体力回復
子供の頃、風邪を引いた時などに飲まされたものでよく覚えているのがある。リンゴシリシリー、玉子酒、ヒル酒、そして、今回紹介するチムシンジ。
リンゴシリシリーはリンゴをシリシリ(磨り下ろすという意の沖縄語、たぶん沖縄の擬態語)して、布で搾った、つまりはリンゴジュース。これは美味かった。
玉子酒は沖縄伝統の風邪薬では無く大和文化だと思われる。広辞苑に記載があり「鶏卵に砂糖と熱燗とを加えて混ぜ合わせた飲料。風邪のとき発汗剤とする」とのこと。沖縄といえど、玉子に混ぜる酒は泡盛では無く日本酒だった。確かに汗をかいた。
ヒル酒のヒルは沖縄語でニンニクのこと。ちなみに、ニンニクを漢字で表すと大蒜となるが、蒜はヒルとも読め、沖縄語はここから来ていると思われる。これは沖縄らしく、というか、果実酒の類は日本酒を使わない。ホワイトリカーや焼酎などアルコール度数の高い酒を使う。その方が腐れない。ヒル酒も泡盛を使う。これはとても臭かった。
以上の3種はいずれも飲物で、チムシンジもまた、本質的には飲物であるが、食事としての用にも立つ。チムは「肝」の沖縄語読み、シンジは「煎じ」の沖縄語読みで、豚レバーの煎じ汁ということになる。レバーを煮ているのでそれは食える。子供の頃はそうでもなかったが、大人になってからは煮たレバーは美味いと感じていた。
チムシンジは、豚レバーだけ単独に煎じるということは少なくとも私の経験に無く、私の母親の場合はシマニンジンやフーチバー(ヨモギ)などの島野菜が加えていたと記憶している。どれも薬草としても扱われる野菜で、健康に良いとされているもの。
参考文献によると、レバーの他、豚肉(腿肉や腕肉など)が入り、シマニンジンの他、ダイコン、ニンニクなどの野菜も入るようである。私はニンニクは使うが、シマニンジンやダイコンを使わずニラやフーチバー(ヨモギ)などを入れたりしている。
チムシンジは肝臓が弱った時などに服用すると文献にあるが、別の本『沖縄おばぁの健康レシピと長寿の知恵袋』によると、貧血予防にも効くらしい。体力回復、滋養にも良いらしいが、それらはシマニンジン、ニンニクなどのお陰もあるかもしれない。
腰痛で元気の足りない今、薬草の勉強をして、薬草によって腰痛やら高血圧やらを何とかしようと考えつつ、元気になる沖縄料理についても調べている。
元気になる沖縄料理ということで、チムシンジが最初に思い浮んだ。最近はご無沙汰しているが、前の前のアパートに住んでいる4~5年前までは、たまにだが自分で作ってよく食べていた。汁は煎じ薬として飲み、具はたいてい酒の肴にしていた。
チムシンジが元気になる沖縄料理であると思い出し、先日、久々に作った。年取って、4~5年前より少し賢くなった私は、その夜、チムシンジを飲んで食べて、その具を酒の肴にすることはなく、その夜は休肝日にした。年取って肝臓も弱くなっていると思われるので、せっかくのチムシンジの薬効が酒によって薄まることを避けたわけ。
ちなみに、チムシンジを食べて飲んだ夜、まあまあのグッスリ睡眠で、朝目覚めた時はいつに無く元気であったが、血圧を計ったら170を超えていた。ビックリ。
今回は豚レバーとニラだけのチムシンジで、元気はそのお陰だと思う。薬草の勉強をして高血圧に効果のある野菜もいくつか覚えた。次回チムシンジを作る時は高血圧に効果のあるサクナ(ボタンボウフウ)やタマネギなどを具材にしてみようと思う。
記:2018.7.12 ガジ丸 →沖縄の飲食目次
参考文献
『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
『沖縄の薬草百科』多和田真淳・大田文子著、那覇出版社発行
『沖縄おばぁの健康レシピと長寿の知恵袋』平良一彦監修、(株)エクスナレッジ発行
『ハーブを楽しむ本』川口昌栄編集、株式会社集英社発行