頭の中は魑魅魍魎

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『猿の見る夢』桐野夏生

2016-09-03 | books
薄井正明、59歳。銀行からアパレルに出向していてもう13年。現在は財務担当の取締役。妻あり、息子二人。創業者は会長、会長の女婿が社長をしている。薄井が社長のセクハラ事件の収拾をしなくてはならなくなった…

桐野夏生作品らしくなく、やや白石一文っぽい部分もあるのだけれど、とにかく面白くて、読みながら風呂に2時間もつかってしまった。

ある程度(30歳ぐらい?)以上の歳の男性で、薄井の行動に身がつまされない人はいないだろう。長年付き合っている愛人がいて、その愛人に対する気持ちとか、会長の秘書に対する恋慕とか、あちこちに気がある。そして金にはセコイ。薄井はとってもちっちゃい奴なのだ。

ちっちゃくて、バカなおじさんの行動を読んで笑うのか、怒るのか、身につまされるのか。(女性が読んでどう思うかちょっとよく分からない。自分を奥さんの立場に置いて、怒るのだろうか…) いずれにしても、読んだ人の心を大きく揺さぶると思う。

しかし、女性が書いたとは思えないぐらい、おじさんの心を深くリアルに描く。

酔い潰れた美優樹が急に淫らになって抱き付いてきた。ワインの赤い澱が付いた唇にキスをする。美優樹は目を閉じたまま、自分からパジャマのボタンを外した。小さな乳房と干しブドウのような乳首が現れる。薄井は、美優樹の胸に触った。
よく馴染んだ体だが、朝川の豊満な白い胸の谷間を思い出すと、美優樹には悪いが、物足りなさを感じて仕方がない。浮き出た鎖骨も、肋が透けて見えそうな胴も、細い腰も、以前は好きだったのに、今夜は貧相に見えて仕方がない。
まるで朝川の魔法にかかったかのようだった。細川の体は、むっちりと肉が付いているから、さぞかし触り心地がいいことだろう。一度触ってみたい。

というような妄想がいつも炸裂している。

薄井に対して、<身につまされる>=60% <笑ってしまう>=30% <ムカつく>=10% ぐらいに感じたけれど、その割合は読む人によって全然違うのだろう。

薄井はある程度、男という生き物を代表してくれているので、「男とはこうなのである」小説であると言っても言い過ぎではないかも知れない。

猿の見る夢

今日の一曲

上では触れなかったけれど、夢が本作のテーマの一つ。Eurythmicsの"Sweet Dreams"のカバーをMarilyn Mansonで。



では、また。
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