頭の中は魑魅魍魎

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『それを愛とは呼ばず』桜木紫乃

2015-04-12 | books
54歳、伊澤亮介。東京で勤めていたホテルが火災に遭い職をなくした。故郷の新潟に戻って来て、飲食店や美容院、ジムなどを経営する「いざわコーポレイション」に勤め始めた。すると勤務先の女社長に見初められ、10歳年上の女性と結婚することになった。そして副社長に。

白川紗希、29歳。北海道出身。美少女コンテスト準優勝のあと、芸能界入り。リポーターやグラビアもやった。しかしもう仕事が来ない。夜は銀座のクラブでホステスとしてアルバイトしている。

大切な人をなくした、亮介と紗希が出会う。そこで生まれるのは天国か地獄か…亮介、紗希それぞれの目線で交互に描く連作短編集。

うまい。やはり桜木紫乃はいい。期待を決して裏切らない。

ネタバレを避けて詳しくは書かないけれど、亮介は会社を追い出されて、北海道のリゾートマンションを売る仕事に就く。このマンションはバブル期に建てられて20年も経ったのに7階以外は売れていないという代物。しかも7階に人が住んでいる気配はなく住んでいるのは…(ああ、怖かった) そんな売れそうもない物を売らされる立場。これが何ともせつなく、読ませる。

さらには売れない芸能人、紗希。事務所はくびになってしまうので、ホステスだけで食べていかなくてはいけなくなってしまった。29歳、キレイなのに、売れない。この人生どん詰まり感。桜木の手にかかると、笑えないのに悲しいのとも違う。人生のリアリティに溢れているからだろうか、笑えるとか悲しいとかを超越しているのかも知れない。

単純な恋愛ものだろう。どうせこの年の離れた二人が結ばれて、泥沼になって、みたいな話なんだろう?どうせ。などと思って読むと、下から上へ大きく足をすくわれる。恋愛小説なのかどうかも分からない。

そして、ラスト。これが気に入らないという人もいるかも知れない。真逆のラストを求める人もいるだろう。しかし、これがいいのだ。これでいいのだ。桜木紫乃にハッピーエンドを求めてはならぬ。人生にハッピーエンドなどないのだ。みな、苦しめ。生きるとはただ苦しむものだとブッダも言っていた。よね?

それを愛とは呼ばず

今日の一曲

悲しい恋の歌。Radioheadで"Creep"



では、また。
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