褒めまくる映画伝道師のブログ

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映画 若者のすべて(1960) 移民の悲劇を描く

2022年02月22日 | 映画(わ行)
 我が国ニッポンにおいては経済は東京の一極集中で地方の疲弊は目を覆うばかり。特に地方では仕事がないから、都会へ出ていき故郷を捨ててしまう若者が後を絶たない。しかしながら、そのような状況は日本だけの問題ではない。今回紹介する映画若者のすべてはイタリアの南北の経済格差をテーマに、貧しい南部からやってきた移民家族の悲劇を3時間を掛けて描いた叙事詩的ドラマ。1960年公開の昔の映画だが、今もイタリアは南北問題は解消されてないままで、南部の失業率は北部の4倍に当たる。
 ちなみに邦題はちょっと昔にあったキムタクの主演ドラマと同じだが、イタリア語の原題は『 Rocco e i suoi fratelli』。意味は「ロッコと彼の兄弟たち」。男ばかりの5人兄弟の家族なのだが、三男がロッコであり、当時バリバリの売り出し中であった絶世の美男子であったアラン・ドロンが演じる。

 まるで性格が異なる5人兄弟が夢と希望を持ってやってきた都会で味わう大きな挫折をドラマティックな展開で見せるストーリーの紹介をできるだけ簡単にしてみよう。
 旦那が亡くなったことを切っ掛けに、極貧生活にあえいでいたイタリアの南部を捨てて未亡人のロザリア(カティーナ・パクシヌー)と4人の息子たちが、すでにミラノに出稼ぎにきていた長男のヴィンチェンツォ(スピロス・フォーカス)を頼ってやってきた。しかしながら、イタリアの北部の人々は南部の人に差別感情を持っており、その日暮らしの生活を余儀なくされていた。
 長男のヴィンチェンツォは婚約者ジネッタ(クラウディア・カルディナーレ)が居ながら日雇いの仕事をこなす毎日、次男のシモーネ(レナート・サルヴァトーリ)は兄がかつて通っていたボクシングジムに顔を出すと素質を見込まれボクサーとして活躍するが、次第に練習に実が入らなくなり、娼婦のナディア(アニー・ジラルド)にうつつを抜かす始末。三男のロッコ(アラン・ドロン)はクリーニング店で働くが、ナディアのためにカネを使いまくっているシモーネが女店主のブローチを盗んだためにクビになってしまう。四男のチーロ(マックス・カルティエ)はバイトをしながら学業に励み、五男で末っ子のルーカはまだ幼い。
 ある日のことロッコに徴兵の命令がくだり、彼は街を去る。それから1年2か月後の兵役中に偶然にも出会ったのが、兄のシモーネの前から突然姿を消したナディア。ロッコとナディアはお互いの境遇を話し合ったり、ロッコの優しさにナディアは惹かれていき、2人は愛しあうようになる。
 ロッコは兵役が終わり、ミラノに戻ってくる。シモーネはすっかりボクサーとしては落ちぶれてしまっており生活も荒んでいた。しかし、ジムのトレーナーはロッコにボクサーとしての才能を見出し、ロッコはボクサーとして次第に頭角を現す。ロッコとナディアの関係は順調だったのだが、シモーネが2人の関係を悪友から聞かされる。嫉妬に狂ったシモーネは仲間を連れてロッコとナディアのデートしている所を襲いかかり、押さえつけられたロッコの目の前で、シモーネはナディアを強姦してしまい・・・

 長男はジネッタと結婚し子供も産まれ貧しいながらも普通の生活を営む。四男のチーロは勉学の苦労をしながらも高級自動車メーカーのアルファロメオの技師として就職し、彼女との付き合いも上手くいっている。しかし、シモーネは都会の生活に毒されてしまい最低のクズっぷりを発揮する。長男は自分さえ良ければ他はどうでも良いという自己中。次男はクズ。四男は考え方はマトモで観ている我々からすれば最も共感できる。五男はまだ幼いが母や兄貴たちを癒す存在。そんな中でアラン・ドロン演じる三男のロッコの性格が度を越えるお人好し。俺のことを百人に訊いたら、百人とも優しいと言われてしまう自分もビックリするぐらいの優しさ。
 彼女を強姦したシモーネに対するロッコの接し方は聖人ぶりを発揮する。とにかくここでネタ晴らしはしたくないのだが、シモーネの悪行の数々をかばい続けるのだ。例えて言うならば、あえて裸足で茨の道を進むかの如く、さらには全世界の人々の罪を背負い込んだイエス・キリストの如く、または滝に打たれて限界に挑む修行僧の如く。いくら兄貴でもクズに対して慈悲の心で接することは果たして正しいのか。そもそも、こんな何でもかんでも許してしまう奴が居るかよってか。
 本当に救いようのないストーリーに思われるが、最後に四男のチーロがまだ人生をわかっていない五男のルーカに語る台詞が良い。この台詞を聞いた時、何だか急に前向きに生きようと思えた。イタリアが抱える南北問題、親子の絆、兄弟の絆、都会の闇、裏切り、人間の欲望をあぶり出す若者のすべてを今回はお勧め映画として挙げておこう

 監督はイタリアの巨匠でその作品群は名作ばかりという貴族の末裔でもあるルキノ・ヴィスコンティ。そんな大金持ちが格差社会を貧しい立場の側から描くことに、この監督の偉大さがある。個人的に俺が観てきたヴィスコンティ監督の作品の中では本作が一番のお気に入り。他に女の情念をアリダ・ヴァリ主演で描く夏の嵐、見た目からして製作費を注ぎ込んでいることがわかる豪華絢爛という言葉そのまま当てはまるルードヴィヒ、貴族社会の没落を描いた山猫、ナチスドイツの影響下での鉄鋼会社の没落をバイオレンス、女装、ロリコン、近親相姦といった何でもありの表現で描いた地獄に堕ちた勇者ども、芸術を愛し静かに暮らすことを望んでいた老教授(バート・ランカスター)の家に邪魔者が入ってくる家族の肖像、これまた貴族の没落を描いた彼の遺作であるイノセントがお勧め。他に個人的にはどうも苦手なのですが、彼の代表作と言って良いベニスに死すも挙げておきます。
 

 


 
 
  


 
 
 
 
 
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