ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

発明031 アチカユンボ

2008年11月28日 | 博士の発明

 いつもの週末、いつものユクレー屋、いつものようにケダマンと私がカウンターで飲んでいて、マナがカウンターの向こうに立っている。夜になるとまた、いつものようにガジ丸一行(ジラースー、勝さん、新さん、太郎さん)もやってきて、もうすぐ臨月のマナを中心にした話題で盛り上がる。大きなお腹は幸せの印だ。皆、幸せ気分になる。
 いつもの風景では無いことが一つある。ジラースーが勝さんたちや我々の席にあまり加わらなくなった。お腹の子の父親であるジラースーは、マナの手伝いをしている時間が長いのだ。マナに無理はさせたくないという配慮であろう。マナと一緒にカウンターの中にいて、「あれして、これして。」と言うマナの注文に応えている。何とも甲斐甲斐しく働いているのだ。似合わないとも言えるが、微笑ましくも感じる。

 誰もが顔の緩む時間が流れる中、いつものようにケダマンが皮肉を言う。
 「なんか情けないなぁ、海の男がよ、女に扱われてよ。」
 「別にいいんじゃないか、命を大切にしたいというのも男の心だろ?」(私)
 「いやいや、こんな時でもどっしりと構えるのが男だぜ。」(ケダ)
 「お前、人の幸せを妬んでいるんじゃないか?」(ガジ丸)
 「冗談じゃ無ぇぜ。女に扱われている男に、何で俺が嫉妬するんだ。」(ケダ)
 「扱われているんじゃないよ、きっと。マナを大事に思っているんだよ。もう何ヶ月も前からそんな雰囲気なんだよ、あの二人は。」(私)
 「そうだな、扱われている・・・って言やぁ、そうだ、思い出した。シバイサー博士に伝言頼まれていたんだ、ゑんちゅ小僧によ。」(ガジ丸)
 「俺に?・・・博士が?・・・何?」
 「新しい発明品ができたんだとさ。」

 ということで、幸せ気分の夜が終わって翌日、早速、博士の研究所を訪ねた。ゴリコとガジポの歓迎を受ける。ほんのちょっとの間、一人と一匹の相手をしてから、ゴリコに博士の居場所を訊くと、裏庭にいるとのこと。寝てはいないみたいだった。
 で、裏庭に回る。ゴリコの言う通り、博士は起きて、立っていた。立って、何か作業をしている。博士の目の前には、小さなユンボがあった。ユンボとは正式名バックホウと言い、穴を掘る機械、土木屋さんが道路工事などでよく使っている奴。ユクレー島でも土木や建築工事はたまにあるので、村には大きなユンボ、中くらいのユンボ、小さなユンボがそれぞれ1台ずつある。農作業にも使えるので、村人は重宝している。だが、博士の前にあるユンボは、村の小さなユンボよりもまだ小さい。今までに見たことが無い物。

 「こんにちは、博士。」と声をかける。
 「あー、来たか。」と博士はゆっくり顔だけを向ける。作業はまだ途中らしい。
 「それが、今回の発明品ですか?ユンボみたいですね?」
 「そう、その通り、ユンボだ。ちょっと特別なユンボだ。」
 「まだ作業中みたいですが、まだ完成していないんですか?」
 「いや、とうに完成はしている。今、プログラムをちょっと弄っていたところだ。どうだ、試してみるか?運転してみるか?穴掘りのプログラムを入れた。」
 「はあ、練習無しですぐに扱えるんですか、それ?」
 「あー、練習無しですぐに扱われるよ。やってみたまえ。」

 で、早速、乗ってみる。動かす前に訊いた。
 「博士、この機械の名前は何て言うんですか?」
 「アチカユンボと言う。ジラースーがな、マナに扱われているのを見ていたらこういうのを思いついた。人間に使われるんじゃなくて、人間を扱うユンボだ。」と、博士が言い終わらない内に、アチカユンボという名の機械は動き出した。先ず、ハンドルを握る私の両手、ペダルを踏む私の両足を機械は固定した。そして、私の体を勝手に動かして、私の意思とは全く関係なく、自身も勝手に動いて、穴を掘り始めた。
 「博士!」と私は大声を出した。「この機械、私の体を操作しています。」
 「ふむ。だからアチカユンボって言うんだ。」と博士は満足気に答えた。

  ウチナーグチ(沖縄方言)で、扱うをアチカユンと言う。アチカユンには操作する、こき使うといったニュアンスも含まれる。そして、それはその通り、アチカユンボは私の体を激しく動かした。私の体は、私の能力以上に素早く、力強く動いた。そして、直径3mほど、深さ1mほどの穴をあっという間に掘り終えた。
 アチカユンボは元の位置に戻ると、やっとその動きを止めた。固定されていた私の両手両足もやっと解放された。しかし、私は立ち上がれなかった。ヘトヘトに疲れていた。しばらく座り込んだまま、ゼーゼーする息を整えてから、言った。
 「博士、これ、酷いです。何か、全速力で100m走ったみたいな気分です。」
 「うん、それが狙いだ。素早く作業を行うと同時に、乗る人の運動不足を解消し、ダイエット効果もあるというスグレモンだ。どうだ、カッ、カッ、カッ。」

 建設機械というものは、人間を重労働から解放するというのが大きな役割である。と私は博士に進言して、その場を去った。アチカユンボはその後すぐに、普通のミニユンボに改造され、村に贈られ、村人の役に立つことになる。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.11.28


乱高下が予兆するもの

2008年11月28日 | 通信-環境・自然

 最近、ファッション用語を一つ覚えた。アウター。昔からあった言葉なのか、最近から出始めた言葉なのか、ファッションに疎い私には判らないが、私がほぼ年中着ている、Tシャツの上から羽織っているシャツのことをそういうらしい。
 冬以外の季節(概ね4月から11月)は半袖のアウター、冬でも暖かい日は長袖薄手のアウター、寒い日はちょっと厚手のアウター、真冬の寒さになるとブルゾン、ここ数年着る機会は無いが、ごく寒い日(10度以下)には厚手のブルゾンを使う。

  日曜日、衣替えをした。衣替えは毎年の行事、冬入りと冬開けにやっている。この時期は、表に出してあった夏物を押入れに仕舞い、冬物を表に出す。ブルゾンは着る機会が少ないので常に押入れだが、薄手3枚とちょっと厚手2枚のアウターを表に出した。
 沖縄気象台の記録によると、日曜日の最高気温は26度。それから4日後の昨日の最高気温は23度、薄手のアウターで過ごせる。が、木曜日の夜から風が強くなり、気温もぐっと下がった。今朝の室温は17度であった。これはもう冬。長袖薄手のアウター、厚手のアウターを通り越してブルゾンの気候だ。「そんな急な!」だ。

 今年は気温の乱高下が激しい。9月頃から涼しくなったり、暑くなったり、寒くなったり、暑くなったりを繰り返している。「はっきりせんかい!」と思う。株価の乱高下は大不況の予兆とも言われているが、気温の乱高下は何を予兆しているのか。もしも、それが地球温暖化の影響であるならば、・・・ひょっとしたら、

 株価の乱高下が大不況の予兆で、その通り大不況となったら、人類の生産活動は激減する。生産が激減すると、二酸化炭素排出量も京都議定書の数値を軽くクリアするくらいに激減する。すると、地球環境は良くなる。地球環境が安定すると農業生産が増える。工業生産品が減って不便になるかもしれないが、人類に食の不安は無くなる。というわけで、人類の未来はめでたしめでたし、・・・となるかもしれない。希望的観測では。
          

 記:2008.11.28 島乃ガジ丸


瓦版075 母は強し、愛も強し

2008年11月21日 | ユクレー瓦版

 11月も終盤になったが、今年は例年に無く暖かい。それが地球温暖化のせいなら喜んでばかりもいられないが、気持ちは良い。「散歩日和だな」となる。
 村を一回りして浜辺に出る。海風も爽やかだ。「釣日和かも」と思い直し、港へ向かった。ジラースーの船があるはずだ。船の上から釣り糸を垂らそう。
 ところが、港に着いてみると船が無い。今日は帰る日じゃないのにどうしたんだろうと不思議に思いつつ、しょうがないのでシバイサー博士の研究所へ行った。博士も釣具を持っている。ところが、博士も不在だった。ゴリコもガジポもいない。
 で、まだ時間は早いが、ユクレー屋へ。ユクレー屋にはいつものようにケダマンがカウンターに座っていて、カウンターの向こうにマナがいる。私もいつものようにケダマンの隣に座って、いつもより少し(マナに言わせると大いに)早めの飲酒タイムとなる。

 ジラースー二世誕生まで一ヵ月半という話題を中心に三人でしばらくユンタク(おしゃべり)していたら、珍しく明るい内にガジ丸がやってきた。
 「よー、なんだい、今日はまた、早いな。」(ケダ)
 「あー、今朝、ジラースーに船を出してもらって釣りしてきた。で、ガーラ一匹。新鮮なうちに料理して貰おうと思って、持ってきた。ウフオバーはいるか?」
 「オバーは出かけているけど、私でも刺身にする位ならできるよ。」(マナ)
 「なんだい、午前中やって、たった一匹か?ジラースーと二人で。」(ケダ)
 「ジラースーはずっとゴリコの遊び相手だ。釣りしたのは俺一人。」
 「それでも一匹だけとは情けない。ネコの野生は消え失せたか?」
 「いや、まあ、日が悪かったんだ。こんな日もあるさ。まあしかし、一匹だけじゃ淋しいと思ってな、船の冷凍庫からサバを3尾貰ってきた。秋サバだ。」

  料理をマナに任せて、ガジ丸は自分でジョッキにビールを注ぎ、カウンターに座る。
 「昼前に港へ行ったんだ。そしたらジラースーの船が無くてさ、不思議に思っていたんだ。そうか、釣りに行ってたんだ。博士やゴリコも一緒だったんだ。」(私)
 「うん、博士は船でもずっと眠ていたがな、ゴリコが大喜びだった。」
 などと我々がビール飲みながら、ユンタクしている間、マナは料理。魚の頭を包丁でポンポンと切り落とす。それを見ていたケダマンが思わず訊く。
 「お腹に赤ちゃんがいる割には、魚の首をちょん切るのに抵抗がないんだ。」
 「何言ってるの、お腹に子がいるからこそ、これも必要なの。他の命を頂いて、私も赤ちゃんも生きていけるのさ。子供のためなら母親は何でもやるさ。」
 「なるほど、母は強しってわけだ。」と我々三匹は納得した。
     

  しばらくして、「おまたせ」とマナがゆさゆさ体を揺らしながら料理を出した。
 「あきさまよー、オメェ、その歩き方、まったく相撲取りだぜ。」(ケダ)
 あきさまよーは「あれまあ」といった驚きを表すウチナーグチ(沖縄口)だが、マナはそれには応えず、ニカッと笑って、
 「ピンポーン、あったりー。本日の1品は私の創作料理『あきさばよー』です。」
 皿の料理を見ると、焼きサバの身の方に何やら赤っぽいソースが塗られている。
 「何これ、秋サバは判るけど、ソースが珍しいね。」(私)
 「オキナワのトーフヨーで作ったソースだよ。で、秋鯖ヨーなのさ。」

 ガーラの刺身は美味であった。マナの創作料理アキサバヨーも美味しかった。美味いものを食って、旨い酒となった。秋の夜長は楽しく更けていった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.11.21


絡みつくしがらみ

2008年11月21日 | 通信-政治・経済

 先週の平日、昼休み、家に帰って昼飯を食い、職場へ戻る途中、大通りへ出たら前を選挙カーが走っていた。先週は那覇市長選の真っ只中、那覇市会議員補欠選挙も同時に行われていて、選挙カーはあちらこちらで頻繁に目にする。すぐ前を選挙カーが走っていても何も不思議は無い。現に、今回もこの時が2回目であった。
 選挙カーは概ねゆっくり走る。昼飯を食って職場へ戻る私は、ギリギリの時間に家を出るので、概ね急いでいる。前回は急いでは無かったのだが、その時の候補者は「ご迷惑をおかけしています。お先へどうぞ。」と言って、車を左に寄せた。なので今回も当然、前を走る選挙カーが同じようにするものと私は思った。
 ところが、その選挙カーは図太いのであった。左に寄せる十分な広さのある道になっても、候補者の名前を連呼し続け、ゆっくり走っているのであった。
 「なんて野郎だ!その傲慢さで、ぜひとも1票をお願いしますなんて、よく言えるもんだ。ふんぞり返って『1票頼むわ』って言ってるようなもんだ。こんな野郎には絶対、俺の1票はあげないぜ。」と私は誓ったのであった。

 その翌日、私は期日前投票をした。期日前投票は初体験である。期日前投票が好きというわけでも無く、投票日の日曜日が忙しいというわけでも無い。社長に頼まれたのだ。就業時間に、会社の車を使っていいから、とまで社長に言われたんじゃあ断れない。
  その社長は、下請けの仕事を多く貰っている大手企業(特定の候補者を応援している)から、「社員に期日前投票させろ」と命令されている。もちろん社長は、特定の候補者に投票するようになんてことは言わない。うちの社長はそれほど傲慢では無い。
 たとえ、「○○に入れろ」と依頼されても、実際に誰に入れるかは個人の勝手である。100人が期日前投票をしたって、100人が依頼された候補者名を書いたかどうかは不明だ。なので、私には「社員を期日前投票させろ」という意図が解らない。
 ただ、社員は社長に頼まれ、社長は大会社に命令され、という図式が、社会と政治の未熟さを露呈しているようで、何となく嫌な気分になる。しがらみという糸が絡み付いて、行きたい方向へ行けない。そんな不自由さを感じる。

 大手企業の応援する候補者は、上述した、ゆっくり走り続けて道を譲らなかった選挙カーの候補者だ。「絶対入れてやらない」と私が誓って、そうしたのだが、当選した。まあそんなもんだろうとは思う。まだまだ沖縄は(たぶん日本全国も)しがらみ社会だ。
          

 記:2008.11.21 島乃ガジ丸


せっかく集めたのに

2008年11月14日 | 通信-政治・経済

 あっそうだろう総理が景気対策として打ち出した定額給付金が、さんざん迷走して、やっと決着した。決着して良かったね、などと私は思っているわけでは無い。
  私には、定額給付金が何故景気対策になるのかという意味が解らない。給付金に使われる総額2兆円は税金である。税金は国民から集めたお金である。国民が協力してお金を少しずつ出し合って、少しのお金ではできないようなこと、社会全体の役に立てるようなことのためにと集めた2兆円、「税金を取り過ぎました。今、社会全体のために必要なことは特にありません。なので、返します。」というのならともかく、今こそ、社会全体のために何か手を打つべきであろうと思う。食の安全対策、食料の安定的確保、エネルギー資源の確保などなど、いろいろあるはずだ。よく考えてね、と言いたい。

 せっかく集めた大金を、大金にしかできないことに使わず、戻す。集める手間、戻す手間などを考えても無駄なことだ。「定額給付金は選挙用のばらまき」と野党が言っているが、そうなんだろうと私も思ってしまう。でなければ、天下の愚策である。
 であるが、もちろん、言うまでも無く、政策が実行されたなら、私は粛々と給付金を受け取りにいく。私は貧乏人で、老後に不安がある。1万2千円は貯金する。
          

 記:2008.11.14 島乃ガジ丸