頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『ブラバン』津原泰水

2016-09-01 | books
70年代、広島の高校でブラスバンドに入る主人公。先輩後輩の関係、恋愛、練習。青春の日々。そして何十年も経ってから再結成する。簡単に言うとそういう話。

登場人物がものすごく多い。誰が誰だかよくわからないまま読んだことも少なくない。普通これだけ人物が錯綜してしまうと物語が楽しめなくなるはず。しかし本作がタダモノではないのは、十分に楽しめるということなのだ。

しかも、楽器のことはよく分からないし、音符も読めない私が、かなり専門的な音楽の話を読んで面白いと思うのだから、タイシタモノなのだろう。

まあ基本的に「頑張る」「青春もの」には弱いので、点は甘くはなってしまうけれど。

十代の日々を思い返しながら生きるのは自虐だ。スナップ写真のような、テレビCMのような麗しい青春時代を送りえた人が、人類史上に一人でもいるだろうか。まともな知性に恵まれながら、十代の夢はすべて叶ったと高笑いできる大人はいるだろうか。十代の自分を振り返る大人の四川は手厳しく、今の自分を見つめる十代の頃の視線は残酷だ。だから人はその日のみを生きようとする。

過去は振り返らない方が幸せになれるということだろうか。荘子いわく「至人の心を用うることは鏡のごとし。将らず迎えず、応じて蔵せず。故に能く物に勝えて損なわず」(最高の人の心のはたらきは、鏡のようでる。去るものは去らせ、来るものは来させ、あいてしだいに応待して心にとめることがない。だからこそ事物に対応してわが身を傷つけないでおれるのだ。金谷治訳)

ブラバン (新潮文庫)

今日の一曲

本作でたくさんの曲が紹介される。巻末にリストがある。その中で、ジャコ・パストリアスが地上に残した最も美しい一曲とされている、Weather Reportで"Three Views of a Secret"



ジャコ・パストリアスとかウェザー・リポートとか高中正義とか、フュージョンと呼ばれる軽いジャズ。高校の頃よく聴いていたけれど、最近全然聴いてなかった。では、また。
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