「母なる夜」カート・ヴォネガット・ジュニア 早川書房 1987年
Mother Night, Kurt Vonnegut, Jr. 1961, 1966
ツイッターでも思わずつぶやいてしまったんだが、ずっとヴォガネットだと思っていた。そんな私が初めて読んだヴォネガット。
アメリカ人のハワード・W・キャンベル・ジュニアはドイツで暮らしていたため、ナチスの反ユダヤキャンペーンに携わることになった。戦後は静かに暮らしていたにも関わらずイスラエルに逮捕される。その前後のエピソードを細かく一章一章を短く、少しずつ少しずつ小出しにしながら、キャンベルの人格そして時代を描く。
いやいやいや。爽やかではないし暗いとも言えないし何とも言えない読後感に襲われた。マイナスではなくプラスに感じたのではあるが。
私自身が持つ考えとヴォネガットがずっと描こうとしている事が重なる部分が多いので、共感を強く持った。
ナチスドイツの時代にドイツ人として暮らしていたら、そりゃナチス支持してしまうでしょ?ユダヤ人迫害がそんなに悪い事だとは思わなかったでしょ?というようなあまり大きな声では言えないような事だ。
訳者の飛田茂雄さんがあとがきで、「もともと冷酷な本質を持った悪人が善人を装っているというのとは違って、純粋な善意と計算ずくの悪意がひとつの肉体のなかに共存しているように見えます。キャンベル自身はこれを精神分裂と言い、その責任は時代環境にあるかのようにほのめかすかと思えば、責任はもっぱら彼自身にあると言うこともあります(302頁より引用)」
と書いておられる。まさにその通りで、第二次大戦という歴史&人間観察&精神分析がうまく絡んだ秀作だと思った。
純度100パーセントの善なる人間はいない。同時に悪しかない人間もいないのだ。
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↑こちらの池澤夏樹訳の方が読みやすいかも知れない。早川文庫の飛田訳でも読みにくくはなかったけど、ミネラル・ウオーターが鉱泉水と訳されているので時代がかってはいると思う。
なるほど。ふむふむ。
読む順番て結構大切かも知れませんね。ヴォネガット読んでいきましょうかね。
知り合いに薦めた本が意外と面白くなかったと言われたり、薦められた本が
意外と面白くなかったりするのは、その人と私の今まで読んできた順序が
違うからかも知れません。
あるいは、あなたにもっと早く出会いたかったというような事も、
人に会う「順序」が違えばまた状況も変わってたのでしょうね。