毎日のできごとの反省

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何故中共政府は北京語を強制するのか

2017-04-06 16:06:32 | 支那大陸論

 以前、楊海英氏の「逆転の大中国史」を引用して、中共の言う標準語の普通話は、実は満洲旗人すなわちMandarinの話す、北京官話を基にしたものである、と書いた。北京官話とは清朝宮廷で使われていた満洲語だから、普通話とは、広東語などの他の漢語とは少々異なり、非「漢民族」言語の満洲語から生まれたものである。満洲語と普通話の相違は、例えれば江戸弁と日本語の標準語の関係と似たものである。

今、中共政府は、普通話なるものを支配地全土に強制している。つまり満洲語を全国民に強制しているのに等しい。清朝を倒した辛亥革命は「滅満興漢」を合言葉にしていたから、満洲人は「漢民族」ではない、異民族と認識していたのである。「漢民族」を自称する中共幹部が、元来異民族言語と考えられていた、満洲語を強制しているのは奇怪なことである。それは中共が「中華民族」という架空の民族による国民国家である、と主張したいからである。

もちろん、チベットやウイグルなどの異民族を支配している、植民地帝国が国民国家の概念にあてはまるはずはない。それどころか、漢民族と言われている人々の間にさえ、広東語などは北京語と異なり繁体字という伝統的な漢字を使い、話し言葉ばかりか文字表記すら異なるという「民族性」の相違がある。実は問題はそこにある。

もともと話し言葉である漢語の文字表記はなかった。それにもかかわらず、支那大陸で使われていた文字表記は、漢文であった。漢文によって、読みはともかく、支那全土で表記法を統一してきた。福建語、広東語などいくつかの異言語を話す人たちが、漢文と言う共通表記を使う「漢民族」という概念でくくられていたのである。ところが、辛亥革命以後、話し言葉の漢字表記が行われるようになった。そのトップランナーが北京語だったのである。

その後広東語なども漢字表記が行われるようになった。だから、これらの漢字表記の文章はかつての漢文とは全く異なる。現代「中国人」は北京語、広東語などの漢語の文字表記は読めたとしても、四書五経の漢文は読めないのである。それどころか、北京語からできた普通話は従来の漢字を省略した「簡体字」に移行してしまった。普通話標記の文章を読む人は、表意文字たる漢字の伝統的な意味すら忘れつつある。

それでも普通話を強制しているのは、かつて「漢民族」の統一の象徴である漢文を全国民に強制することは、物理的に不可能だからである。元々「漢民族」といっても漢文を読めるのは、ほんの一部の知識階級に過ぎず、大多数の「漢民族」は文盲だったから、漢字を使うから「漢民族」であるということすら奇妙なのである。逆に「異民族」たるモンゴル人や満洲人は話し言葉の文字表記がある。モンゴル語はモンゴル文字、満洲語は満洲文字と言う表音文字で文章が書ける。

全ての問題は漢字が表音文字ではなく、表意文字であることにある。だから同じ四書五経を読んでも漢王朝時代と、唐王朝では発音が全く異なる、という奇妙なことさえ起る。アルファベット表記のドイツ語、英語、フランス語などと比較してみれば、その不思議さがよくわかる。ともかくも漢文自体が、話し言葉の文字表記ではないことと、読解の難解さから、中共は全国民に統一した言語を使わせるのには、習得が容易な普通話を強制せざるを得なかったのである。そればかりか、漢字自体が文字として複雑すぎるという事で、漢字を省略した「簡体字」さえ作った。

広東語などではなく、北京官話に基を発する普通話が選ばれたのは、辛亥革命を起こした中心人物たちの多くや教養人が首都北京にいて、北京官話とその漢字表記に習熟していたからであろうと想像する。それ以前から支那北部の人々は、北方民族の影響を受け、北方言語化していたから、北京官話はさほど違和感なく習得できたのだ、とも言われている。

ちなみに、最初の国家元首たる毛沢東は、江南の言葉を話したので、彼の演説はほほとんどの国民に理解できなかったのだ、という。当然である。そこで彼の演説を理解させるために、漢字表記のペーパーが配られたのだ、という。毛沢東が国民に自分のネイティブな言語を強制しなかったのは、あまりにマイナーな言語だったからであろう。スターリンはグルジア(ジョージア)人である。だが国民にグルジア語を強制せず、ロシア語を使わせたのと同じことであろう。

ジャッキー・チェンは香港の人である。そこで彼の映画には、広東語が使われる。かなり以前だが、ジャッキー・チェンのレンタルビデオの箱を見たら、日本語字幕以外に「中国語字幕」とか「簡体字字幕」とか書いてあった。要するに彼の映画は、広東語を理解できないほとんどの人には、普通話の字幕が必要なのである。この例で普通話と広東語の相違は方言レベルではなく、異言語のレベルだと理解できるだろう。

それでは、中共全土を普通話で統一する試みは成功するであろうか。もちろん小生は成功すべきではないと思う。普通話による統一は、日本での方言を標準語で統一するのとはわけが違う。チベットやウイグルの民族絶滅(エスニック・クレンジング)政策である。絶滅されるのは、これらの民族だけではない。福建語や広東語を話す民族をも絶滅させる恐ろしい政策である。

だが、結果は時間の経過による。かつての王朝と同様に、いずれ中共は崩壊する。それまでの時間の問題であろう。かつての歴代王朝は王朝の支配民族言語を強制はしなかった。それが支那大陸にいくつもの言語が保存されたひとつの原因であろう。中共は巨大な帝国の言語を統一するという、古今東西行われなかった試みをしつつある。


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