12月だというのに暖かい日が続いている。この島には神も仏もいないので、クリスマスなんていう行事も無い。だから、よけいに年末の雰囲気がしない。もうすぐ大晦日、そして正月だけれど、その慌しさもあまり無い。大掃除をするくらいだ。
ウフオバーとマナもこのあいだユクレー屋の大掃除をしていた。ケダマンと私も手伝わされたが、普段からオバーがきちんと掃除をしているので、そう時間はかからなかった。その大掃除も終わったので、今日はいつものようにのんびりとした週末だ。夕方、暗くなってからユクレー屋を訪ねた。
「おっ、ゑんちゅ、やっと来たか。」とケダマンが私を見るなり言う。
「ん?何か用でもあったか?」と訊いたが、それには応えず、
「マナ、さっきのあれ、出してくれ。」とマナに言った。すると、
「ゑん、天麩羅いかが?」とマナが皿を寄こした。
「やー、そりゃ嬉しいね。じゃあ、遠慮なく。」と私は皿の天麩羅を一つ手で摘まんで口に入れた。しかし、その天麩羅は不味かった。油がギトギトついていた。
「うっ、マナ、これ、悪いけど、食えたものじゃないよ。すごく油っこいよ。」
「へっ、へっ、へっ、じつは、それよー、失敗作なんだとよ。俺もさっき、マナに騙されて食わされて、手も口の周りも油だらけになっちまったよ。おめぇもほら、俺と同じように手と口の周りが油だらけになってるぜ。はっ、はっ、はっ。」とケダが笑う。その通り、私の右手と口の周りは油がべっとり付いていた。
「アンダテ(油手)にアンダグチ(油口)か、何か、妖怪みたいだ。」
「ん?アンダテでアンダグチ?・・・アンダンテでアンダグチか、歩く早さでアンダグチってか、何か、唄になりそうだな。」(ケダ)
「アンダグチって何?唄になるの?」とマナが訊く。
「油のことをウチナーグチでアンダと言う。アンダグチとは油口で、なめらかな言いようということからお世辞という意味のウチナーグチなんだ。」と私が答える。
「そういうこった。」と言って、ケダはフロアーを歩きながら、「マナ、相変わらず美人だな。色っぽいし、稀に見るイイ女だぜ。」と続ける。
「何よ、それ?」
「歩く早さでお世辞を言っているのさ。ハッ、ハッ、ハッ、ザマーミロ。」(ケダ)
「お世辞の唄ってことか。いいんじゃないの。作ろうよ。」(私)
「まあ、悪くは無いと思うけど、それ誰が作るの?あんたたち、作れるの?」(マナ)
ということで、この話はおしまいとなった。ケダマンと私では、気の利いた歌詞など作れそうもなかったからだ。
その後しばらくして、外出していたらしいウフオバーが帰ってきた。マナの作った天麩羅が不味かったという話になって、それから数日間は、マナの沖縄料理修行となる。マナも料理のセンスは良い方なので、すぐに上手くなった。天麩羅も上手に揚がるようになった。今度の御節はマナが担当することが決まった。
なお、アンダンテでアンダグチの唄の作成は、後日、ガジ丸に依頼したのだが、
「くだらねぇ、アンダグチが塞がらないぜ。」と一蹴された。
記:ゑんちゅ小僧 2007.12.28