です。
 「あしたもおいで」詩人の北原白秋はスズメが大好きでしたが、これほど人家の近くに住んでいるのに、なぜ人間になれないのだろうかと不思議がっています。そのスズメがいくらかなれた情景が実に可愛らしく描かれています。お米の餌をまき忘れると、ガラス戸からのぞき込まれて催促され、ついまたまきたくなってしまう気持はよく分かります。
 以上の他、3編を紹介します。
 吉井三男さんの「努力目標」は、子供の時も現在も目標達成は難しいという感慨が描かれています。子供の時の「方言を使わない」はまさしく鹿児島を感じさせますが、現在の、妻に小言を言われない、嫌われないは、ついおかしくなります。
 山室浩子さんの「6月に思う」は、夫君の命日が加わった6月は特別な月になり、虚無感に沈むご自分を励ます文章です。結婚指輪がきつくなったので、サイズを直すために梅雨のなかでも出かけようというのは、重大な決意ですね。
 竹之内美知子さんの「朝の報告」は、亡夫の好きだったクジャクサボテンの花が咲いたので、その写真を遺影のそばに供えたという内容です。花の描写とそれを見つめる生前のご主人の描写が、鮮明なイメージとして浮かぶ文章です。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

はがき随筆5月度月間賞

2012-06-20 18:59:53 | 受賞作品
 はがき随筆5月度の入賞作は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】2日「写経」竹之内美知子=鹿児島市
【佳 作】11日「役割分担」秋峯いくよ=霧島市
     25日「バラ祭りと友情」森園愛吉=鹿屋市


月間賞に竹之内さん(鹿児島市)
  佳作には秋峯さん(霧島市)、森園さん(鹿屋市)

写経 東日本大震災の復興祈念と鎮魂のために、各地に「祈りの塔」が建立される。その浄財寄進のために写経をしたという内容です。写経は聞くところによると、一字一字心が落ちついていくもののようです。大震災支援は誰もが何かできないかと思ってはいるのですが、なかなか実現できない。それを写経という形で実現し、ご自分の安堵の気持とともに、被災者の心の安らぎを祈るというところに、私たちの3月11日以来の気持を代弁している好文章だと考えます。
役割分担 同じ自分の娘だといっても、姉と妹の性格も生き方も対照的であるところを、ご自分の日常と関係づけて描き分けた、要領よくまとまった文章です。「負うた子に教えられ」ではありませんが、子どもに指図されて暮らす生活もやはり幸福な毎日といえます。
「バラ祭りと友情」 バラ祭りといっても、庭の1本だけのバラのきですが、それが真紅の大輪をみごとに咲かせてくれたので、仲良し4人組でバラ見酒(?)を楽しんだというものです。会費500円でささやかなおつまみを用意したというのもほほ笑ましいですが、卒寿を超えてもこういう生活の楽しみ方ができるのは、やはり人生の達人というべきでしょう。
 この他に、嵐が来そうなので急いでごちそうを作って花見をしたという、鳥取部京子さんの「花見弁当会」と、マテ貝採りの詳細な描写が優れている、畠中大喜さんの「マテ貝採り」、それに、ご母堂のそつ種の祝いの席で、ひ孫に主役を奪われそうになったが、90歳のみごとな舞いで主役を取り戻したという、道田道範さんの「卒寿の舞」が記憶にのこりました。
 
 「はがき随筆」や「男の気持ち」などで活躍の霧島市の久野茂樹さんが、5月20日の毎日新聞で3首も撰ばれました。めったにないことでお喜び申しあげます。
  (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)
 

はがき随筆4月度入選

2012-05-11 20:56:31 | 受賞作品
 はがき随筆4月度の入選作品が決まりました。
▽伊佐市大口原田、清水恒さん(64)の「母の生き甲斐2」(1日)
▽阿久根市大川、的場豊子さん(56)の「南無阿弥陀仏」(4日)
▽垂水市市木、竹之内政子さん(62)の「やっぱり」(28日)

──の3点です。

 投稿なさる方が比較的高齢の方が多いせいか、話題が病気、看病や介護、懐旧の念、それに孫の逸話が目立ちます。興味深いのは50歳になっても60歳になっても、ご両親のことを語られる時は、ご自分は子供になっていることです。当たり前といえば当たり前ですが、70歳の子供というのもほほ笑ましい感じもします。
 清水恒さんの「母の生き甲斐2」は、86歳になって俳句を作り始めた母親への励ましの言葉です。俳句の添削のために、手紙のやりとりが頻繁になったことに感謝されています。老人のスマホがはやっているそうですが、やはり手紙はいいですね。
 的場豊子さんの「南無阿弥陀仏」は、菜園の主がスイカ泥棒に「南無阿弥陀仏……合掌」という立て札を立てたという内容です。見落としがちな立て札ですが、立て札の表現のユーモアの中に、怒りと無念さを読み取った観察の細かさが、優れた文章にしています。
 竹之内政子さんの「やっぱり」は、ラジオで財産残すは銅賞、思い出は銀賞、生き方は金賞という名言を聞き、ご子息にメールで確かめたら「銅賞希望」であったという内容です。ご子息も歳をとると金賞に変わると思います。きっと年齢の問題です。
 入選作のほかに3編を紹介します。
 吉井三男さんの「ぼくはクワガタ」は、知人に事故死され暗い気持ちで過ごしていると、お孫さんが大人たちの血液型の話に割って入り、「僕はクワガタ」と叫んだというほほ笑ましい内容です。無邪気は慰めです。
 秋峯いくよさんの「喪失感」は、亡き御主人の手作りのウッドデッキを、白アリのために壊さざるをえなくなった。形あるものはいつかは滅びると分かっていても、子供さんたちとの思い出が詰まっているので寂しいという内容です。 
 高橋誠さんの「新食感の野菜」は、ヤーコンというものを初めて食べ、コンが着くからダイコンやレンコンの種類かと思っていたら、英語でYACONでした。でも、やはり野菜です。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

11年のはがき随筆 年間賞

2012-04-23 18:54:37 | 受賞作品
年間賞に萩原さん
  感性豊かな夫を題材に
 11年の「はがき随筆」年間賞に、鹿児島市真砂本町、萩原裕子さん(59)の作品「夫の感官のすべて」(昨年7月12日掲載)が選ばれた。表彰式は5月27日午後1時から、JR鹿児島中央駅前の鹿児島市勤労者交流センターである。萩原さんに作品への思いなどを聞いた。


 5年前の5月。歯科医の夫・正禎さん(75)が畳の上に座ったまま言った。「立ち上がれない。手を引っ張って」「冗談でしょう」「本当なんだ」 
 異変を感じて救急車を呼んだ。脳内出血だった。以来、自宅でほとんど寝たきりの生活になった。
 作品はそんな日常の一コマをつづった。「お父ちゃんと娘の感性がすごく、私はそれを書きとめて投稿している。2人にはとても感謝しています」。長女の三希子さん(15)は8歳のころからはがき随筆に投稿しており、医院の待合室だった場所には今も裕子さんと三希子さんの掲載作が張られている。
 昨年10月には正禎さんが脳梗塞で2度目の入院。誤嚥性肺炎を起こす可能性があるため、医師から胃ろうを勧められた。チューブをつないだ胃に食事を流すのに2時間必要で、それを1日に3回行う。
 「へこたれずに一生懸命生きる姿を見せてくれています。お父ちゃんは私と娘のリーダー。心から尊敬しています」
 来月には退院し、裕子さんが介護をする。認知症も出てきた。それでも「書いている間は苦労も忘れ、書くことで私自身が救われている。これからもお父ちゃんと娘を題材に、書き続けていきたいと思います」。
【山崎太郎】

愛情あふれる文章

《評》
 例年のように、年間賞は毎月の入選作の中から選ぶことにし、まず候補作として次の作品を選びました。
 鵜家育男さんの「あっ、まさか!」は、いつものように義歯を探していると、コタツの中で愛犬がかじっていたという小事件を、そこにもっていく文章の脱線が巧みです。
 西田光子さんの「6月のカモメ」は陸前高田市でのボランティア体験です。聞こえるのはカモメの鳴き声だけという題名の付け方が秀逸です。
 萩原裕子さんの「夫の感官のすべて」は御主人の看病の逸話です。愛情あふれる文章です。
 山岡淳子さんの「涼風」は、夏休みで子供のいない教室を吹き抜ける風に感謝した、きれいな、文字通り涼しくなる文章です。
 年神貞子さんの「ナマコ」は、文章で色彩を描くのは難しいのですが、ナマコにまつわる色彩を描いた実に美しい文章です。
 塩田きぬ子さんの「子宝」は、老人ホームの母親を十分世話してやれない悔いのこもった、身につまされる内容です。
 いずれも特徴のある優れた作品ですが、その中から萩原裕子さんの「夫の感官のすべて」を年間賞に選びました。それは次の理由によります。前半の病室の描写、特に会話が効果的であること、それに後半での「私」の感想によって、「夫」の人柄が浮かび上がってくる点、何よりも慰める立場の「夫」が逆に慰めてくれている意外性、これらから美しい夫婦愛の随筆として選びました。何よりも人生が感じられます。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

年間賞作品の紹介

「夫の感官のすべて」
 「お父ちゃん、ラジオでも聴く?」
 最近、テレビの画面もボンヤリとしか見えなくなっている夫が、余りにも静かなので、そう聞いてみた。
 「聴かなくていいよ。生きている時間を感じているから。ありがとう」
 ベッドの上でじっと目を閉じたまま夫は、そう答えた。夫の感官のすべてを私はまだまだ知りたい、感じたいと思う。4年前からほとんど寝たきりの生活の中、この穏やかさ、温かさ、繊細な感性は、いったいどこからきているのだろう。気宇壮大な人だと心から尊敬している。
  鹿児島市 萩原裕子 2011/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆3月度入選

2012-04-13 17:51:02 | 受賞作品
 はがき随筆3月度入選作品が決まりました。

▽出水市上知識町、年神貞子さん(75)の「リサイクル」(28日)
▽出水市高尾野町柴引、清田文雄さん(72)の「積雪の夜道」(2日)
▽西之表市西之表、武田静瞭さん(75)の「数字の縁起担ぎ」(16日)

──の3点です。

 かごしま近代文学館に台湾から父親と息子さん夫婦の来館者がありました。90歳の父親が通訳でした。日本語を話すのが楽しいらしく、「浦島さん」などの童謡を歌ったりもされました。台湾では77歳以上は日本語ができるというやや自慢げなご様子に、日本の植民地支配による言語政策でそうなったのですが、複雑な気持ちになってしまいました。
 年神貞子さんの「リサイクル」は、雨傘をゴミに出す時、布の部分を外したが、もったいないのでバスキャップにしたという内容です。奇想天外というか逞しいというか、参ったという感じです。明るい感じの文章です。
 清田文雄さんの「積雪の夜道」は、伊作駅から教職員住宅まで、雪中を6時間かけて帰った体験談です。普通は伊作地方と降雪とを結びつけては読みませんので、意外な感じがしますが、50年前の豪雪時のことという種明かしがされます。北国の豪雪の報道からの連想というのも文章を引き立たせています。
 武田静瞭さんの「数字の縁起担ぎ」は、とぼけたおかしみのある文章です。夜中のトイレの時間が1時11分、3時33分、5時55分と同じ数字が並んだので、予想外の幸運を期待したが、何もなかった。ご自分に関係する素材でも、距離を置かれたので味のある文章になっています。
 入選作の他に3編を紹介します。
 池元民子さんの「古き良き時代」は、漁船の焼玉エンジンの音、地引き網の掛け声、貝掘り、進水式の大漁旗に餅まき、かつての浜のにぎわいは。「こぞの雪今いずこ」ですね。高野幸祐さんの「今年も元気だ」は、啓蟄でもないが、春の気分で散歩、同級生に会い、喫茶店で粘って、春雨の中を帰って来た。特別のこともない文章ですが、なぜか気持ちの良い文章です。
 種子田真理さんの「地球のために」は考えさせられる内容です。中学生が、地球のためにすべきことはという問いに「子どもを生まない」ことと答えたという内容です。

鹿児島大学名誉教授・石田忠彦

はがき随筆1月度入選

2012-02-24 14:26:36 | 受賞作品
 はがき随筆1月度入選作品が決まりました。
▽出水市緑町、道田道範さん(62)の「ラストシーン」(7日)
▽鹿児島市薬師、種子田真理さん(59)の「マイ骨壺」(13日)
▽同市真砂本町、萩原裕子さん(59)の「さらりと生きる」(4日)

の──3点です。

 映像文化関係者の話ですが、テロリズムの映画などで、いくら迫力のある映像を作っても、9.11の映像以上にリアリティーのあるものはできにくいそうです。同様に、自然災害のパニック映像の作成も、3.11の映像以上のリアリティーは難しいそうです。3月11日が近づいてきました。言語文化にはどのような表現の可能性があるのでしょうか。
 道田道範さんの「ラストシーン」は心温まる内容です。病院で見かけた、上品で温かい雰囲気の老夫婦の情景のスケッチですが、素晴らしい夫婦愛を見つけるのも、思いやりと包容力のある観察者の心が必要のようです。
 種子田真理さんの「マイ骨壺」は、骨壺の話は文章にし難いものですが、感じのいい内容にまとまっています。有田の陶器店で買った、桜の図柄の骨壺が気に入った御母堂は、桐箱に入れて、来客にも披露しているという、その情景が目に浮かぶような文章です。
 萩原裕子さんの「さらりと生きる」は、題とは異なる、暗い悲しい内容です。御主人の病状が思わしくなく、それを悲しむ自分を逆に御主人が慰めてくれるという内容です。「さらりと生きる」と言っても、老いと死の問題はそれほど簡単なものではありません。文章表現はあるいは一つの解決策になるかもしれません。
 入選作の他に3編を紹介します。
 阿久根市大川、的場豊子さん(66)の「もったいないⅡ」(30日)は、片付け方の本を読んで、ゴミ5袋分を捨てることにしたが、ゴミ出しまでの間に、逆にゴミの量が減ってしまったという、もったいない世代の心理が描かれています。
 鹿屋市寿、小幡晋一郎さん(79)の「偶然の数字」(17日)は、車の購入日が11年11月11日であったり、父親の誕生と死亡が同月同日であったり、私たちが偶然の数字の巡り合わせのなかで生きている不思議が書かれています。古い中国では、運命のことを「数」といいます。
鹿児島大学名誉教授・石田忠彦

はがき随筆12月度入選

2012-01-27 21:50:02 | 受賞作品
 はがき随筆12月度の入選作品が決まりました。
▽出水市下知識町、塩田きぬ子さん(61)の「子宝」(10日)
▽姶良市西餅田、山下恰さん(65)の「日暦」(17日)
▽肝付町前田、永瀬悦子さん(53)の「年金波止場」

──の3作品です。

 暮れから新年にかけて、東北災害関係のテレビ番組をたくさん見ました。その中で心に残った言葉を二つ。「心は流されない」。「笑顔でいてください、不幸は悲しい顔が好きですから」。生きる力の出る言葉です。
 平成24年が始まりました。皆さんも言葉の力を信じて、すばらしい随筆に挑戦してください。
 塩田きぬ子さんの「子宝」は、貧しくても子宝があるが口癖の両親のもとに育ったが、今や老婆とは誰も暮らしていない。法人ホームに見舞いに行くと、入所者の「子宝」という書が貼ってあり、その前を逃げるように帰って来たという、身につまされる内容です。
 山下恰さんの「日暦」は、日めくりの暦に書いてある処世訓などを、朝食の時に話してくれた祖父の思い出です。日めくりを復活させ、孫に話を聞かせても、信じるかどうか自信がない。暦が共通話題だったころへの懐旧の念です。
 永瀬悦子さんの「年金波止場」は、昔住んでいた古い家を、両親は別荘と呼んで手入れに通っている。その港町の堤防は釣り客で賑わっているが、そこでの会話も楽しいらしい。名づけて年金波止場。このような交流の場があるのはいいですね。
 優秀作のほかに3編を紹介します。
 鹿屋市寿、小幡晋一郎さん(79)の「神様も誤算を」(25日)は、都井岬で聞いた寓話の紹介ですが、それが現在の長寿社会への風刺になっています。大昔、神様が動物の年定めをした時に、人間だけは欲張って長寿を望んだというものです。その結果は。
 肝付町新富、鳥取部京子さん(72)の「美しい洋食皿」(6日)は、金物店で、陳列の皿に触れたら壊れてしまった。そのまま店を出ようとしたが、やはり気になって店主にいうと、もともと割れていたということがわかりホッとしたという内容です。
 志布志市志布志町、一木法明さん(76)の「霜月の風」は、かつては11月ともなると、稲こぎ、わらこずみなど季節の推移を感じさせてくれるものがあったが、今はそういうものが何にもない。田の神様だけが元のまま立っているという、寂しい風景です。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

はがき随筆11月度入選

2011-12-27 21:38:49 | 受賞作品
 はがき随筆11月度の入選作品が決まりました。
▽出水市大野原町、小村忍さん(68)の「背伸びした夢」(1日)
▽同市緑町、道田道範さん(62)の「博士」(22日)
▽志布志市志布志町内之倉、一木法明さん(76)の「お陰さま」(4日)

──の3点です。

 小説家の海音寺潮五郎忌で大口に行きました。北薩の初秋の風物を愛でていると、市役所の人に、「でも寒いですよ」と言われました。来訪者と生活者との感覚の違いに思い至りましたが、それでも、澄んだ空気を満喫して帰って来ました。
 今月も、季節の推移それに老後の生活を内容としたものが、目立ちました。
 小村忍さんの「背伸びした夢」は、光を失った方の音楽会を成功させようという、身の丈をこえた夢の実現に向けて頑張った挙げ句、夜中に悪夢にうなされたという内容です。ご自分の背の低さを背伸びした夢に結びつけた書き出しの意外性が面白く、また夢の多様性が生きています。
 道田道範さんの「博士」は、野菜売り場の店先で、ご婦人方に大根の漬物の作り方を教授していると、大根が売り切れただけでなく、翌日には漬物博士絶賛のレシピとして、広告に使われたという飄逸な内容で、文章のこの軽みがいいですね。
 一木法明さんの「お陰さま」は。他力へ感謝しての生活態度の感謝ですが、それが抹香臭くなく、日常茶飯事として書かれているところに説得力があります。私も、人は生かされているという信念で描かれる、東山魁夷の日本画が好きです。
入選作の外に3編を紹介します。鹿児島市錦江台、岩田昭治さん(72)の「私の生き方」(5日)は、現役生活の時は何かと多忙であったが、感謝の気持で回顧している。さて、今からの生活をいかに送るか、……。誰にとっても、自分の老いとどのように和解するかは、大問題ですね。
 同市城山、竹之内美知子さん(77)の「母に似て」(13日)は、外反母趾だった母親の足に自分も似て来たという内容です。亡き人の思い出は、何がきっかけになるか分かりません。
 鹿屋市串良町上小原、門倉キヨ子さん(10日)は、秋の訪れは、初めは背後から忍び寄り、やがて正面からやって来るという表現がすばらしい。ところが今年はいきなり真正面からやって来たので、慌てている。それでもムカゴご飯を楽しめたという内容です。
  (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

はがき随筆10月度入選

2011-11-18 22:24:20 | 受賞作品
 はがき随筆10月度入選作品が決まりました。
▽肝付町新富、鳥取部京子さん(72)の「秋を探しに」(22日)
▽同町前田、永瀬悦子さん(61)の「親指も」(7日)
▽出水市高尾野町下水流、畠中大喜さん(74)の「熟した柿の実」

──の3点です。

 今月は軽妙な味のある文章が沢山ありました。優れたものを数編紹介します。
 中種子町増田、西田光子さん(53)の「8月の思い出」(21日)は、夫婦で韓国に旅行し、映画館で言葉が分からないまま、館内の人々の笑うところで、ご主人の指示で自分たちも笑ったというおかしな内容です。
 鹿児島市魚見町、高橋誠さん(60)の「ロイド君」(7日)は、夫婦だけの生活で、「両手をついて玄関で送り迎えをしてくれる」のは、三毛猫だけだという侘びしいようなおかしいような内容で、猫の格好が彷彿と目に浮かびます。
 出水市武本、中島征士さん(66)は、中学の田植えの授業で、雨が降ると、女子学生のシャツが肌にピッタリくっつくのがまぶしかった、というのを、現在魚拓の取り方を教えていて思い出したという内容で、連想の妙ここにきわまれりという感じです。
 志布志市有明町野井倉、若宮庸成さん(72)の「千代美」(6日)は、老衰の愛猫が犬小屋で眠っているのを、愛犬が入り口で守っているという内容です。それが親子のように見えてしかたがない。
 肝付町前田、吉井三男さん(69)の「良か晩な~」(15日)は、頂き物の秋茄子の、調理法が羅列してあるだけの文章ですが、すごく豊かな晩酌付きの夕餉にみえてきます。
 次に入選作を3片紹介します。
 鳥取部京子さんの「秋を探しに」は、弟さんが姉さんの真似をして、連休は秋を探しに行った、と言ったら、みんなに笑われてしまった。同じ言葉でも、その言葉が似合わない人がいるものだという内容です。「言葉が似合わない」という表現はすばらしいですね。
 永瀬悦子さんの「親指も」は、親指を怪我して以来その不自由さに困ってしまい、母親に手助けしてもらっている。指も家族も親が有難いという内容で、肉親と手の指との対比が面白い文章にしています。
 畠中大喜さんの「熟し柿の実」は、庭に熟した柿の実がそのままの形で落ちていることがある。それを静かに拾って食べる至福の時が、読んでいる人にも感じられるような文章です。私もかつて物置の籾殻の中から熟柿を取り出した感触を思い出しました。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

はがき随筆9月度入選

2011-10-26 21:50:55 | 受賞作品
 はがき随筆9月度の入選作品が決まりました。

▽鹿児島市薬師、種子田真理さん(59)の「異床同夢」(19日)
▽同市城山、竹之内美知子さん(77)の「真夜中の報告」(1日
▽屋久島町平内、山内淳子さん(53)の「涼風」(23日)

の3点です。

 季節の変わり目のせいか、夏の草花を愛でたり、初秋の菜園の稔りを楽しんだり、という季節感を表した文章が、9月は多かったようです。それぞれに心なごませる文章でしたが、難を言えば、もうひとひねり欲しいという印象をもちました。
 種子田真理さんの「異床同夢」は、交際中に、煙草を止めたご主人が吸いたがっている夢を見たことを話すと、ご主人も吸ってしまった夢を見たという不思議な経験が書かれています。霊の交感とまではいいませんが、夏目漱石が『漾虚集(ようきょしゅう)』でそのことを小説にしています。
 竹之内美知子さんの「真夜中の報告」は、ご主人の初盆に帰省した孫娘が、プロポーズしてくれた恋人の印象を話してくれた。お祖父ちゃんにどこか似ているという報告に、思わず胸がときめいた「お盆の夜」のことでした。これも『樣虚集』ですが、恋愛感情は遺伝するという小説があります。
 山岡淳子さんの「涼風」は、夏休み中の空っぽの教室で仕事をしていると、涼風が通り抜けた。これを「極楽風」というのかと感謝の気持ちがわいたという、瞬時の感覚をとらえて、それが巧みな文章になっています。こういう感覚には心を洗われるような懐かしさを感じます。
 入選作のほかに3編を紹介します。
 志布志市志布志町志布志、小村豊一郎さん(85)の「彼岸花」(24日)は、その時期になると固い土を割って必ず芽を出す彼岸花の不思議が描かれています。そこから、若山牧水の生家の彼岸花、それに墓参などを連想し、自然の神秘に思いを馳せた文章です。
 指宿市十二町、有村好一さん(62)の「FMかのや」(2日)は、故郷から内海を隔てた指宿に暮らしていて、FMかのやから聞こえて来る大隅の方言を懐かしんでいるという内容です。何時まで経っても「ふるさとの訛りなつかし」ですね。
 出水市大野原町、小村忍さん(68)の「伝説の大楠」(25日)は、恋を裂かれた二人が、それぞれの思いを楠の実に託して植え、大楠になったという伝説の紹介です。恋はかなえられないものだからこそ、このような伝説に憧れるのでしょうね。
  (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

はがき随筆8月度入選

2011-09-17 22:32:35 | 受賞作品
 はがき随筆8月度入選作品がきまりました。
▽出水市明神町、清水昌子さん(58)の「合歓の花」(4日)
▽肝付町前田、吉井三男さん(69)の「名言」(11日)
▽鹿屋市串良町上小原、門倉キヨ子さん(75)の「成長見っけ!」(17日)

──の3点です。

 8月のせいか、敗戦の記憶や過去を回顧する文章がかなりありました。まだ8月15日は日本人にとって一つの区切りのようです。同じように3月11日が、私たちの心に与えた影響の大きさは、果たして消える時がくるのかどうか。
 清水昌子さんの「合歓の花」は、おれんじ鉄道の沿線の景色を堪能するなかでも、阿久根市の合歓の花に、幼児の晴れ着を連想し、その連想から大災害で亡くなった幼児たちに思いを馳せた文章です。合歓の花を鎮魂の花という美しい見立てです。
 吉井三男さんの「名言」は、病院で置き引きを注意する看護師の、生活に困っているというより、働く意欲がなく、間違った意志と知恵があるだけだという「名言」に感心したという文章です。どうしても、思いは福島での空き巣の横行に走ります。人間の救われなさが悲しくなります。
 門倉キヨ子さんの「成長見っけ!」は、ジュニアパイロットで帰省した孫娘に、家庭菜園の野菜の料理を食べさせると、敵もさるもの、節電節水のエコライフを熱心に語り、帰りは野菜類を持ち帰ってくれたという、微笑ましい内容です。
 以上の優秀作の外に3編を紹介します。
 姶良市加治木町錦江町、堀美代子さん(56)の「メタボ症候群」(7日)は、夫婦そろって検診に引っかかったので、食事を減量して、その節約額を震災地の募金にしている。効果が現れ、一石二鳥と喜んでいるという内容です。
 出水市下知識、塩田幸弘さん(63)の「泣いたトロンボーン」(10日)は、50年前集団就職の先輩たちをトロンボーンの演奏で見送った思い出です。現在の豊かさを実感するにつけても、関門海峡を越えるまで、すすり泣きが聞こえたという話を悲しく思い出すという内容です。
 同市上知識町、年神貞子さん(75)の「万華鏡」(14日)は、美しい文章です。こどもの時から万華鏡を作ってみたいという願望が、小学低学年のサンデイ・サイエンスに参加して、やっと実現した。昔の色紙の小片のと異なる、光の屈折で起こる多彩な模様を楽しみ、かつ、時の流れを感じたという内容です。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)