「リング」百田尚樹 PHP研究所 2010年
白井義男が世界チャンピオンになってから、ファイティング原田が引退するまでを描く日本ボクシングのノン・フィクション。映画にもなった「ボックス!」の著者はどう描く。
いやいやいや。熱いね。あちち。熱すぎーね。(←エディ・タウンゼント風に)1960年代のボクシングなんてリアルタイムに見てないし、今残る映像を観ても今一つピンと来ない。私は具志堅用高にシビれた口なので時代がだいぶ違う。
しかし百田さんの描き出す世界は、まるでその時代に生きていたかのようにヴィヴィッドに映像が汗が蘇る。
よーく分かったのは、今とは世界チャンピオンの重みがケタ違いであること。60年代がいかに熱い時代だったかということ。ファイティング原田がどれだけ凄いチャンピオンだったかということ。
百田さんのお母さんが、スポーツで最も印象に残ったのは白井義男が世界チャンピオンになった時と東京オリンピックの女子バレーボールが東洋の魔女と呼ばれた時だそうだ。どれほどすごかったかということなんだろう。観るモノが多チャンネル化していなかったこの時代の方がなんだか幸せだったのかも知れない、と思ったりもする。(みんなが別のモノを観てるのと、みんなが同じモノを観てるのとどっちがいいのか?後者はファシズム的だったりもするけど、前者は友人たち、世代の違う者たちで共有できる事が少なくなりすぎている気がする。でもよく分からないのだよ、まだ)
あしたのジョーの中に後のたこ八郎になる斉藤清作さんがモチーフになったシーンがあったとは知らなかった。それ以前に、バラエティ番組で「たこでぇす」と言うたこ八郎は知ってたし、元プロボクサーだとは知っていたけれど、闘っていた姿は観た記憶がない。
著者は現代のボクシング団体の乱立(WBA,WBC,WBO,IBF等)と階級の多層化(昔は世界チャンピオンは世界に8人しかいなかったのに、今は40人ぐらいになっている)に対して批判的である。多層化については、世界タイトルマッチとそうでない試合の金銭的な潤いが全く違うのだから致し方ない部分もあろうが、しかし結果として本来チャンピオンにはなれない程度のボクサーが金その他にモノを言わせてチャンピオンになってしまっているような側面は否定できない。これほど細分化されているスポーツはちょっと他にないと思うし、それが観る方にとって面白くなっているのならいいが、残念ながらそうでもないように思う。勿論現状のままの方がテレビの地上波で世界タイトルマッチを多く観ることができることは確かなんだけど。
というような話はこの辺で終わりにしませう。では、また。
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