ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

見聞録013 猛鳥物語3

2015年09月11日 | ケダマン見聞録

 すっかり忘れていたが、猛鳥物語の続き。前回、「この続きはまたいつか」と話してから1ヶ月ほどが過ぎて、マナも、もう興味を無くしたようだが、強引に話す。
 その前にちょっと前回のあらすじ。
 恐竜人は好戦的な性格をしており、彼らの世界では戦争が絶えなかった。が、定住農耕生活をするようになって、戦争が減った。戦争が減ると人口が増えた。恐竜人の人口が増えると、他の生き物たちの生存が脅かされた。そこで、他の生き物たちはその星に住む最も強い鳥人に助けを求めた。鳥人は彼らの願いを聞き入れた。
 そしてついに、恐竜人対鳥人の戦いが始まる。

 鳥人は、強力な爪と嘴を武器として、素早い動きと空中からの攻撃で、1対1で戦う限りにおいては恐竜人に不覚を取ることは無かった。だが、相手が複数だと不利になる。人口においては圧倒的に恐竜人が多く、その割合は1000人対1人である。全面戦争となれば、負ける恐れもあった。よって、肉弾戦を避け、飛び道具を用いることにした。
 彼らが用いたのは弓矢、鳥人はそういった武器を発明する頭脳を持ち、そういった武器を作れる手先の器用さも持っていた。弓矢を大量に生産し、戦いに備えた。
 恐竜人を殺すことが目的では無い。恐竜人の人口が増えないようにしたいのである。よって、鳥人の矢は概ね恐竜人のキンタマを狙った。生殖不能にするためである。鳥人はこれを「恐竜人不妊化作戦」と呼んだ。そして、ついに開戦する。

 鳥人は空を飛び、空中から弓矢を放った。恐竜人の戦士の全ては男である。男の一番痛い所に矢は突き刺さった。鳥人の放つ矢は強力で、その激しい痛みを恐れて一番痛い所をかばったとしても、矢は恐竜人の体を突き刺した。離れた場所から矢が飛んでくるのである。恐竜人たちは成す術も無くバタバタと倒れていった。
 恐竜人対鳥人の戦いは圧倒的に鳥人の優勢で進んでいった。ただ、人口では恐竜人の方がはるかに多い。戦いは短期で終わるものではなかった。日が経つうちに、恐竜人も鳥人の使う弓矢を真似て、作って、反撃した。上から攻撃する鳥人の優位に変わりは無かったが、そのうち、恐竜人は戦士以外の農夫が戦いに参加し、また、多くの女も参加するようになり、鳥人に向かって矢を放った。情勢は一進一退となり、戦争は泥沼化した。
 1年が経った。恐竜人の死者は開戦前の人口を半減するほど膨大な数であったが、鳥人の死者数も日を追うごとに増え、開戦前人口の2割を失っていた。

 鳥人は作戦を変更せざるを得なくなった。このまま進めば、数においてはるかに勝る恐竜人がどんどん優勢となり、鳥人の敗北になりかねない。
 「キンタマを射抜いて、これからの人口を減らす作戦だけではダメです。今現在の人口を激減させなくてなならないでしょう。」と幹部の一人が言う。
 「その通りだな。」と長老が肯き、
 「で、その方法は何かあるか?」と周りを見渡す。
 「火矢を使いましょう。彼らの住処を焼き討ちにしましょう。」と別の幹部が言う。
 「火矢か。うーん、しかし、それもすぐに真似られるな。」
 「今日のような風の強い日に、各地でいっせいに火を放ちましょう。火は瞬く間に広がって、彼らに反撃する暇を与えないでしょう。」
 「皆殺し作戦となるな。・・・しょうがないか。やるか。」

 その後、その作戦の細かい打ち合わせが行われた。失敗の許されない作戦であった。熱心に時間をかけて会議が成された。その時誰も、自分たちの住む島のあちらこちらに火矢が放たれたことに気付かずにいた。「ギャー!」と叫び声が聞こえてきた時にはもう、彼らの周りは火に包まれていた。鳥人の羽は水を弾くよう油分を含んでいた。燃え易くできていたのである。風の強い日であった。逃げる暇は無かった。
 その強さから、多少鷹揚な性質である鳥人よりも先に、好戦的な性質である恐竜人が焼き討ち皆殺し作戦を思い付き、それを実行したのであった。鳥人の住む島は、焼けた死体で埋め尽くされた。多くの生き物たちがやってきて、ご馳走を味わった。
 そして、猛鳥物語は、一部の地域では焼け鳥物語として伝わったのであった。
     

 場面はユクレー屋に変わる。初め興味無さそうに聞いていたマナであったが、
 「ふーん、その焼き鳥、美味しかったのかな?」と訊く。感想はそれだけであった。どうやら、最後まで興味無く聞いていたようだ。まあ、マナの感想はともかく、猛鳥物語のお話はこれでお終い。強さを過信してはいけないという教訓話である。

 語り:ケダマン 2007.11.9


見聞録012 猛鳥物語2

2015年09月11日 | ケダマン見聞録

 窓から涼しい風が流れ込む。窓の向こう、西の空はオレンジ色に染まっている。秋の日の夕暮れ時、ユクレー屋のカウンターに俺たちはいる。
 「良い季節になったねぇ。」とゑんちゅ小僧が言う。
 「以下同文。」
 「酒の旨い季節だよね。」とゑんちゅ小僧が言う。
 「以下同文。」
 10月に入っても暑い日が続いていたが、このところやっと秋らしくなった。夕風が爽やかである。日が暮れるのも早い。まったく、秋は酒の季節なのだ。

 「あんたたちさあ、昨日ワイン飲み過ぎて、二日酔いだったんじゃないの?」
 「あー、ひでぇ二日酔いだったな。んが、俺たちの体は血管が少ないんだ。だから、二日酔いが治るのも早いんだ。今はもう既に体調万全というわけだ。」
 「夕方になれば、消費活動に概ね支障無しってことさ。」(ゑんちゅ)
 「まったく、あんたたちって、消費ばっかりだよね。地球環境に悪い体だね。」
 「食って、糞してるんだ。その糞が俺たちの生産品だぜ。」
 「そう、生産に見合った消費をしているだけなんだ。地上が糞で溢れて、その糞に溺れて人類は絶滅、なんてことは無いと思うよ。」(ゑんちゅ)
 「おっ、そうだ、絶滅で思い出した。覚えてるかマナ、前に話した猛鳥物語?」
 「あっ、そうだ、話は続くって言ってたのに、そういえばまだ聞いてないよ。」

 というわけで、ケダマン見聞録『猛鳥物語2』のはじまりはじまり。


 ちょっとおさらいするが、その星には目立った勢力を持つ二種の知的生命体がいた。一種は恐竜人で、もう一種は鳥人であった。恐竜人たちは陸地のほとんどを支配し、鳥人は一地域のいくつかの島だけを生息場所としていた。勢力範囲も人口も恐竜人の方が鳥人よりもはるかに大きかったのであるが、恐竜人は鳥人を猛鳥と呼んで恐れていた。
 恐竜人は好戦的な性格をしており、恐竜人同士での戦争が耐えなかった。であるが、恐竜人は鳥人に戦いを挑むことは滅多に無かった。戦えば必ず負けたからであった。鳥人はまた、戦えば勝つのであったが、その勢力を敢えて広げようとはしなかった。自らの強さに大きな自信を持っており、自らの生存に揺ぎ無い自信を持っており、現状が永遠に続くことを確信しており、その勢力を広げる必要を全く感じていなかったからである。

 さて、話は先へ進む。
 恐竜人は初めの頃、主に狩猟によって食料を得ていた。その食料を奪い合うことが彼らが戦争をする主な理由であった。よって、彼らが戦うのは生きるためなのである。戦争は絶えなかったが、ただ殺すだけの戦争というわけでは無かった。無益な殺生はしないという点では、地球人類より精神の発達は進んでいたと言える。
 また、彼らの全てが日夜戦っていたわけでは無い。戦うのは、成長して、身に付いた武器が十分役立つようになった大人の雄である。それも、時代が経って、定住農耕生活をするようになってからは、戦う兵は体の武器がより発達した強い者がなり、強くない者は農民となって働いた。戦うということについては、兵士と農民に大きな力の差があったが、兵士と農民に身分の差は無い。なぜなら、農民は兵士を養うからである。
 人々に身分の差が無くて、それぞれがそれぞれを尊重していたんだ、何て素晴らしき世界なんだ、などとと一見思えてしまうかもしれないが、まあ、一部族間ではそのような素晴らしき世界に違いなかった。さらに、定住農耕生活をするようになると、狩猟や採集のみに食料を頼っていたそれ以前に比べて他部族間との争いも減っていった。

 ところが、戦争が減ると人口が増えた。人口が増えると彼らは森を切り拓いて自分たちの生息範囲を広げていった。それによって、森の生き物たちが犠牲となった。
 森の生き物たちは、それまでも狩によって命を失っていたが、生息場所の減少はそれよりもはるかに深刻なダメージとなった。彼らは集まって相談した。その結果、恐竜人たちの人口を減らすべく、鳥人を頼ることにした。

 森の住人の代表者たちが鳥人に会いに行った。恐竜人たちの横暴をなんとか止めてくれないかと頼みに行ったのだ。鳥人の長老が応じる。
 「お前たちの話は解ったが、しかし、恐竜人たちを懲らしめたからといって、私たちには何の益も無い。私らは、お前らも食うが、恐竜人は不味いので食わない。食わないのに殺すなんて事は私らの倫理に反する。」
 「そこを何とか。」
 「何とかと言われてもだな、私らの益にはならないことだからな・・・。」
 「それは違います。恐竜人たちの増加は我々他の生き物の絶滅に繋がるだけで無く、種の減少はこの星そのものを滅ぼすことになります。」
 「うーん、そうか。なるほど、そうだな。そうなるな。」
 「長老。」とその場にいた幹部の一人が声をあげる。
 「確かにこの者達の言う通りです。恐竜人の増殖は防がなければなりません。」
 「そうだな。ちっと懲らしめてやるか。」
     

 ということで、いよいよ恐竜人対鳥人の戦いが始まる。のだが、またまた話が長くなってしまった。しゃべり疲れたので、この続きはまたいつか。

 語り:ケダマン 2007.10.12


見聞録011 猛鳥物語1

2015年09月11日 | ケダマン見聞録

 中秋の名月の夜、浜辺に出て、みんなで観月会をやっている最中、マナのリクエストでボートを出した。手漕ぎのボートである。腕の短い俺には櫂を操るのも難儀な仕事だ。幸いにも、海はベタ凪だったので、漕ぐことはあまりせず、波の上を漂わせた。気持ちの良い風が流れ、気持ちの良い時間が流れて行った。
 マナにとっては、目の前に居るのが俺でなく、ジラースーだったら良かったかもしれない。でもまあ、それなりに月下の遊覧を楽しんでくれているようだ。

 「いいねぇ、真ん丸いお月様。何か不思議な力を貰ってるような気がするよ。」
 「あるんじゃないか、月には、不思議な力が。」
 「生きるエネルギーみたいなものかなあ。」
 「そうかもな。そういえば、このあいだジラースーから聞いたんだが、倭国の衛星が月に向かってるんだとよ。神秘的なものは神秘的なままにしておけばと俺は思うんだがよ、人類の飽くなき探究心ってもんなんだろうな。」
 「それ知ってる。月探査衛星っていうんでしょ。2週間くらい前のことだよ。テレビでやってたさあ。あのさあ、その衛星の名前、かぐやっていうんだよ。」
 「かぐやって、何だい、その衛星、全国家具屋協同組合が出資でもしたのか?」
 「バカ、・・・ボケてるんでしょ。」
 「はい、ボケました。かぐや姫物語のかぐやだろ?」
 「でしょ、きっと。だけど、かぐや姫物語なんてのは無いよ、竹取物語だよ。へへへ、あんた、今のはマジで間違えたでしょ?」
 「えっ、あっ、そうだったっけか。タケトリ物語だったか。・・・ふーん、タケトリねぇ。・・・あっ、タケトリで思いだしたぜ。」
 ということで、ケダマン見聞録その11は『猛鳥物語』。

 ある星の話だ。その星にも地球と同じような陸と海があった。陸はいくつかの大陸と多数の島々に分かれていたが、そのほとんどを、ある一種の知的生命体が支配していた。
 その一種の知的生命体は、見た目が恐竜に似ているので恐竜人という名前にするが。彼らは好戦的な性格をしており、大陸同士の間で戦争が絶えなかった。まあ、戦争が絶えないという点は地球も似たようなものだが。地球と違うのは、彼らが大量殺戮可能な武器を持たなかったということだ。それは、そういった武器を使うことによって、歯止めが利かなくなり、種が絶滅する、ということを彼らが恐れたことによる。
 「生きることは戦うこと」とDNAに刻み込まれているので、性格は、さっきもいったように好戦的。そして、彼らの肉体もまた、戦うのに適したようにできていた。手と足には肉を切り裂く鋭い爪を持ち、骨をも噛み潰す強力な顎を持ち、骨ごと噛み切ることのできる鋭い牙を供えていた。また、長い尾を持ち、その尾は鞭のようにしなり、岩を砕くほどの破壊力を持っていた。それらを使って、彼らは戦った。

 「翼竜って知ってるか?」
 「恐竜の?」
 「恐竜も翼竜も同じ時代に生きて、同じ頃に絶滅しているが、翼竜と恐竜は同じでは無い。喩えていえば人と猫ほどの違いがある。まあ、それはどうでもいいや。見た目は空飛ぶ恐竜だ。プテラノドンなんてのが有名だな。」
 「あー、何となく知っている。図鑑かなんかで見た。鳥みたいなものだよね。」
 「まあ、鳥の先祖は翼竜じゃなくて恐竜なんだがな、それはいいや。顎が強い、歯が鋭い、空を飛ぶ翼が付いているのは翼竜と一緒だが、鳥のように翼に羽が生えている。その他、翼の先には人と同じような手があって、自由自在に使え、また、非常に賢いというのが翼竜と違うところだ。そういう種がその星にいた。それを鳥人という。見た目は鳥なんだがな、ただの鳥じゃない。その星で最も強く、最も賢かった。」

 鳥人たちはその星の、一地域のいくつかの島にしか生息していない。彼らは戦闘能力においては恐竜人たちより上回っていたが、人口はその万分の一にも満たなかった。戦えば勝つのにその勢力範囲を広げないのには理由(わけ)があった。彼らはあまりに強かったのである。彼らの生存を脅かすものはいなかったのである。自分たちが生きたいように生きれば、その種が絶えるなんていう不安は微塵も無かったのである。
 鳥人たちは他の生き物を捕らえて食料としていたが、無益な戦いはしなかった。種同士の争いはほとんど無く、恐竜人たちとも戦う事はめったに無かった。恐竜人たちは不味かったので、それを食べるという目的で襲うこともめったに(ゲテモノ好きの鳥人がたまにいた)無かった。ただ、戦闘意欲の強い無鉄砲な恐竜人が鳥人に戦いを挑むことはまれにあった。その際、無鉄砲な恐竜人はことごとく鳥人に殺された。鳥人はすごく強いのであった。その強さを恐れ、恐竜人たちは彼らを猛鳥と呼んでいた。
     

 「で、話は猛鳥物語となるんだが、長くなったので、今日はここまでとしよう。喉が渇いた。みんなの所に戻ろうぜ。今日は月見だぜ、宴会だぜ、後は、飲んで騒ごうぜ。」

 ということで、『猛鳥物語』はまたの機会(いつか)に続く。

 語り:ケダマン 2007.9.28


見聞録019 雨の国

2015年09月07日 | ケダマン見聞録

 ジラースーが珍しく金曜日にやってきた。金曜日に島にやってくることは稀にあるが、ユクレー屋まで足を運んでくるのは珍しい。
 「よー、何だ今日は、結婚記者会見でもやるつもりか?」と声をかけると、
 「何くだらんこと言ってやがる。ポッテカスーが。」と言って、ジラースーはカマジシヂラーしつつ、カウンターの、俺の隣の、ゑんちゅ小僧の隣に腰掛けた。ちなみに、ポッテカスーはアンポンタンと同じような意味で、カマジシヂラーは、カマジシが無愛想、ヂラーは面(つら)で、無愛想な顔といった意味。まあしかし、マナに比べると往生際が悪い奴である。まだ、とぼけようとしている。

 「金曜日だというのに、珍しいね。」(ゑんちゅ)
 「おー、このところやっと天候が良くなってな、で、漁に出てるんだが、今朝、アカジンが釣れたんだ。オバーに土産と思ってな、持って来た。」
 「そういえば、今年のオキナワは雨が多かったそうだね。」(ゑんちゅ)
 「2月の中旬まで晴れた日は3、4日くらいしか無かったんじゃないかな。」
 「ずーっと雨だったのか?」(俺)
 「うん、大雨ってのは少なかったが、ずっと雨か曇りだったな。」
 「雨ばっかり続くと気が滅入ってしまうよね。」と、マナが話に入ってきたので、
 「ほう、お前の心の中はずっと晴れっ放しだったんじゃないのか?ヘ、ヘッ。」とからかってやる。横目でジラースーを見ると、カマジシがさらにカマジシになっていた。

 「ずーっとずーっと雨が続いたら人間は生きていけないだろうね。」とマナが訊いたので、ある惑星の、ある国の話を思い出した。
 「ある星の話だが、ずーっとずーっと雨が続いてる国があったんだ。」ということで、今回はマナとジラースーに語るケダマン見聞録その19、『雨の国』。


 その星も元々は、地球と同じように晴れたり曇ったり、雨が降ったり雪が降ったり、風が吹いたり乾燥したりの、もちろん、これも地球と同じで、地域によって多少のばらつきはあったが、いずれにせよ、地域地域の生物が生きていけるような気象環境であった。しかし、科学が発達するにつれて自然環境が悪化し、っと、これも地球と同じだな。しだいに気象環境も変化していき、ある時ついに、劇的な大変化となった。
 劇的な変化は、暖冬冷夏局地的熱波寒波、集中豪雨などとなって現れた。さらに時が経つと、ある地域では乾燥が続き、ある地域では雨が続くという変化が起きた。
 乾燥が続く、雨が続くというこの「続く」は、今年のオキナワの1月、2月が雨続きだったという程度の「続く」では無い。ある国では1年のうちに雨の降る日が2、3日あるかないかで、それもほんのお湿り程度であった。別の国では逆に、雨の降らない日が2、3日あるかないかで、その日も概ね曇りで、太陽は常に雲の向こうにしかなかった。


 ここで、マナに訊いた。「どうだ、こんな世界に住んだとしたら?」
 「乾燥が続くとあれでしょ、植物が生育できない。植物が育たなければ動物も生きていけないでしょ。降雨地の方も、太陽が出なかったらやっぱり植物は育たないよね。第一、毎日雨だと気が滅入るしね。どちらも人間は生きていけないんじゃないの。」
 「いや、科学が十分に発達しているのなら乾燥地の方は何とかなるな。降雨地から水を引いたり、海水を淡水化したりして、水の需要は賄えるだろうな。」(ジラースー)
 「その通り、そういった過酷な条件下でも人は生きていった。」


 ある島国が、国ごとすっぽりと降雨地になってしまった。国家存亡の危機となってしまった。毎日毎日雨、来る日も来る日も雨、人々の活力も失われていった。
 水は十分にあっても太陽光が無いのだ。やはり植物は育ちにくい。動物も育ちにくい。手の平を太陽にかざすこともできない。僕らはみんな生きているを歌えない。元気が出ない。気分が暗くなる。初めの頃は雨の中で運動会、雨の中で遠足、雨の中でビーチパーティーなどをやっていたが、しだいにそんな元気もなくなってしまった。
 子供達は外で遊ばなくなった。ほとんど全ての子供が青白い顔で、筋肉の痩せたもやしっ子となってしまった。元気の無い子供が増えていった。


 「でしょ、やっぱり。そのうち生きる気力も無くなっていくのよ。」とマナ。
 「まあな、一時はそのようにも思われたが、ところがどっこい、そんな中でも人々は生き続けていった。子供達の元気は無くなったが、それも一時的なもんだったんだ。」

 寝ても雨、覚めても雨、息をしても雨の中で、やはり、科学が十分に発達していたお陰である。人々は屋内環境を充実させ、人工太陽光を屋内に設け、そこで植物を育てるようにした。それによって動物も育った。十分では無いが、食料は供給できた。
 家の中でゲームばっかりだった子供達は水を得た魚のように人工太陽の下で遊んだ。合羽を着て、雨の中ではしゃぐことは無かったが、屋内では元気に遊んだ。お陰で、降雨地になる以前よりもむしろ、子供達の体力は向上したのであった。
     

 「うん、なるほどね。で、話はどうなるの?」と再びマナ。
 「いや、話はそれだけのことだ。つまりだな、人生も同じってことだ。それまでどんなに辛い人生だったとしても、頑張れば幸せは得られるってことだ。」
 「それ、私のことを言ってるの?」とマナが訊いたが、それには応えず、
 「なー、ジラースー?」と、ジラースーに問いかけ、ニコニコとできるだけ優しい笑顔を浮かべながら奴の顔を見た。カマジシジラーがさらにカマジシっていた。

 語り:ケダマン 2008.3.7


見聞録018 軌道修正プロジェクト

2015年09月07日 | ケダマン見聞録

 昨日、マナとジラースーが密かに会っているという話をゑんちゅ小僧として、その後、ジラースーをからかってやったんだが、奴はとぼけてやがった。ホントのところはどうなんだろうと、却って気になってしまった。
 で、今日、ゑんちゅ小僧がやってきた時に、再びその話となる。
 「いや、付き合っているのかどうか俺にも分らないよ。」
 「男と女が二人っきりで会ってんだ。逢引に決まっているだろうが。」
 「それならそれで、良い話だけどさ、ホントに良い話ならさ、そのうち二人から何か報告があるんじゃないの。」と、ゑんちゅは今日も分別臭いことを言う。俺は何か消化不良のような気分のまま、ゑんちゅと二人、ユクレー屋の中に入って、いつものようにカウンターに座り、いつものようにマナを相手に酒を飲む。
 マナもまた、いつものように俺達の相手をする。普段とちっとも変わらない。「とぼけた女だ」と思いつつも、逢引の件については聞けない。男は冷やかすことができるが、女はちょっと躊躇する。冷やかし加減が、恋愛ベタの俺には分らないからだ。で、ちょっと遠回しに聞けないものかと、ある物語を話すことにした。ということで、マナに語るケダマン見聞録その17の始まり、題は『軌道修正プロジェクト』。

 と、俺が話し始める前に、マナが口を開いた。
 「軌道修正ってさ、前に聞いたような気がするな。えーと、何だったっけ、そうだ、確か『お節介な女神』とかいう話だったよ。でしょ?」
 「あー、確かにそんな話もあったな。だけどな、自分達の住む星の軌道修正を自分達でやるというのは相当難しいんだ。銀河全体の運行に関わるからな。こっちを直せば、どこかに影響が出たりするからな。急にはできないことなんだな実は。」
 「じゃあ、地球の軌道がずれていたとしても、すぐには直せないんだ。」
 「うん、まあそうだな。いや、とにかく、だからよ、これから話す話を聞け。」


 普通に生活している時空以外にも、別のたくさんの時空が存在していることは、俺達マジムンを見ているから知っているな。そんな時空の一つに宇宙の運行システムを管理する組織があって、あちこちの星の運行に異常がないかどうか監視している。
 知的生命体が住む惑星で、例えば、前に話したリ星のように科学が発達して、自然が破壊されたような星は、その多くが最後には軌道がずれてしまうことになる。そういう星のほとんどはそのまま放っておくんだが、その軌道のずれが他の惑星に悪い影響を及ぼすと予想された場合にその組織は動く。そこで、軌道修正プロジェクトを立ち上げ、あれこれ手段を使って、ずれた軌道を修正しているってわけだ。この銀河にも助かった惑星が多くある。まあ、その組織があるお陰で、銀河も大過無く運行ができているってわけだ。
 地球の場合はしかし、もしも軌道がずれて、それが他の惑星に及ぼす影響が多少あったとしても、放って置かれるかもしれない。軌道修正プロジェクトの組織が修正する星、しない星を決める場合、もう一つの条件がある。それは、修正後、その星の軌道が長らく保たれると判断された場合には、修正する星となるんだ。
 例えばだ、その組織の下部の下部の下部の、そのまた下部辺りに太陽系の運行システムを管理する部署がある。その会議室で、
 「ボス、地球の軌道がずれています。どうしましょう。」
 「そこは駄目だ。いくら修正しても、また元に戻る可能性が高いからな。構わんから放っておけ。」なんてことになるわけだ。


 場面はユクレー屋に戻る。
 「見放されるんだ。どうしたらいいんだろうね?」(マナ)
 「そうだな、軌道を修正するよりも、人間の行動、感性を修正する方が先だな。」
 「ふーん、心を入れ替えなさいってことだね。・・・ところでさ、軌道修正プロジェクトって話はそれでお終い?」
 「あー、うん、まあ、一応それだけなんだが・・・、あのよ・・・、」
 「なによ?」
 「人間にも軌道修正の時期ってのがあるんだ。天から与えられた本来の進むべき道を見失う時期があってな、その時には修正が必要なんだな。例えばだな、結婚すべきなのに、結婚すべき相手も近くにいるのに、そうしていないのはだ、軌道がずれていると言ってもいいわけだ。その時には修正が必要ってわけだ。」
 「いったい、何の話なのさ?」
 「いや、お前もそろそろ軌道修正の時期かなと思ってさ。」と言うと、最初はキョトンとしていたが、しばらくして、
 「あー、そういうことね。」と言って、マナは意味ありげにニヤリと笑った。すると、それまで黙っていたウフオバーが口を挟んだ。
 「来月か再来月になるかね、マナの軌道修正は。」と、こちらはニコニコ笑った。 
     

 語り:ケダマン 2008.2.22