頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『阿片戦争』陳舜臣

2012-03-06 | books

「阿片戦争」(上中下)陳舜臣 講談社 1973年(文庫)1967年(単行本)

阿片戦争を欽差大臣となった林則除と、架空の商人連維材を中心に描く。

知り合いに面白いと薦められた「世界史講義録」というサイト。高校の先生が講義をそのまま載せたような形式で世界史を教えてくれる。まだ一部しか読んでいないけれど、すごく面白い。

その中でこの小説が薦められていた。陳舜臣は昔ミステリーは読んだことがあったのだが、中国史はどうせ中国人が書いたのだから偏った話だろうと思って読んでいなかった(実際は台湾の人だった)

作品はとても面白い。林則除=正義の味方、英国が悪者のような単純な図式でもなく、実在の人物とそうでない人物を複雑に置いて、歴史を学ぶ+物語を楽しむ こと双方が出来る。

難点は長いこと。600頁ほどの分厚い文庫が三冊は長い。単行本は上下巻だけどこちらも分厚い。もちろんその分楽しめるのだけれど。

同じ著者の「中国の歴史」も読みやすそうなので、今度読んでみようと思う。



阿片戦争(上) 滄海編 (講談社文庫 ち 1-1)阿片戦争〈上〉
中国の歴史(一) (講談社文庫―中国歴史シリーズ)
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『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』北尾トロ

2012-03-05 | books

「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」北尾トロ 文春文庫 2006年(単行本鉄人社2003年 初出裏モノJAPAN2001年10月号~2003年10月号)

昔はこういう本(読みやすいドキュメント)をよく読んでた。しかしいつのまにかほとんど読まないジャンルになってしまっていた。

裏モノJAPANという雑誌で連載されていた、裁判の傍聴記をまとめたもの。最初は著者の勝手が分からないところから始まり、段々慣れきて、傍聴マニアの知り合いができて話をきけるところまでに至る。

25回分もあるので、1回の分量は少ない。ので読みやすい。読んでスカッとするわけでもなく、すごく笑えるわけでもない。ちょっと考えさせられたり、ちょっとしみじみしたりすることが多い。ノリがやや軽めなので、事件の関係者が読んだら気分を害するだろうなという気がする。

11章は「卑劣」というタイトルで、印象的だった。ふられた腹いせにレイプしようとしたが、実際にレイプしたのは友人で… これだけでも立ち読みする価値あり。12章は裁判所の前で本を売る人の話。これも面白かった。

しかし一気読みすると疲れる。何というか、人間の業のようなものを一挙に浴びた感じだった。裁判の傍聴は一度行ってみたいとも思った。



裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)裁判長!ここは懲役4年でどうすか [DVD]
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ズレ

2012-03-03 | digital, blog & twitter

ある本についてGoogleで検索してあるブログの記事を読んでいた。

何というか、エラソーなのである。言葉づかいも、文面から漂う書いている本人の性格も。

ふーん。エラソーなのはブログの記事からでも分かっちゃうんだな。

ふと思った。

ワタシのこのブログが とてもエラソーであることを。

書いているときはそうでもないのだが、後で読み返すと、どこのどいつがこんなエラソーに語りやがんでー と思うことが多い。すまぬ。

ワタシは、メタボで、鼻毛がロン毛で、どこで売ってるんだろケミカルウオッシュジーンズを常に履いて、Dr.スランプTシャツを着てるし、歯は基本的に磨かない、髪型はきっちり七三分け。

だからエラソーにひとさまに語るあれでもないわけで。

うんうん。

過剰なほどに腰を低くする必要もないんだろうけれど、どうしてブログ内人格は現実の人格とズレるのだろうか。

知り合いのつぶやきが、いつもひがみっぽいのばかりなんだけれど、現実はそんな人でもないので、そういうズレはあちこちにあるのかも知れない。

え?

どうしてワタシの頭を見てるの?

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『くらやみの速さはどれくらい』エリザベス・ムーン

2012-03-02 | books

「くらやみの速さはどれくらい」エリザベス・ムーン 早川書房(単行本2004年文庫2008年)
The Speed Of Dark, Elizabeth Moon 2003

① 近未来。自閉症のルウ。仕事はちゃんとできる。コンピューターを使ってかなり高度な。趣味はフェンシング。5年も続けている。試合に出ないかと言われている。フェンシング仲間の女性マージョリのことがとても好きだ。でもなかなか言い出せない。近未来の恋の行方は…

② わたしはルウ。35歳。フェンシングの練習で知り合ったマージョリのことが好き。でもわたしは自閉症。彼女と結婚して子供を作ることが可能なのか分からない。わたしが変わってノーマルな人になればそれは可能なのだろうか。新しい治療プログラムは危険だけど、どうしよう…

③ 近未来、自閉症の治療には目覚ましい進歩があった。しかしそれに間に合わずに大人になってしまった30代の世代に対して有効かも知れない治療法が開発されつつある。しかしまだ猿の実験段階。それを受けるように会社に強制された者たちを通して見る、人間の奥底は…

以上、三つ書いてみた。どれが良いだろうか。

21世紀の「アルジャーノンに花束を」とされている本書。アルジャーノンをすっかり忘れてしまったので似ているかよく分からない。自閉症以外はあまり似てないような気がするけれど。

ルウとそれ以外の「ノーマルな人たち」の視線で描かれる(文字のフォントが少しだけ変わるので分かる) この静かな筆致、ルウの内面に触れながら、何度も本をギュッと握りしめてしまった。面白かったとか、感動したとか言ってもまだ足りない。

小説なんて読まない。忙しいし、人の作った物語なんて読んでもしょうがない。と言う人がいる。しかし例えば、この本を読むと、ルウの世界を見て、いかに私自身に余計な物と事が贅肉のようにくっついてしまったか分かる。生まれがらのままの姿=ルウ=自閉症の人の姿であるかどうかは分からない。現実の自閉症の人の苦労はこうであるということを察し、と同時にそれとは別に、自分に余計なモノがなくなった状態のある種の表現としてルウの姿を見る。それに意味が見いだせればいいし、そうでなければそれでいいし、もっと違う読み方がたくさんある小説だ。

小説家三浦しをんとワイン評論家岡元麻理恵の共著「黄金の丘で君と転げまわりたいのだ 」の中で岡元さんがワインに関するロアルト・ダールの短編ミステリ「味」(「あなたに似た人」に収録)を出版関係の人なら面白がれるだろうとした理由が、出版に関わってるの人=人間の探求者だからとしている。


黄金の丘で君と転げまわりたいのだあなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))


小説好きも同様。小説が好きな人は人間が好き。人間に興味がある人は歴史と小説が好き。なんだと思う。友だちが全くいないけれど小説が大好きという超内向的な人はどうなのかはよく分からないけれど。

まさかこのレビューを書き始めたときは小説擁護みたいなことを書くとは思わなかった。予定は常に壊れる運命にある。

最後に、SF嫌い(もしくは食わず嫌いな)な人に。優れたSF作品は、実は人間とは何なのか、ミステリや恋愛小説、時代小説と同じくらい、場合によってはそれ以上、考えるヒントを与えてくれるのだよ。(SF読みでないワタシが言うのはおこがましいけど。すまぬ)

では、また。



くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4)
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