ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版003 ユクレー屋

2007年03月30日 | ユクレー瓦版

 ユクレー島が、見える人には見える存在となったのは今から約百年前のことである。初めはシバイサー博士だけの世界で、島のイメージは博士によって作られた。それからしばらくして、ガジ丸やモク魔王が住み着くようになった。その後またしばらくして、島に住み着く人間もボチボチと増えていき、今では数百人が暮らしている。

  島に初めてやってきた人間は、「ユクレー屋」の主(あるじ)であるウフオバー。彼女がこの島にやってきたのは、今から60年前のこと。梅雨時の雨が降りしきる中、浜辺をフラフラと歩いている時に、目の前の海に、雨で霞む中に、ふと、島が見えた。
 ウフオバーはその時既に100に近い歳であった。歩き疲れ、泣き疲れた肉体の疲労と大きな精神的ダメージから、島に着くと、島の浜辺にそのまま倒れこんでしまった。そこをシバイサー博士に助けられ、博士の世話で、そのまま島に住み着くようになった。それから数年も経って島に住む人間が多くなると、マジムンの世界と人間の住む世界のつなぎ役が必要になって、茶屋をやってくれないかと博士に頼まれたのであった。
     

 マジムンの住む場所と人間の住む場所との間に何となくある境界線の辺り、道の傍に一軒の茶屋があり、名を「ユクレー屋」という。それはウフオバーの命名である。
 「ユクレー屋」は、茶屋とはいっても、道行く人のお休み処といったようなものでは無い。ウフオバーは百五十を超える歳で、しかも元気で、頭もはっきりしていて、知恵があるので、島に住む人々の相談相手となっている。また、島に住む人々の憩いの場であり、時には三線(サンシン)など弾いて、唄い、踊りの宴会の場ともなったりする。さらに、茶屋には人間だけでなく、ガジ丸やモク魔王、シバイサー博士などもたまに訪れる。マジムンたちと人間との交流も、まれにだが、そこで行われる。
    ユクレー屋にはオバー手作りの料理がメニューにある。チャンプルーも煮付けも、オバーの料理は美味しいと評判である。また、シバイサー博士の発明したおつまみもいくつか置いてあり、それらも酒の肴に喜ばれている。そして、同じく博士の発明である泡盛カクテル恋島酒(こいしましゅ)、愛島酒(あいしましゅ)は大人気となっている。

 ウフオバーはマジムンというわけでは無いが、人間の寿命以上の寿命を生きている。それは、オバーよりもずっと長く生きているマジムン、シバイサー博士の力による。
     

 語り:ゑんちゅ小僧 2005.8.7


瓦版002 悲しみの日に、ふと見える島

2007年03月30日 | ユクレー瓦版

 ガジ丸が住む島は、正式な名前は不詳であるが、通称をユクレー島と言う。それは島に一軒ある茶屋「ユクレー屋」に由来している。ユクレーは、ウチナーグチ(沖縄口)で「休みなさい」とか「寄っていきなさい」とかいった意味。「ユクレー屋」は茶屋として、島の人々の交流の場となっており、また、雑貨屋でもあり、飲食店でもある。ウフオバーという名の老婆がその店の主。ユーナやチシャなどが時々店を手伝っている。

  島には、ガジ丸やシバイサー博士などのマジムン(魔物・物の怪の類)と数百人の人間が住んでいるが、マジムンたちのいる場所と人間たちが住む場所は分かれている。その間には道が1本通っていて、その周囲はただの野原となっている。野原に柵は無く、道に門は無い。境界線も何となくこの辺といった感じで、はっきりしているわけでは無い。つまり、お互いの行き来には全く何の制限も無い。が、人間たちは、マジムンのいる場所へ敢えて立ち入ることはほとんどしない。ただ、マジムンたちは、まれにではあるが、人間の住む場所へ顔を出し、人間たちと声を交わすこともあるので、人間たちの多くは彼らの存在をちゃんと知っている。そして、彼らを敬いつつも、けして恐れてはいない。

 島には風力発電による電気はあるが、テレビや冷蔵庫などの電化製品は少ない。自転車はあるが車は無い。でも、島の生活に不便を感じるものはおらず、みな、のんびりと暮らしている。緑が豊かで良い畑地もあり、島で、食うに困るというようなことは無い。
 島の大きさ形は変幻自在である。島に住む人々が増えると大きくなったり、少なくなると小さくなったりする。見える人には遠くの地平線まで見えたりするが、見えない人にはすぐそこが海だったりする。どこまでも続く道かと思って歩いていたら、いつのまにか元の場所に戻っていたりもする。島の空間は無限でもあり、また、無であったりもする。

 南海に浮かぶユクレー島は、普通の人には見えない島。生命を愛するが故に深い悲しみを背負った人に、ふと見える島。だから、島に住む人間はみな、深い悲しみを経験し、命の尊さや愛おしさを知っている人々。ある日、悲しさ辛さで心が疲れ、ふと海を見た時に、そこに島があり、ふと立ち寄って、そして、住み着いた人々である。
 ユクレー島は、悲しみの日に、ふと見える島である。
     

 語り:ゑんちゅ小僧 2005.8.7


発明003 ヒツケ係り

2007年03月30日 | 博士の発明

 先日、偶然、道端でチシャ君に出会った。
 「シバイサー博士は元気?“太っ樽”の失敗で落ち込んでいない?」と訊いた。
 「いやー、博士は落ち込むような人、いや、モノノケではないですよ。すぐにまた何か閃いたようで、昨日まで一所懸命作業していましたよ。」と応える。
 「そうか、さすが博士だ。さっそく訪ねてみよう。」と私は研究所へ向かった。

 研究所を覗くと博士はいなかった。裏に回る。研究所の裏はすぐ海になっている。おそらくそうであろうと睨んだ通り、博士は海岸の岩場に寝そべって釣り糸を垂れていた。近寄ってみると、これもまた予想通り、寝そべったその腕の先には泡盛の一升瓶と湯呑みがある。真昼間から酒を飲みながらの釣り三昧というわけだ。酒の肴はオキアミ、釣りの餌にしながら肴にもしている。

 「博士」と声を掛ける。
 「やー、君か。」と言って体を起こし、「飲むか?」と訊く。
 「いや、酒は後にしましょう。先ず、新しい発明品の話を聞かせてください。」と頼んだ。すると博士は、ポケットからタバコを取り出し、
 「君はタバコを吸うかね?」と訊いた。
 「普段は吸いませんが、たまには、酒を飲むときなどには吸ったりしますよ。」と答えると、博士はタバコを1本、私の口に咥えさせ、そして、テレビのリモコンのようなものをポケットから出し、何やら操作をした。すると、研究所の方から鳥のようなものが飛んできて、私の目の前をさっと通り過ぎた。通り過ぎた後、ふと見ると、タバコの先に火が点いていた。
 「何です、今の?鳥みたいなもの?」と訊く。博士はまた、リモコンを動かした。鳥みたいなものが近付いて、私の目の前に下りた。それは、スズメ大の鳥の形をしていた。
 「これが今回の発明品、咥えたタバコに火を付けてくれる“ヒツケ係り”だ。別名“ホステス要らず”とも言う。あるいはまた、“親要らず”とも言う。」
 「“ホステス要らず”は解りますが、何ですか、“親要らず”って」
 「火の出る穴の横に線香みたいなものがついているだろう。これは、悪いことをすると灸を据えるための線香だ。つまり、火付もするが、躾もできるというわけだ。“し”と“ひ”の発音がはっきりしない江戸っ子のための“ヒツケ係り”というわけだ。」
 「おー、何て画期的な。これはいいんじゃないんですか。きっと売れますぜ、旦那」などと私も江戸っ子口調になって思わず叫ぶ。
 「いやー、またしても期待を裏切るようで何なんだが、今回もどうやら失敗作のようなのだ。」
 「え?どうしてですか?躾と火付が同時にできるなんて、今までにないじゃないですか。画期的じゃないですか。」
 「完成してすぐにユーナに見せたら、『江戸っ子じゃあるめぇし、“躾”と“火付”の駄洒落かよ。躾なら親の手の方が増しだろう。火付ならライターで十分だろう。』と情けないといったような顔で言われてしまった。よーく考えると、確かに彼女の言う通りだと私も思ったのだよ。」

 確かに私もまた思った。どうせ火を付けてくれるなら機械の鳥よりもホステスの手の方が断然良い。またもやその発明が失敗作と判じられてしまった博士、漂々とした表情の中には忸怩たる思いもあるであろう。そんな博士を慰める言葉も見つからず、私は静かにその場を離れたのであった。 
     

 記:ゑんちゅ小僧 2005.2.17


発明002 太っ樽(ふとったる)

2007年03月30日 | 博士の発明

 先日、シバイサー博士の研究所を訪ねた。博士は元々、世捨て人のような生活をしているので、こちらから時々ご機嫌伺いに行かないと、今、何を研究開発しているのかを知ることができない。その日は突然の訪問だったが、博士はいた。
 「久しぶりだね。まあ、入りなさい。」と私を招き入れる。室内は前回と特に変わったところは無い。作業台の上も片付けられていて、何か作っていたという様子も無い。三分の一ほど齧られた鰹節と泡盛の一升瓶と湯飲みだけが置かれている。

 「博士、最近の研究は何ですか?何か発明したものはありますか?」と訊くと、
 「このあいだ、発明したものがあるにはあるんだが、これがまた、評判悪くてね。」と言う。博士が目をやった先を見ると、部屋の角に台があり、その奥に樽のようなものが無造作に置かれてあった。樽と判断したのは、ずんぐりした形はともかく、材料が木と竹とでできており、また、全体のデザインが日本酒の樽に似ていたからだ。ただ、普通の日本酒の樽に比べると丈が低く、横幅が広い。
 「何ですか、あれ?中に何か入っているんですか?酒ですか?」と続けて尋ねると、
 「酒では無いが、画期的な飲み物が入っている。コップ一杯飲むだけで、一日に必要な分の全ての栄養素を摂取することができ、しかも、カロリーが高い。すこぶる高い。」
 「そんな飲み物、何のために使うのですか?」とさらに質問する。
 「今、巷ではダイエットブームだ。しかし、ブームはブームなのでいつかは廃れる。長い間続いたダイエットブームももうそろそろ終わる頃だと私は思った。そして、これからは太っちょブームが来るに違いない。みんなが太りたくなる時代になるに違いない。そこで、健康的で、手軽に太ることのできる飲み物を開発したというわけだ。この飲み物は樽詰にして売り出す。太っちょの飲み物だから樽も横幅を大きくした。太るための樽というわけで、名付けて、“太っ樽”という。」

 さすが博士、と私は思った。さすが浮世離れした頭脳の持ち主である。みんなが太りたくなる時代が来るなんて誰が考えようか、誰も考えまい。誰も考えないし、また、きっとこの先何十年も太りたいブームは来ないに違いない。これは間違いなく売れないだろう。評判が悪いということが納得できた。しかし、待てよ。と私は閃いた。

 「博士、分りました。太りたいと思っている人がいます。相撲取りです。その飲み物、彼らにはきっと必要でしょう。」
 「あー、それはユーナからも提案があって、調査してみたんだが、なかなか太れないという相撲取りの数は少数で、しかも、その人たちも、どうせ飲んで太るのなら薬よりも酒飲んで太った方がはるかに増し、という意見が大多数だった。残ったたった数人のためだと生産コストが合わないのだ。」
  そうか、たった数人しかいなかったのか、と思いつつ、
 「博士、太りたいと思っている人は相撲取り以外にいないですか?」と、さらに訊く。
 「私の考えでは、振られた大阪の女がそうなのだ。振られて自暴自棄になって、『よーし!もう怒った!どうせもてないんならもっと太ったる!』なんてならないだろうかと思ったのだ。だから、太っ樽という名前も浮かんだのだがね。」

 振られた大阪の女か、うーん、彼女らもどうせ太るのなら薬じゃなく、ケーキを食って太りたいと思うだろうな。と私は思った。どうやら博士の発明“太っ樽”は、“沸酒”に続いてまたしても失敗作のようである。
 博士のスケッチブックには缶入り太っ樽のデザインも描かれてあった。
 「手軽に飲めて、手軽に太れるようにと缶入りも考えたんだが・・・。」と博士は言っていたが、まったく無駄な考えなのであった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2005.2.12


発明001 沸酒(ふっしゅ)

2007年03月30日 | 博士の発明

  飲むと口の中、舌、喉、食道、胃などが火傷するほどの強い酒。優しさは微塵も無く、味も香りも皆無。ただ単に体の中で暴れまわるだけの乱暴な酒。
 殺菌消毒用にも使えるとのことで農業試験場で使ってみたところ、辺りにあるものを手当たり次第殺菌してしまい。役に立つかけがえの無い菌まで消滅して、試験場は大被害を蒙った。

 発明したシバイサー博士の談。
 「飲み物としてではなく、殺菌剤として使えるのではないかと思ったのだが、狙った菌だけでなく、周りの罪の無い菌まで情け容赦無く殺してしまうようだ。これは私の大失敗作だ。今さら言っても遅いのだが、これを世に出したのは間違いだった。陳謝する。」とのこと。

 血が沸騰するほどの酒、という意味で沸酒(フッシュ)と名付けたらしいが。結果、フッシュは、飲んだ本人の血を沸騰させただけでなく、周りの人々の怒りをも沸騰させてしまうこととなった。フッシュは不幸を招く酒として歴史に残り、シバイサー博士の汚点となった。 
     

 記:ゑんちゅ小僧 2004.11.19