褒めまくる映画伝道師のブログ

映画の記事がメイン。自己基準で良かった映画ばかり紹介します。とにかく褒めることがコンセプトです。

映画 小間使の日記(1964) 上流階級を皮肉る

2023年08月29日 | 映画(か行)
 かつてのヨーロッパでは貴族社会が存在していた名残りか、映画でも召使いが雇われているシーンを多く見かける。今では余程の金持ちでも、召使いさんを雇うような余裕なんかない。そもそもそのような映画を見ていると、そんな事ぐらい召使いにやらせないで自分でやれ、とついついツッコミを入れたくなってしまう。
 さて召使いを雇っている上流階級に対して皮肉的な映画を多く撮っているのがルイス・ブニュエル監督。本作でも上流階級に属すると思われる一家の者を変人扱いしているのが笑える。そんな社会でこき使われる召使いの女主人公であるジャンヌ・モローが何かと理不尽な要求や嫌がらせを受けるのだが、なかなかこの主人公が一筋縄ではいかないメンタルを持ち合わせている。

 上流社会一家のアホさに最初の方はコメディかと思ってたら、途中からはミステリーに変わるようなストーリーの紹介を。
 パリから田舎に出てきて、モンテユウ家に小間使い(召使い)として雇われたセレスチーヌ(ジャンヌ・モロー)。ところがその一家に着くと夫人は嫌がらせをするし、夫のモンテユウ(ミシェル・ピコリ)は女遊びと狩りばっかりやっていて、やっぱりと言うべきかセレスチーヌにも迫ってくる。そして、夫人の老父は婦人靴に妙に執着しており、セレスチーヌにお気に入りの婦人靴を履かして嬉嬉としている。同じく召使いとして仕えているジョゼフ(ジョルジュ・ジェレ)も屋敷の近くに住んでいる少女に対する目付きが何となく汚らわしい。そして隣人である退役した軍人であるモージェ氏が恋人と住んでいるのだが、両家は非常に仲が悪く、モージェ氏はモンテユウ家の庭にゴミなどを投棄してくる。
 ある日のこと、老父はセレスチーヌに履かせた靴を抱きながら死んでしまったり、セレスチーヌが可愛がっていた少女が1週間行方不明になったりで、セレスチーヌはパリに戻ることを決心する。しかし、少女が近くの森で惨殺されて発見されたことを耳にし、少女殺しの犯人を探し出すためにモンテユウ家に戻ってくるのだが・・・

 セレスチーヌはパワハラ、セクハラだけでなくジョゼフからは行動を監視されたりで嫌な目に遭うが、そんなことでは挫けない。時には冷笑を浮かべているような余裕すら感じさせる。これは浮世離れした言動をする上流階級の人々に対する嘲りの態度のように見えなくもない。
 そして、この映画の本領を発揮するのがセレスチーヌが再度モンテユウ家に帰ってから。自分の美貌を武器に少女殺しの犯人らしき人物をあの手この手で陥れようとする手段が笑えた。しかし、本作の結末は意外過ぎるし、何となく嫌な感じがしたりで監督らしさが表れている。
 他にも葉の上に止まった小さな蝶々がデカいライフル銃で撃たれたり、外で斧で薪割りをしていた男がその斧を持って家の中に入って来て扉をぶち破ろうとしたり・・・等など、シュールな場面が多いのも監督らしさが出ていて俺は笑えた。
 ルイス・ブニュエル監督作品と聴いて心が躍る人に、今回は小間使いの日記をお勧めに挙げておこう

 監督は前述している通りルイス・ブニュエル。この人は無宗教なので上流階級と同じように宗教も皮肉るのでよく物議を醸しだした監督です。お勧めは皆殺しの天使ブルジョワジーの密かな愉しみ自由の幻想欲望のあいまいな対象この庭に死す等。真面目な作品も撮りますが、ふざけた作品の方が個人的には気に入っています








  
 


  

 



 

 

 
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映画 戦火のかなた(1946) 戦争の悲惨さがわかります

2023年08月26日 | 映画(さ行)
 第二次世界大戦の末期において、アメリカを中心とする連合軍は1943年7月10日にシチリア島に上陸してから1945年4月にイタリア全土をナチスドイツから解放する。連合軍はイタリアのバルチザンと協力してナチスドイツと戦ったのだが、これが2年近くも掛かっているのだから、相当激しい戦闘が繰り広げられていたに違いない。この時の状況をアメリカ軍、バルチザンからの目線で描いた映画が今回紹介する戦火のかなた。ちなみに本作は1946年に公開だからイタリアが解放されてから公開までに1年ぐらいしか経っていないことになる。確かに映像は瓦礫の山のシーンもあったりで戦争の生生しい雰囲気が出ている。この戦後の映像の機材を持ち出して素人の俳優を使ってロケ撮影を敢行しているところは、まさにネオリアリズモの作風を感じさせる。
 ちなみに本作は6章からなるオムニバス風の作品。前述したように戦争のド迫力シーンは無く、戦場で兵士が撃たれてバタバタ死んでいくようなシーンは殆ど無い。反戦映画だが、戦争とは命を奪うだけでなく人間としての感情を狂わしたり、道理がまかり通らないことも戦争のダメな理由に挙げなければならない。戦争で生き残っても永遠に消えないダメージを受けてしまうことを本作を観ればわかる。

 連合軍がシチリアに上陸してからの6話出てくるが一話すつ簡単にストーリーを述べておこう。
1.連合軍がシチリア島に上陸する。若きアメリカ人の斥候兵と早く戦争が終わって欲しいと願うイタリア人の少女は二人だけになった時に、言葉は少しだけ通じ友情が芽生えるが・・・。

2.ナポリにおいて。アメリカ人の黒人憲兵がイタリア人の少年に酔って寝ている最中に靴を盗まれてしまう。ある日のこと、黒人憲兵はその少年を見つけて靴を取り戻すために少年を引き連れて彼の家に向かうのだが・・・。

3..ローマでは酔ったアメリカ人兵士と拾った娼婦が一室に入って会話をする。兵士が寝そうになりながら『俺らがローマに来た時のイタリア女は本当に良かった』と6カ月前のことを語り出す。実はその時に出会った女が今、目の前にいる娼婦だったのだ。アメリカ人兵士が眠っている間に、娼婦は自分の家の住所をこっそり部屋の管理人に渡すのだが・・・。

4.フィレンツェの野戦病院で働いていた看護婦は、恋人であるバルチザンの闘士が怪我をしているとの噂を聞きつけ、恋人に会うために市街戦の真っ只中で撃ち合いをしている所へ行こうとするのだが・・・。

5.3人のアメリカ従軍僧が宿を借りに、カトリックの修道院を訪ねる。しかしながら3人のアメリカ人は1人はカトリックだが、後の2人はプロテスタントとユダヤ教。頑ななカトリックの神父たちと宗教の対立を起こしてしまい・・・。

6.いよいよ北イタリア。アメリカ兵士とバルチザンは四方八方をナチスドイツに囲まれてしまい、捕虜になってしまう。捕虜の運命は・・・。

 この6話だがどれも最後はハッピーエンドにならない。戦争の悲惨さを描きながら、ナチスドイツに対して敵意を表した内容になっている。しかし、戦争で潰されるのは命や建物だけでない。1において友情が崩れ去り、2においては子供達をスラム街に追い詰め、3においては一生忘れらえない出会いだったはずが、別れはあまりにも脆すぎたり、4においては恋愛関係をあっさりぶった切り、5においては戦争によって出会うことになるイタリアとアメリカの宗教家だが、本来の宗教は心の拠り所であるはずなのになぜか対立を煽ることになってしまったり、5においてはラストが強烈。こうもナチスドイツは腐っているのかと思わされた。
 戦争と言う異常な時代において一輪の花のような素晴らしい出来事もあったりするが、殆どはロクでもない出来事ばかり。どんな真っ当な人間も狂わしてしまう。本作から人間が持っている良心が見られなかったのが残念。しかし、繰り返すが本作の公開はイタリアが解放されてから1年での公開。そうなると撮影時のスタッフ達は戦争の生々しい経験がまだ身に染みていることだろう。本作のような映画を見ると戦争が終わりますようにと願いながら、自分の無力さを感じさせられるのが無念だ。今回は古い映画だが戦争の悲劇を色々と描くためにオムニバス的な構成になったが、観た人は色々と感じるだろう。ちょっと画面が暗いのが難点だが、戦争の生々しさを描いているという点で戦火のかなたを、お勧めに挙げておこう

 監督はネオリアリズモの巨匠ロベルト・ロッセリーニ監督。この前年に撮られた無防備都市、そしてロベレ将軍がお勧め


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映画 赤ひげ(1965) お医者さんになる人は必見

2023年08月24日 | 映画(あ行)
 山本周五郎原作の小説赤ひげ診療譚を原作とする映画化作品が今回紹介する赤ひげ。多くの名作を生みだしてきた黒澤明監督の作品の中でも人気が高い映画だ。小石川養成所が舞台になっているのだが、この場所について少しばかり説明しておこう。江戸時代は八代将軍徳川吉宗の時に江戸に設置された無料の医療施設。当時の江戸は人口増加が著しく、その中には貧困に陥ってしまう人もいた。そんな人でも必要な医療処置を受診できるために設置されたのだ。
 そこでの老医師と青年医師の師弟関係、そして彼らとそこに集まる貧しき病人達との交流が描かれている。まったく病を治せないような医者のことをやぶ医者と呼ぶが、だったら逆に名医と呼ばれる医者とはどのようなものか。末期症状の人でも治せてしまう医者のことか、重い症状に罹っている病人を即効で元気にさせてしまう医者のことか。本作を観れば、医者のあるべき姿が大なり小なり理解できるし、勿論医者で無い人が観ても自らの人生を省みることが出来る。
 
 江戸時代の医療事情、底辺社会で暮らす人の生き様が描かれているストーリーの紹介を。
 長崎で最先端の医学を学ぶために留学していた保本(加山雄三)は帰ってきたら幕府の御番医になれると思ってウキウキな気分だったのだが、何と出向させられたのは小石川養成所。そこの所長は目付きが鋭く不愛想に見える通称赤ひげこと新出去定(にいできょじょう)(三船敏郎)。保本は理想と現実のギャップにショックを受けてしまい、初日から不貞腐れてしまう。
 しかし、患者だけでなく困っている人を助けようとする赤ひげの善意からの行動を間近で見ているうちに、保本は赤ひげの偉大さに気付きだすのだが・・・

 ドクター赤ひげのキャラクターが面白い。社会悪を徹底的に憎み、弱者を助けるためならば裏で脅迫は厭わないし、ヤクザが10名ほど掛かって来ても医者のくせにアッと言う間に叩きのめす。そして、医者がこんな事をしたらダメだなと自ら反省しながら悪い手本を弟子の保本のために教えてやる。そして『医学は自分のためではなく、公のために使うものだ』なんて俺の知っている元議員にも教えてやりたいような台詞がポンポンと出てくるあたりは本当に気持ち良い。
 赤ひげは見た目は少々怖いが、行動で優しさを見せる。その行動が周囲にも良い影響を及ぼし、人間の誰もが持っているはずの優しさを引き出すエピソードの数々が感動的に描かれる。そりゃ~、こんな師匠が傍に居てくれたら、自分の人間としての器の狭さを反省し、誰にも優しくなろうと思えるし、成長するって。
 黒澤明監督は自分の想いを作品の中にも投影する人だと思う。特に本作は自らの伝えたいメッセージを赤ひげに言わせているように感じる。映画史において名監督と呼ばれる人の作品は難解な作風の場合も多々あるが、黒澤明監督作品は理解しやすいし、面白い。娯楽、社会派、ヒューマンドラマとどんな分野を撮らしても一流。感動的エピソードが満載の作品として今回は赤ひげをお勧めに挙げておこう

 監督は前述したとおり黒澤明監督。お勧め多数。個人的にベスト10を1位から順番に挙げておく。七人の侍悪い奴ほどよく眠る隠し砦の三悪人天国と地獄生きる用心棒椿三十郎野良犬羅生門どん底、そして蜘蛛巣城も挙げておこう

 
 

 
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映画 ダークナイト(2008) ジレンマに悩みまくる主人公 

2023年08月22日 | 映画(た行)
 バットマンシリーズの第2章の2作目。前作のバットマン ビギンズでは、どんなことがあっても人殺しをしてはいけないという当たり前のことを教えられ、どんな凶悪な人間に対しても鉄拳制裁はするが、けっして自らの手で殺すことはしなかった。それはバットマン自身のルールであり、正義のあり方でもあった。それは彼の崇高な精神だと言えるのだが、逆に弱点にもなりえる。その弱点を執拗に突いてくる凶悪な敵であるジョーカーとの死闘を描いたのが今回紹介する映画ダークナイト
 ゴッサムシティを犯罪から守るためにコウモリのコスプレをしながら犯罪者を叩きのめすが、そのことによって犯罪者は増えるばかりか、偽バットマンまで登場させてしまう始末。そもそもバットマンはゴッサムシティの市民を守るために行っているのだが、その行いは法の範疇を超えていて、バットマン自身が警察から追いかけられてしまう存在になっている。
 そんなバットマンの行動は新たなる強敵であるジョーカーを呼び起こし、しかも、バットマンの弱点を執拗に攻めて人殺しをゲームの如く楽しんでいる。本当は生身の人間で大金持ちの大富豪に過ぎない主人公ブルース・ウェインは、ゴッサムシティを守るためにコウモリ姿のコスプレに変身して偽りの姿であるバットマンとして犯罪者たちと戦うには体力の限界、そして強い奴が現れると更に強い奴が現れるというロジックに悩んだ末にブルース・ウェインが導きだした答えは如何なるものか。

 さて、とにかくヒーロー自身が悩みまくるストーリーの紹介を。
 前作でゴッサムシティを全滅の危機から救ったブルース・ウェインことバットマン(クリスチャン・ベイル)だが、相変わらず犯罪者は後を絶たずに、自らは寝る間も惜しんで、傷だらけになりながら犯罪者を叩きのめしては警察に出していた。
 しかし、ゴッサムシティに趣味が人殺しという常識では考えられないようなジョーカー(ヒース・レジャー)が現れる。犯罪にかけては恐ろしいほどの知能犯でるジョーカーは、「バットマンが素顔を晒さない限り殺害を繰り返す」とバットマンを挑発する。実際に宣言通り人殺しを巧みに実行していくジョーカーに対して、民衆の怒りは一向に姿を見せないバットマンに向けられる。その様子に悩んだバットマンはゴッサムシティの救世主になることを諦め、その代わりに悪を憎む熱血漢検事のバービー・デント(アーロン・エッカート)にゴッサムシティの運命を託すのだが・・・

 ゴッサムシティの腐敗の元凶であるマフィア退治に忙しいバットマンとゴッサム市警のゴードン刑事(ゲイリー・オールドマン)だが、そこへ動機なき犯罪を重ねるジョーカーと対峙してしまう。このジョーカーが非常に厄介なのが、自分が死ぬことに対しては恐れていないところ。バットマンと対峙しても「さあ、俺を殺せ、殺せ〜。」なんて挑発する。これがとにかく嫌な奴過ぎてムカつく。
 そんなジョーカーに対してバットマンは頭が固いからなのか、自分の信念が強すぎて、決してジョーカーを殺さない、と言うか殺せない。俺なんかは見ていて、さっさと殺せよ!と思ってたのだが、もしもジョーカーを殺したらバットマンの負けを意味する。この件は名作サスペンスの傑作セブンのブラッド・ピットを思い出した。まあ、強い者には強い者が必要であるという論理はアメリカという国を見ればわかる。
 そして、更に本作ではどんな高潔な人間でも一瞬にして悪の道へ叩き落とされることが可能なこと。善悪なんて表裏一体だということは色々な映画で描かれているが、本作は見事なまでに善人が悪へ突き落とされる過程を描いている。俺のことを知っている人は全員が正義感の塊だと思っているが、実は俺ってけっこう腹黒いのだと伝えておこう。
 しかし、バットマンとて黙っていない。ジョーカーみたいな狂ったような相手と戦うには法を守っていては戦えない。それをやっちゃ〜ダメだろう、なんてことにまで手を出してしまう。そして、ラストシーンでバットマンが選んだゴッサムシティに平和を持たらすための選択。これがインパクト抜群。俺がバットマンだったらこのような選択に辿り着けたかどうか?法律を遵守するのは当然のことだが、これまた良いところもあれば、悪いところもある。何事も勧善懲悪で済まされないことを本作を観ていて俺もバットマンと同じように悩まさせられた。
 できれば前作のバットマン ビギンズを観てから本作を観た方が良いとアドバイスをしておこう。アクションシーンはド派手ながら、アメコミが文学及び哲学の域にまで達していると言っても過言ではない映画として今回はダークナイトをお勧めに挙げておこう

監督は前作と同じクリストファー・ノーラン。お勧めはバットマン ビギンズを参照してください






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映画 約束の土地(1975)  3人の若者達の野望を描く

2023年08月20日 | 映画(や行)
 19世紀のポーランドの工業都市ウッツを舞台にした映画が今回紹介する約束の土地。しかしながら、多くの日本人にはあまりにも馴染みの少ない地方だろう。よって、少しばかりこの当時の時代背景及び舞台設定を説明しておこう。ポーランドという国は歴史上において何回も消滅しては復活している国家。ちなみに当時はソ連、プロイセン(今のドイツ)、オーストリアによる分割統治されていた頃。本作においてもルーブルやマルクといったロシアやドイツの通貨が流通している。そして当時のウッツだが繊維工業が盛んで、多くの工場が立ち並んでいた。ちなみに本作でも工場が立ち並んでいる景観は当時の様子を感じれるし、工場での作業もド迫力の映像を見せる。
 物語は旧態依然としたウッツがこのまま続けば未来はないだろうと、資本家達に反乱する若者達の姿が描かれる。

 さて、若者達の野望とその成れの果てを描いたストーリーの紹介を。
 ウッツでは、経営困難の煽りを受けた資本家の中には保険金目当てで工場を放火する者が続出したり、自殺する者も出ていた。そんな状況下であるウッツに未来は無いと3人の若者が新しく工場を作ろうと画策する。その3人とは300年間も続く士族の末裔カルロ(ダニエル・オルブリフスキ)、商才のあるユダヤ人モリツ(ヴォイツェフ・プショニャック)、父は繊維業を営むドイツ人のマルクス(アンジェイ・セヴェリン)。彼らは古い資本家の抵抗に遭いながらも、資金集めに翻弄する。
 ある日のこと、カルロは婚約者がいながら工場主の妻ルツイ(カリーナ・イエドルシック)とも密会を重ねていたのだが、ルツイからある情報を聞かされる。それは輸入される綿の関税が近い内に引き上げられること。彼らはこのチャンスを捉えて大量に綿を買い込み、それを同業者に売り込み大金を手にする。その甲斐もあり彼らは念願の新しい工場を手に入れる。しかし、何かと敵を多く作ってしまうカルロのおかげで・・・

 ストーリー紹介だけなら登場人物が少なく思われるかもしれないが、けっこうロクでもない人間が多く出てくる。そいつ等のおぞましいエピソードのおかげで3時間の大作になっている。俺から見ればカルロが登場人物の中でも1番ダメな人間に見えたのだが。3人の新しく工場を建てるという夢が次第に私利私欲の欲望に変わっていく、と言うか最初から私利私欲だけだったように思えなくもないが、けっこう古い時代を描きながらも強欲資本主義がこの世をダメにしている現在にも通じるテーマが描かれている。しかし、その様な内容の映画を1975年というソ連の影響下にあった社会主義国家のポーランドで制作されたことに驚きと、先見の明を感じさせる。
 けっこう強烈な描写があったり、ちょっとこのタイプの映画にしては時間が長すぎると感じたり、最初の始まりがせっかく綺麗な風景で始まるのに、それを台無しにするようなピンク色を使ったタイトルバックがセンス無さすぎたり、見たことも無い登場人物達が一斉に喋り出したり等で観ていてけっこう辛く感じる部分もある。
 しかしながら、国籍も宗教も異なる者同士(ドイツ人のマルクスが大して頑張っているように見えなかったのは深読みしてしまいそうになるが)が目標へ向かって突き進むというストーリーは見所充分。ポーランドの歴史をほんの少しでも知りたい人、自らの成功のためには手段を選ばないような主人公が描かているストーリーが好きな人、何はともあれ忍耐力のある人に今回は映画約束の土地をお勧めに挙げておこう

 監督はポーランド映画界の伝説アンジェイ・ワイダ。祖国に対する想いが描かれている映画が多い。名作灰とダイヤモンド地下水道カティンの森、フランスの政治家をジェラール・ドパルデューが演じるダントンがお勧め





 

 
 
 
  
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映画 インターステラー(2014) 壮大なSF映画

2023年08月11日 | 映画(あ行)
 いつもその抜群のアイデアで楽しませてくれるクリストファーノーラン監督が、宇宙を舞台に壮大な人間ドラマを描いたのが今回紹介する映画インターステラー。CGを使わずにビルをぶっ壊すのが好きな監督なだけに、SF映画ではあるがどこか懐かしいローテクな作風を感じさせる。特にお喋りなだけでなく冗談好きの長方形のロボットが使い勝手が悪そうに見えるのに大活躍するのが個人的にはツボだった。まあ宇宙を舞台にした映画なんか殆どが嘘くさいものばかりだが、本作はアメリカの理論物理学者のキップ・ソーンをスタッフに迎えたガチな宇宙観が展開される。そして宇宙に関連する専門用語がけっこうな割合で飛び交う。例えばブラックホール、相対性理論、ワームホール、特異点、ガルガンチュア、重力・・・等など。専門用語やそれらの関連性の説明されるが、これがなかなか難しい。しかしアドバイスとしてはそんな専門用語を気にし過ぎないように。なぜなら本作を観たからと言って宇宙に詳しくなれるはずがないし、そもそも映画の内容は人間ドラマ。難しい専門用語にこだわり過ぎて、本作で言いたいことのテーマを見逃してしまったんでは本末転倒になってしまう。

  SF映画ではあるが、奥深いテーマが内包されているストーリーの紹介を
 近未来のアメリカにおいて。そこら辺で起こる砂嵐のせいで作物に被害が出ていた。かつては飛行士として活躍していたクーパー(マシュー・マコノヒー)だが、今はトウモロコシ畑の栽培を営んでおり、義父のドナルド(ジョン・リスゴー)、息子のトム(ケイシー・アフレック)、娘のマーフ(ジェシカ・チャスティン)の4人暮らし。慎ましくも平和に暮らしていたが、マーフの部屋で、本棚からいつも同じ本ばかりが転倒していたり、砂嵐による砂埃が規則的に落ちていたり不思議なことが起きていた。
 クーパーとマーフはその現象が、ある場所の座標を示していることに気付き、そこへ向かう。何とそこへ辿ると国家予算から締め出されていたはずのNASAの研究所。そこにはクーパーと同じ仕事に携わっていたジョン・ブラント教授(マイケル・ケイン)、その娘であり博士のアメリア・ブラント博士(アン・ハサウェイ)等、他にも研究員が居た。
 クーパーはジョン教授から衝撃の話を聞かされる。もはや地球は砂嵐による食料飢饉で人間は住めなくなると。よって地球以外に人間が住める星を探すための極秘プロジェクトがNASAによってされていたのだ。そのミッションのためにクーパーとアメリア、そして他に2人の博士を連れて宇宙船に乗り込む。しかし、宇宙の時間の流れは地球のそれよりも遥かに遅い。果たしてクーパーは人間が住める星を探し出すことができるのか、それとも自分より猛烈なスピードで年齢を加算する子供たちが生きている間に地球に帰れるのか?・・・

 本作で理解しておかないといけないのが、ワームホールに飛び込んでからの星の重力についての説明が必要だろう。そこでの星の重力が大きければ大きいほど地球とその星の間には時間差が生まれること。クーパーたちが最初に訪れる水ばかりの星では、その星での1時間が地球での7年間に相当している設定。しかも、その星でトラブルに巻き込まれてしまい何と子供に年齢が追い付かれてしまう事態になる。子供の方が先に年を取っていく事に対するクーパーの焦りは半端でない。しかも、早く子供の顔が見たいのにトラブルや困難が目の前に立ちはだかり時間はドンドン経過してしまう。
 そして、本作では嘘つきの人間が2人ほど登場する。それはクーパーやアメリア、成人してNASAでジョン・ブラント教授と一緒に研究しているクーパーの娘マーフを絶望に叩き落とすぐらいの嘘を吐く。それでも決して諦めない信念を彼らは持ち続けていた。この様子を見ていると困難なことがある直ぐにへこたれてしまう自分の人生を深く恥じてしまった。
 そして本作の奥深さとして、この2人の嘘つきは絶対に悪だと言えるかどうか?モラルの問題にまで本作によって問いかけられる。このあたりの演出は流石はクリストファー・ノーラン監督といったところ。彼の作品の凄さは本作においてもSF映画の絵面だけでなく、人間ドラマにまで突っ込んでいるところ。
 そして特に後半は感動の連続。前半で何だかモヤモヤとした謎を残されたのが観ている最中はずっと気分が悪かったのだが、アッ、そうだったんだ!と気づいた時に家族の絆、愛の力の凄さに観ている者は素敵な気分になれるだろう。それと個人的に何度も繰り返すが長方形型のロボットが大活躍するのがツボ。この活躍がなければ人類は終わっていた。
 少しばかり手作り風なSF映画を観たい人、多くのテーマが内包されている映画を観たい人、愛の尊さを学びたい人、豪華スターがたくさん出演する映画を観たい人、クリストファー・ノーラン監督作品と聞いて心が躍る人に今回は映画インターステラーをお勧め映画に挙げておこう

 監督は前述したクリストファー・ノーラン。お勧め映画多数だが今回は彼のデビュー作品であるフォロウィングをお勧め映画に挙げておこう







 
 
 



 
 

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映画 邪魔者は殺せ(1947) 瀕死になりながらの逃亡

2023年08月07日 | 映画(さ行)
 タイトルから想像すると、酷い内容の映画を想像してしまう。ちなみにタイトルの原題はOdd Man Out。意味は「残りもの、余りもの」「仲間はずれ」といったところ。個人的には原題の方もおかしいと思うのだが、もっとおかしいのが邦題の付け方。この映画のどこに邪魔者が居たのか?そして、殺せなんて命令している奴も出てこない。確かに主人公のバックボーンは決して褒められないが、なかなか最後は感動できるストーリーだし、人殺しをしているシーンはあるが、観ている間は主人公がそこまで悪い奴に見えない。むしろ、自分も怪我を負ってフラフラになりながら逃亡している姿に悲しみすら感じさせるストーリーが今回紹介する映画邪魔者は殺せ。そして本作が面白いのが単なる逃亡記録のような構成になっているのではなく、主人公が逃亡中に出会う最中に偶然にも居合わせた人々の様々な反応が人生を感じさせる。散々、悪事を働いているが、そのまま放って置けば死んでしまうような人間を目の当たりにした時、人間はどの様な行動を取ってしまうのか。高い賞金目当てに警察に突き出すか、それとも出来る限りの命を助けるために最善の努力をつくしてやるのか、それとも・・・

 内容だけでなく、映像テクニックにも感心させられるストーリーの紹介を。
 北アイルランドにおいて。ある部屋においてジョニー(ジェームズ・メイソン)を首領とする5人の男たちが組織の資金集めのために銀行強盗の計画を立てている。ジョニーは獄中に8カ月、脱獄して隠れて半年。1年以上もの間、外出していなかったジョニーを今回の強盗の実行部隊から外す意見もあったのだが、ジョニーはこの中ではリーダーだということもあり、頑なに降りることを拒んでいた。
 いよいよ銀行強盗を実行する。現金は簡単に奪えたが、逃げる段階でジョニーのブランクの長さが響く。ジョニーは銀行の職員に追いつかれてもみ合うことになるが、ジョニーは銀行員を射殺するのだが、銀行員の撃った弾を左肩に喰らってしまう。
 他の仲間が乗っている逃亡用の車にジョニーも乗ろうとするが、運転手が焦ってしまっているためにジョニーは殆ど車に捕まったままの状態で発車。猛スピードで走る車に乗り込めなかったジョニーは振り落とされてしまう。逃亡用の車に乗っていた仲間達が助けに行こうかとする間に、しばらく微動だにせずに倒れていたジョニーは急に立ち上がり、走って別方向へ逃げ出してしまい・・・

 北アイルランドを舞台にしてるのでこの組織はIRAだとすぐにわかる。時間にして16時から24時に至るまでの8時間のドラマが描かれているが、主人公は17時に負傷して、それから7時間も瀕死の状態で警察の目を避けながらの逃亡。しかも天気が雨が降り出し、終盤は雪が降り出すなど、地味なストーリーだがドラマチックな演出もなされている。
 7時間の逃亡劇といっても防空壕に隠れている時間や、倒れているところを心優しき人に拾われて家に運ばれたり、意識が薄らぐ中で辿り着いたところが酒場で閉店までビール付きで休憩させてもらったりで、ずっとフラフラになりながら血を出しながら歩いている訳ではない。しかしながら、次第に死が近づいていく様子が見てとれるし、彼を慕う綺麗な女性の存在に、愛は信仰を超えるほどの尊さがあるんだよな~、なんて思えたりする。
 本作が公開されたのが1947年ということを考えるとIRAの暴力革命に対する批判が込められているのが丸わかりだし、それでいて何処かテロリストに対する優しさを感じさせるのは何故だろう。音楽はドラマ性を高めるのに充分な役割を果たしているし、主人公の意識が薄らぐ中での幻を見るシーンの映像テクニックは非常に洗練されているし、他にも褒めたりない所がたくさんあるような気がする。
 サスペンス映画でありながら、観ていて色々な想いを起こさせるドラマ性がある。唯一の欠点はタイトル名だけ。非常に洗練された映画を観たいという人に今回は邪魔者は殺せをお勧め映画に挙げておこう

 監督はサスペンス映画の名匠であるキャロル・リード。映画史に遺る大傑作第三の男、これまたサスペンス映画の落ちた偶像がお勧め











 

 
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映画 モンパルナスの灯(1958) 悲劇の天才画家モディリアーニ

2023年08月03日 | 映画(ま行)
 35歳の若さで夭折した悲劇の天才画家であるアメディオ・モディリアーニ。今では彼の名前は有名だし、作品は日本でも観れるが、生前はまるで売れなくて著しく評価が低かった。さて、西洋絵画が好きな俺の彼の作品のイメージだが、その多くは女性をモデルにしており、現実離れした細長い面持ちで、目の描き方がまるでアーモンドみたいで個性的。誰の絵画の作品か知らされてなくても、これはモディリアーニの作品だと見た瞬間にわかる。正直なところ俺から見ればデッサン力があるとは思えず、大してデッサン力がない画家達が取り上げられる印象派と呼ばれる連中よりも劣るような気がする。しかし、絵の評価なんていうのは上手い下手で決まるわけではない。時々絵画展を観に行くことがある俺だが、実際に絵画を観ると絵画集のような本で観るのと大違い。生で観るとやはり画家のパッションのような物を絵画に見出すことができる。

 さて、この悲劇の天才画家の壮絶な生き様とはどのような物だったのか、ストーリーの紹介を。
 モディリアーニ(ジェラール・フィリップ)は、パリのカフェで似顔絵を描きながら小金を稼ごうとしていたが、その殆どは大して喜ばれず、せっかくの似顔絵を返され、その似顔絵の代金だけを払われる屈辱な日々を送っていた。そんな苦悩を彼は酒と女で紛らわすのだが、酒量が増えるだけで女性との付き合いも長く続かない。
 ある日のこと、美術学校に通うジャンヌ(アヌーク・エーメ)に一目惚れ、ジャンヌの方もモディリアーニの事を前から知っており、すでにその時から彼に好意を持っていたのだ。モディリアーニは付き合っていたベアトリス(リリー・パルマー)とサッサと別れ、ジャンヌと付き合おうとする。しかし、初めての待ち合わせのデート時にジャンヌはやって来ない。アル中の体が更に彼を蝕み、ついには医者から暖かいフランスの南部で療養することを求められる。
 療養しながらも制作活動を開始していたモディリアーニは何時もパリのジャンヌに手紙を書き送っていたが、一向に返事が来ない。しかし、突然ジャンヌが現れる。2人の間にやっと幸せな時が訪れるかと思われたが、モディリアーニの個展は客が入らないうえに、絵画の内容が猥褻だと警察から踏み込まれる始末。止められないアルコールは増えるばかり。しかも、彼のプライドが邪魔してアメリカ人の画商からの美味しい要求も断ってしまう。
 しかしながら、モディリアーニの絵画を昔から評価していた画商モレル(リノ・ヴァンチュラ)は彼の動向を常にチェックしており、あるタイミングを見計らって一気に彼の作品を買い漁ろうとしていたのだが・・・

 アル中にして、女性を殴り、しかもカネが無い。それなのに何でこんなに女性にモテるのかがよく理解できないのだが、売れてないにしても画家というのは女性を惹きつける何かがあるらしい。もしかしたら女性モデル達は、真剣な画家の眼差しに弱いのか?と考えたりした。
 死んでから作品が評価される画家というのは多いが、まさにモディリアーニもその1人である。彼がゴッホの事を語りながら芸術家の苦悩を語るシーンがある。ゴッホも今でこそ最も知られている画家の1人であるが生前はモディリアーニと同様に評価されず、その生き様は衝撃的。ゴッホは行動に苛立ちや苦悩を表に出すことができたが、本作のモディリアーニはジャンヌという女性と暮らしているためか、愛する彼女の手前、怒りや苦悩を表に出すことが出来ず、ひたすら酒に逃げる毎日。ゴッホに比べて、どこか暗さを感じさせる。
 さて、本作が逸品な点としてエンディングが挙げられるだろう。画商モレルがモディリアーニの作品を買い漁ろうとする時の、ジャンヌの笑顔。本作の後日談になるがモディリアーニが死んだ翌日にジャンヌが自殺したことを知って観ると、エンディングが更に際立っていることが分かるだろう。
 ちなみに本作のモディリアーニを演じたジェラール・フィリップは当時のフランスの大スター。しかしながら彼も36歳という若さで夭折をしている。そのことも知っておくと更に本作を興味深く観れるし、天才であることの脆さを改めて知ることができるだろう。
 フランス映画を観たいと思っている人、モディリアーニに興味がある人、余韻が残る映画を観たい人・・・等などに今回はモンパルナスの灯をお勧め映画に挙げておこう

 監督はジャック・ベッケル。ヌーヴェルバーグ到来前のフランスを代表する監督。肉体の冠、フレンチギャング映画の傑現金に手を出すな、脱獄映画の傑作等がお勧め







 

 







 


 

 

 
 
 

 

 
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映画 マネー・ショート 華麗なる大逆転(2015) 経済に詳しい人なら・・・

2023年08月01日 | 映画(ま行)
 世の中には凄い人が居るというのを改めて感じさせてくれるのが今回紹介する映画マネー・ショート 華麗なる大逆転。世界中を大不況に陥らさせたリーマン・ショックによって、多くの人が貧困に叩き落とされた。アメリカの金融システムだけに止まらず、グローバリズム経済の欠点をモロに痛感したのはアメリカ人だけでなく、世界中の人が痛感した。しかし、そんな金融システムを逆手にとって大儲けをした人間が居る。彼らは多くの人がどん底に陥ってしまった中で、どのような手段を使ったのか。
 ちなみに本作は経済をテーマにした映画だから、経済用語がこれでもかと容赦なく出てくる。所々で重要な経済用語についての説明はセレブな登場人物達が分かり易く説明してくれるのだが、経済に詳しくない人は1回説明されただけでは理解できない。よって、本作を観る前にリーマンショックにおける基本的な経済用語は事前に勉強してから臨む必要がある。
 例えば超基本的なところではサブプライムローン、そしてショート空売り)、MBS(モーゲージ債)、CDO(債務担保証書)、CDS(クレジッド・デフォルト・スワップ)ぐらいの経済用語を抑えておけば良いだろう。
 ちなみに空売りについて少々説明しておこう。俺は株をしないので知らなかったのだが、株で利益を出すためにはその銘柄を安く買って、高値で売るしか方法がないと思っていた。しかし、本作を観て知ったのだが、高い時に買って、安くなった時に買い戻した時の差額が利益になる方法が空売り(厳密には違うかもしれないが)。俺が思っていたのと逆の発想で、株価が下がった時に利益が出るなんて全く知らなかった。しかしながら、この方法のデメリットは株価が下がらずに上がってしまった場合は、保険料を支払わなければならないこと。本作でも空売りを実行した主人公がこの保険料で苦しむシーンが出てくる。

 早速だが、テンポ良く、ポップなシーンを散りばめられるストーリーの紹介を。
 身なりが証券マンとは程遠いようなTシャツ、短パン、裸足の姿で出社している金融トレーダーのマイケル(クリスチャン・ベイル)。彼は信頼度の格付けが最高のAAAランクの金融商品の中に極めて信頼度の低いサブプライムローンが紛れこんでいることを見抜き、多額の金を使って空売りを仕掛ける。周囲はそんなマイケルを変人扱いするが、彼の動きを察知した者の中にはごく少数だが、なるほど~と!同じく空売りを仕掛ける者もいた。彼らのモチベーションは金持ちになることもあるが、歪な構造における金融システムへの挑戦でもあったのだが・・・

 副題に『華麗なる逆転』とあるので痛快なラストシーンを想像する人が多いかもしれないが、観る前から誰もが金融危機を描いていることを知っているので喜べないし、その憂き目にあった当事者は複雑な気持ちになるだろう。金融崩壊をかぎ取る主な登場人物がマイケル(クリスチャン・ベイル)、大手投資会社の傘下に入っている会社のトレーダーであるマーク(スティーヴ・カレル)、銀行員のジャレッド(ライアン・ゴズリング)、元トレーダーのベン(ブラッド・ピット)、主にこの4人。よく考えたらこの4人は職柄的には金融崩壊が起きれば自分が困ったり、どこか心に傷を抱えていたりするのが、本作を少しばかり深みのある作品にしている。
 この中でも俺はスティーヴ・カレル演じるマークに興味が惹かれた。マークには兄が居たのだが、カネのせいで自殺してしまっている。彼は清廉にしてピュアな人間であり、兄の死から立ち直れないでいるし、また自分の仕事にも懐疑的であり、しかも貧乏な人や返済能力がない人に対しても、どんどん住宅ローンを組ます金融関係の人間に怒りを感じている。そのお陰で彼の毒舌、怒鳴り声を挙げる等は日常茶飯事。しかし、彼もいざという時に苦悩する。実は俺も生き馬の目を抜くような人間と同じではないか?。祖国アメリカの崩壊を願っている自分は間違っているのではないか?。このあたりのジレンマに悩む姿は爽快感は無いが、バブルでやりたい放題の浮かれた人間との温度差を感じられ、人間ドラマ的な要素を感じられる。

 そしてベン(ブラッド・ピット)の出番は多くないが、ウォール街に嫌気がさし大手の投資会社を辞めた元トレーダーにも興味が惹かれる。ベンは金融業界に興味を持った若い二人を手助けをする役回りを演じる。ベンが若い二人が喜んでいるのを一喝するシーンがあるが、この男もまたマークと同じことを考えていたことが分かる。そして、若い二人が不安に悩まされながらも最後に大金持ちになった時に、ベンに対して疑問をぶつける。「どうして僕たちの手伝いをしてくれたんですか」。それに対するベンの答えが格好良い。「金持ちになりたいんだろ」。色々と印象的な台詞が多いが映画だが、俺はこの台詞が一番心に染みた。

 本作は色々なことを観ている者に示唆してくれる。どんどんバブルが膨れ上がることに気付かずに浮かれまくっている人間の馬鹿さの空気を感じられるし、あの時の反省を今こそしなければならないと思わさせられる。そして、マイケル(クリスチャン・ベイル)からは我慢強さもそうだが、それ以上にいつバブルが弾けるかのタイミングをある程度は見抜いていたこと。これが凄い。どんどん住宅の価格が上昇している時代にいずれバブルが弾けることを予想し、それが近い将来だということに気付いた点。それでも予想に反する株価の動きがあったりで苦しむこともあるが、彼の揺るぎない信念が大儲けをもたらす。

 他にも色々と金融業界を他の業界に変えて考えさせられたり、先行き不透明な世界において私は20年後のことを考えているなんていい加減なことを言うことの罪の深さを感じたり、机上の論理と現実の世界におけるギャップを感じることの大切さを考えさせられたり、人間は同じことの過ちを繰り返す生き物だと改めて教えられたり・・・等など、色々と感じられる。
 経済に詳しい人、経済にそれほど詳しくなくても難しい用語を気にせずに見れる人(これが一番適した本作の見方かな?)、アメリカのジョークに造詣が深い人、金持ちになりたい野心を持っている人、リーマンショックから未だに抜け出せない人・・・等などに今回は映画マネー・ショート 華麗なる大逆転をお勧め映画として挙げておこう

 監督は社会派的な作品でもコメディに作り変えてしまうのが得意なアダム・マッケイ俺たちニュースキャスター、元アメリカ副大統領のディック・チェイニーを描いたバイスがお勧め






 
 
 

 
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