ユクレー島が、見える人には見える存在となったのは今から約百年前のことである。初めはシバイサー博士だけの世界で、島のイメージは博士によって作られた。それからしばらくして、ガジ丸やモク魔王が住み着くようになった。その後またしばらくして、島に住み着く人間もボチボチと増えていき、今では数百人が暮らしている。
島に初めてやってきた人間は、「ユクレー屋」の主(あるじ)であるウフオバー。彼女がこの島にやってきたのは、今から60年前のこと。梅雨時の雨が降りしきる中、浜辺をフラフラと歩いている時に、目の前の海に、雨で霞む中に、ふと、島が見えた。
ウフオバーはその時既に100に近い歳であった。歩き疲れ、泣き疲れた肉体の疲労と大きな精神的ダメージから、島に着くと、島の浜辺にそのまま倒れこんでしまった。そこをシバイサー博士に助けられ、博士の世話で、そのまま島に住み着くようになった。それから数年も経って島に住む人間が多くなると、マジムンの世界と人間の住む世界のつなぎ役が必要になって、茶屋をやってくれないかと博士に頼まれたのであった。
マジムンの住む場所と人間の住む場所との間に何となくある境界線の辺り、道の傍に一軒の茶屋があり、名を「ユクレー屋」という。それはウフオバーの命名である。
「ユクレー屋」は、茶屋とはいっても、道行く人のお休み処といったようなものでは無い。ウフオバーは百五十を超える歳で、しかも元気で、頭もはっきりしていて、知恵があるので、島に住む人々の相談相手となっている。また、島に住む人々の憩いの場であり、時には三線(サンシン)など弾いて、唄い、踊りの宴会の場ともなったりする。さらに、茶屋には人間だけでなく、ガジ丸やモク魔王、シバイサー博士などもたまに訪れる。マジムンたちと人間との交流も、まれにだが、そこで行われる。
ユクレー屋にはオバー手作りの料理がメニューにある。チャンプルーも煮付けも、オバーの料理は美味しいと評判である。また、シバイサー博士の発明したおつまみもいくつか置いてあり、それらも酒の肴に喜ばれている。そして、同じく博士の発明である泡盛カクテル恋島酒(こいしましゅ)、愛島酒(あいしましゅ)は大人気となっている。
ウフオバーはマジムンというわけでは無いが、人間の寿命以上の寿命を生きている。それは、オバーよりもずっと長く生きているマジムン、シバイサー博士の力による。
語り:ゑんちゅ小僧 2005.8.7