頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『喜嶋先生の静かな世界』森博嗣

2012-06-09 | books

「喜嶋先生の静かな世界」森博嗣 講談社 2010年

国立大学の理系の学部に入学した僕、橋場。普通の人とは少し違う考え方を持ち生きる。大学で出会った万年助手の喜嶋先生は、さらに凡人とは違う考え方、違う生き方をしている。しかし研究者としては超一流。そんな僕は段々と喜嶋先生に感化されながら研究者としての道を歩んでゆく…

おっと、これは意外な収穫。同じ作者の「相田家のグッドバイ」を読んだ後にアマゾンのカスタマーレビューをのぞいてみたら、本作とテイストが近いとのことだった。相田家がひどく気に入ったので本作を読んでみた次第。

主人公の研究分野についての詳しい描写はほとんどないので、一人の理系の研究者の生き方、考え方の成長が読む中心になる。これが実に良い。

波のようなエピソードがある訳でもないのに、(1)理系の研究者になるとはどういうことなのかちょっと垣間見る (2)一人の男の生き方を読む (3)あちこちに散りばめられた言葉を読む ということができる。

69頁の、大人でも自分の夢中になれるものがあって、疲れて社会の歯車になっている人ばかりではないと分かったとか、215頁初対面の人にシリアスな打ち明け話をするような人は不安定だ。(確かにそうだ。会ったこともないのに過去を延々と語るような人はだいたいにおいて、めんどくさい人だ)

どの頁か忘れてしまったけれど、歴史のような学問が重きを置くのは具体性、科学は抽象性と書いてあった。(確かに。表面的に学ぶのは、王様というものは概してXXをするということではなく、もっとずっと具体的に、「イングランド」王の、「ヘンリー8世」は、外交的には「スペインの影響力の排除」、個人的には「若い女性との再婚する」ために、「英国国教会」を作り…以下省略。こんなのどうでもいいか。科学では、いついかなる時でもE=mc2が成り立つことを証明するわけか。歴史を学んだことが、結果として、君主とはこういうことをしてしまう生きものであるとか、人間は追いつめられるとこういうことをしてしまうというような一般化は可能なはずであるけれど、出発点は科学と歴史は違うわけだね。なるほどなるほど)

というような、余計なことを考えさせてくれるのは良い本なのだよ。

では、また。


喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)
コメント    この記事についてブログを書く
« これさえあれば | トップ | 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾 »

コメントを投稿