頭の中は魑魅魍魎

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『翼』白石一文白石一文

2018-10-20 | books
田宮里江子は、浜松光学で営業部にいる。ずっと上司だった、城山は突然会社を辞めてしまった。本当に尊敬できる人だったのに。その後上司となった、坂巻は好きになれない人物だった。体調を崩したのでクリニックに行くと、懐かしい顔が。学生時代の親友の聖子の夫、長谷川岳志が担当医としてそこにいた。10年ぶりに会う。長谷川は、聖子と婚約しているのに、自分にプロポーズするという愚行をする輩。そしてまた今回も二人で会おうと誘って来た・・・

白石一文らしい、癖のある作品。

会社員の苦労や悲哀がテーマかと思わせ、また単純な不倫がテーマかと思われせるが、ラストでドカンと暗転する。

ネタバレしないように、一応、なぜがそこまで自分に執着してくるのかということと、課長がなぜそこまで城山のことを嫌うのかがテーマなんだろうと言っておこう。いや、またさらに、「自分の運命の人と一緒にいない人生」に意味なんかあるのかないのかということも大切なテーマだった。

「どうしてあなたは、そんなふうに私に執着するの?私たちはろくに付き合ったこともないし、この前たまたま再会するまで十年間も会ってなかったし、つまり、あなたは私のことなんて何一つ知らないでしょう。何にも知らない相手のことをまるで運命みたいに考えるのは、単なる妄想のたぐいだと思わない?あなたには私を好きになるだけの材料なんてないし、好きになる資格自体がない。そうは思わないの?」

と里江子は言う。彼女に同意する。

しかし、

要するに僕という人間は、誰のことも信じられないし、誰のことも心から赦すことができない人間なんだ

という岳志にも、自分と同じだと思ったりする。岳志と里江子の対照的な考え方の対比がとても興味深かった。


翼 (鉄筆文庫 し 1-1)
白石一文
鉄筆




今日の一曲

椎名林檎と宮本浩次で、「獣ゆく細道」



では、また。

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