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『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』森本あんり

2015-09-11 | books
最近の若者は本を読まなくなったとか、くだらないバラエティ番組ばかりが増えているという文脈で使われる「反知性主義」という言葉もあるけれど、本書が扱うのは違う。

キリスト教のアメリカ的な発展とはどういうものだったのか、欧州のプロテスタントとアメリカのピューリタンとの違い、アメリカ人の自己啓発好きはなぜなのか、なぜアメリカでは、大学卒等のインテリに対するカウンターな存在がリスペクトされるのか。これらの問いに「反知性主義」というキーワードで答えようという本。

うーむ。面白くて、しかも自分がちょうど知りたかったこと満載。堅い本なのにエンターテイメントのごとくに読んでしまった。(ちょうど知りたかったと言うと、ついこの間までしょっちゅう考えていたみたいだけれどももちろん違う。読んで知ると、まるでついこの間まで考え続けていたみたいに感じるのだ、ある種のスゴイ本は)(恋というのも好きになってしまってから、「こういう人を求めていたんだよ」と思ったりするけれど、こんな人を求めていたなんて思ったことはなかったりするわけで)

中途半端な宗教改革に過ぎないと英国国教会を批判し、よりピュアなものを求めアメリカへ向かったピューリタン。カトリックでは、聖職者は典礼だけできれば良かったから、必ずしも高い知性は必要なかった。しかしプロテスタントでは、聖書を読めなければならないから、ヘブライ語やギリシア語の知識も必要だったし、それを分かりやすい言葉で伝える技術も必要だった。イギリスのいい大学を出た牧師がアメリカで聖職者として働いていたが、彼らが亡くなってしまったらその後はどうすればよいのだろう。

ということで設立されたのがハーバード大学。なんと最初は牧師の養成学校だったのだそうだ。プリンストンもイェールも同様だそうである。

元々は、牧師だけではなく信者全員が聖書を読み神のメッセージを受け取れるという理想がプロテスタンティズムにはあったはず。しかしそこに極端なまでの平等思想が加わると、神の前では万人が平等なのだから、学のない者でも、神の前では尊い人格であるということになる。この辺がヨーロッパのプロテスタントとアメリカのピューリタン以降の様々なプロテスタントとの違いのようだ。それを本書では「リバイバリズム」と呼んでいる。

それ以外にも、トマス・ジェファソンやベンジャミン・フランクリンや大統領アンドリュー・ジャクソンなどの有名どころから、聞いたことのない大物伝道師たちの逸話を通して「反知性主義」がアメリカを読み解く鍵だとする。

展開の仕方、読み安さ、適度な知的刺激、痒いところに手が届く気配り、まさに、完璧な本。マストリードという手垢にまみれた言葉はあまり使いたくないけれど、みんな、ユーマストリードだよ。(@みんなエスパーだよ)

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

今日の一曲

著者があんり。と言えばやはり、杏里で「スノーフレイクの街角」



著者は男性で、ICUの教授なのでイメージはだいぶ違うけれど。

では、また。
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