毎日のできごとの反省

 毎日、見たこと、聞いたこと、考えたこと、好きなことを書きます。
歴史、政治、プラモ、イラストなどです。

書評・膨張するドイツの衝撃 西尾幹二・川口マーン恵美

2015-10-05 13:16:00 | Weblog

 エマニュエル・トッドというフランス人が書いた本とよく似た内容を思わせるタイトルである。ところが、読んでみると、意外やドイツが膨張して帝国化する、ということはたいして書かれていないのである。それどころか、ドイツがホロコースト後遺症に悩まされていて、悲惨な状態にある、という印象の方が強い。それでも、二人はドイツの事情に詳しいから、本としては興味深い。ドイツの事情を日本人がいかに知らないか、よく分かる。

 ナチスドイツが第三帝国と呼ばれたのは、神聖ローマ帝国、ビスマルクのドイツ帝国の次だからだ(P4)そうである。神聖ローマ帝国がドイツ帝国だとは、迂闊にも知らなかった。しかも、フランスなどを含み、現在のEUとかなり重複し、帝国を統括する行政機関もナショナリズムもなかったこともEUに似ているのだそうだ。

 だが帝国というものは、行政機関はともかく、ナショナリズムはないものであろう。元朝も清朝も、モンゴルや満洲と言う中央行政機関はあったが、元人や清人と言えるナショナリズムはなかった。米国は多人種国家ではあるが、ナショナリズムらしきものはある。中共は中華民族と言うナショナリズムを鼓吹しているが、成功はすまい。米国と中共の違いは、元や清と同じく中共は、地域別に民族が分布しているのに対して、米国は各地に多民族が入り混じっていることである。だから米国は分裂の可能性は少ないし、ナショナリズムの涵養の可能性はある。

 さて本に戻ると、EUでダントツなのは、ドイツである。残りはドイツのおまけか、利用されているだけであり、ギリシア人のドイツ憎悪は危険な水準にある(P4)のだという。なるほどドイツはホロコーストなどの補償はしたが、戦時賠償はしていないから、ギリシアが苦し紛れに賠償金をよこせ、というのも一理ある。日本と違い、ドイツはどこの国とも講和条約を結んでいないのである。

 日本でドイツに好感を持っている人は多いが、ドイツ人は日本嫌いが多いそうである。日本にある「ドイツ東洋文化研究会」なるものは反日的ドイツ人の集まりで、西尾氏もかつてはよく行ったが、人気のある日本人は反日の知識人、例えば大江健三郎、加藤周一、小田実が歓迎された(P26)そうであり、ドイツ人は彼等を神のように持ち上げていたのだそうだ。

 ドイツと中国の関係については、戦前の軍事顧問派遣など、協力関係があった。ドイツから現在も接近している。にもかかわらず、ドイツを訪れた習近平主席が、ホロコーストの記念館に行きたいと打診した時、メルケル首相は断っている。それは、中国の日本叩きに利用されたくない、という意思表示(P36)だそうである。ドイツが中国に接近するのは、ドイツが中国で被害を受けていないからである。日米は共に、人的経済的に多大な被害を受けている。イギリスなどは、香港人なる人種を作った位だから、儲けていたのだろう。

 情けないのは日本で、岡田克也民主党代表は、メルケル首相と会談した時、メルケル首相が「日韓関係は和解が重要だ」と発言したと述べた。ところが、ドイツ政府は「そんな事実はない」と否定したのだ(P37)。外国政治家の発言を使って嘘をついてまで、自国を貶めようとする岡田氏は、国際水準からは政治家失格である。

 ドイツはユダヤ人虐殺のレッテルを貼られ苦しんでいる。しかし、ドイツも恐ろしい被害を受けている。「ドイツ全体では、ソ連兵による婦女暴行が五十万件、米兵によるものが十九万件とされます・・・ドイツの敗戦が決まってからは、追放されたドイツ人の逃避行がそれに加わり、・・・死者と行方不明者は合わせて三〇〇万人と推計されています。(P107)」 すさまじい数字ではないか。米軍は人道的である、というのは宣伝に過ぎないのだ。

ところがドイツでは最近、マスコミが突如として、敗戦後に受けたドイツ人の迫害を語り始めた、というのだ。それまでは、そういうことを言うと、ホロコーストを持ち出されるので、絶対に言えなかった。ドイツの反撃は始まったのである。川口氏の子供たちはドイツ人だと言うから、ドイツ国籍があるのだろう。ドイツの公式な立場としては、ホロコーストはナチスの犯罪で、法的に一般のドイツ人には関係はないが、同じドイツ人として賠償する責任だけはある、という立場である。

しかし川口氏の子供たちは、自分が生きた時代ではないし、自分がしたわけではないから、なぜ自分たちに賠償責任があるのか、というのだそうである。まして日本人とのハーフである。そして、外国から移民して帰化しても、ドイツ人だから賠償責任がある、などと言われたらたまったものではない、というのは当然であろう。

 日本の戦時の慰安婦問題が、性奴隷として米国で中韓と反日日本人によって宣伝されている。ドイツ国防軍が日本と異なり、直営の売春宿を経営していた(P120)ばかりか、そこで使う売春婦とは、占領地域から女性を拉致して使っていた、というからまさに性奴隷である。ドイツは「『慰安婦』の苦しみの承認と補償」という国会決議をしようとしたが採択されなかった(P119)。それは決議をしようものなら、ドイツ軍の慰安婦制度の悪質さの全貌が出てしまうから、だというのだ。

 ドイツ軍直営の売春宿で、拉致された女性が性奴隷同然に働かされている、という翻訳本は、反日で有名な明石書店からも出されている。それなら明石書店関係者や同書を読んだ反日日本人は、ドイツのひどさと日本の慰安所とは違う、と分かるはずだと思ったが、逆なのであろう。ドイツ軍にもあるのだから、日本軍も同じシステムだろうと思い込むのである。誤解が解けるのではなく、日本軍の「悪逆」をますます確信するのである。

 この本では「EUは明らかに『難民の悲劇』に責任がある(P147)」というのだが、この時はまだシリア難民の大量流入という事態が発生していなかったから、EUは既に難民問題で苦しんでいたのである。EU、特にドイツという豊かな国があれば、水が高いところから低いところに流れるように、自然に難民が発生し、助ければ助けるほど期待して、難民は増える、という。ボートの難民が何百人も死ぬ、という事件が頻発しているのである。

 当時の難民はリビアが多く、予備軍は百万人はいるのだそうだが、リビアから難民が発生したのはNATOが介入してカダフィ政権を倒し、国家が消滅し密航の基地になっているからである。治安は乱れに乱れて、「殺人事件の発生率はカダフィ政権時代のなんと五万倍(!)といいます。こうした現象にEUは責任がないといえるでしょうか?なにが民主主義かと思いますね。(P150)」

 西洋人の発展途上国に対する人道的干渉は、実にエゴイスティック、かつ惨憺たる結果になっている。世界で最も独裁的で、異民族の迫害を大規模に行っている中共を、経済的利益が得られるから丁重に扱っておいて、小悪魔に過ぎない、カダフィやフセインを殺すのである。ドイツは難民問題とともに移民問題もかかえている。帰化したものも含めたら、移民は膨大な数になる。しかも、移民は下層にいるから貧困にあえいでいて、すさんだ生活をしている。だから、移民のいる下層の子供の通う学校は崩壊している。ドイツ人も格差が大きく、そんな学校にしか通えない家庭も多いのである。

 ドイツの膨張を言いながら、ニーチェが「ヨーロッパの没落は二百年後」(P95)と予言し、それは2100年になるのだが、ヨーロッパの終焉が来つつある、という。終焉とは「乱れ果てた廃墟のような土地、貧しく荒れた世界・・・移民になって出稼ぎに外国へでていかねばならないような土地になる」ことだそうである。

 福島原発が被災すると、保守系では反原発を珍しく唱えたのが、西尾氏である。メルケル首相は原発問題でも狡猾である。反原発のSPD政権が野党になると、メルケル首相は原発の稼働年数を12年延長する、という法律を通した。ところが野党ばかりか、国民の反発がすさまじかった。

 これでは以後の選挙にも勝てないし、かといって法律も引っ込められない窮地に陥っていた時起ったのが、福島の事故である。これを奇貨とばかり、メルケルはSPD以上に過激になって、2022年までに全原発を停止すると決定した(P201)。ドイツの脱原発は票欲しさに促進されたのである。

 西尾氏の脱原発の理由には興味があった。川口氏は原発必要論者である。西尾氏は即原発停止ではないが、放射性物質が無害化される技術がない限りは、地震国日本では危険で、各種発電方法のベストミックスを求め、40年後に廃炉になったら、おのずと原発はなくなる、というのである(P211)。

 原発は安いと言われるが、国税による研究開発費、地元対策費、廃棄物処理コストを加えると決して安くはない。西尾氏の不信感の根本は、地震にあるのではなく、原発にかかわる人たちの人間的劣悪さにあるのだという。原発にかかわる人たちとは、東電の幹部、東大の原子力科学者、経産省の幹部、原子力安全委員会委員長、原子力保安院幹部、原発メーカーの幹部など、全てが東大工学部原子力工学科出身者であり、いわゆる東大原子力村の面々だということである。

 米国の原発は元々軍事技術からきているため、「アメリカの原発はそうした軍事システムのうえで稼働していますから、常に最悪を想定し、警戒し、用意しています。(P214)」日本は「軍事的裏付けなしで、ただひたすら「原子力の平和利用」という掛け声のもとに進められてきた日本の原発は“戦後平和主義のシンボル”以外のなにものでもなかった・・・」

 つまり「日本の原発の『安全神話』は、その意味で、戦後日本の平和思想と国防への無関心・・・で形成された一種の“幻想”でした。(P215)」と言われると、保守の権化の西尾氏の言う理由は分かる。ちなみに韓国では海に面して原発があり、外壁に機関銃座があるのだという。テロリストに対して軍隊が守っているのである。これに対して日本の状況はお寒い限りである。

 西尾氏の反原発には興味があったが、一冊わさわざ読むのも、と思っていたので、うまく要約してあって助かった。だが、冒頭に書いた通り、ドイツに関しては、膨張するという迫力よりも、衰退に対してEUによって抗い、ナチスの後遺症で苦しんでいるのが、ようやく脱することを始めた兆候がある、ということが書かれている。小生は、ドイツ統一が成されたら、即動き出すと思ったが、ドイツは慎重だった。

 ドイツと英国が理由は異なるが、EU強化をめざしているが、行き着く先はEU崩壊か、神聖ローマ帝国型に落ち着くか、二択だという。世間の大方の予測は、EUの崩壊であろう。ドイツの利益が大きすぎるし、本来入れるべきではない異質な国家まで入れ過ぎたのである。西尾氏自身も、かなり前から、ドイツはマルクに回帰する、と言っているのである。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿