頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『考える力が身につく ディープな倫理』富増章成

2015-02-03 | books
大学入試の問題を取り上げながら、哲学を分かりやすく、かつ深く掘り進んでゆく。ためになるのに、面白い。例えば、

問題 「なる」と「する」について、古今東西の思想家を一人取り上げながら、自由に論ぜよ(2013年 筑波大学 文系前期)

「なる」と「する」の違い… うっ、難しい。

問題 J・S・ミルの次の文章を読み、そこに述べられている考えに即した意見として最も適当なものを下の1~4のうちから一つ選べ。

文明社会の成員に対し、彼の意思に反して、正当に権力を行使し得る唯一の目的は、他人に対する危害の防止である。…そうする方が彼のためによいだろうとか、彼をもっと幸せにするだろうとか、他の人々の意見によれば、そうすることが賢明である正しくさえあるからといって、彼になんらかの行動や抑制を強制することは、正当ではあり得ない。(J・S・ミル『自由論』

1.自動車のシートベルトの着用は、事故が起きたときに本人を守ることになるから、矯正してよい。
2.健康な若者がお年寄りに席を譲ることは、誰もが認める正しい行為だから、強制してよい。
3.飛行機の離着陸時に携帯電話を使うことは、電子機器に影響を与える可能性があるから、禁止すべきだ。
4.クローン人間をつくることは、国際的にも国内的にも世論の強い反対があるから、禁止すべきだ。(センター試験 2010年度本試験)

1から4までどれも単体では正しいように見えるけれど、ミルの自由に対する考えからするとどれが正しいか。

他にも無為自然とは何か、最大多数の最大幸福とは何か、老人に席を譲ることはなぜ「善い」ことなのかとか。気になりませんか?

今の自分にしていることが正しいのかについてニーチェはこう言う。

「ある日、あるいはある夜、デーモンがあなたのもっともきびしい孤独のなかまで忍び寄ってきて、こう言ったらどうだろう。『おまえは、おまえが現に生き、これまで生きてきたこの人生を、もう1回さらには無限回にわたり、繰り返し生きなければなるまい』」(ツァラトゥストラはかく語りき)

今まで自分が生きてきた人生をもう一度生きろと言われて、「よろこんで!」と言えればニーチェの言うニヒリズムを受け入れ、かつ積極的に生きているということになる。しかし「そんなの嫌だ」と言えば、それは自分の人生を肯定していない、ということなる。うーむ。深い。

ニヒリズムとは、「究極の目的なんてない」ということ。「神が死んだ」という有名な言葉がある。それは言い換えると、「我々には生きる目的は分からないけれど、神様が作って下さった目的はちゃんとあるから」というキリスト教的考えは間違っている、そんなものは存在しないということ。また、自分のしていることが「正しい」と考えるのはそう考える方が気分がいいから、そこで「力への意思」が働いてしまうものなのだ。状況を受け入れ、強い自分を保持し、運命を愛する「超人」になるべきなのだけれど、その際に上記の「自分の人生を永遠に繰り返せるか」との問いにYESと答えられるかどうかがカギになる。「人生に意味はない」で終わるのでなく、「人生に意味はない。しかし存在の不思議さ、崇高さはある。だからこの瞬間はすばらしい」 こんな風に考えるべきなのだ… というような話。面白いしなぜか癒される。

他には構造主義とは何か、エピクロスベンサムの快楽に対する考えはどう違うのか、目的論義務論によって自分の善き行いをどう分析するかとか、「倍返し」は正義なのか、キケロは老年をどう考えたか、興味深いネタがたくさんある。

長くなってきたので、最後の引用を。

問題 理想的な心の有様について、中国においても様々に考察されてきた。そのうち次の文章に記される思想を説いた人物として正しいものを、次の1~4のうちから一つ選べ。

死と生、存続と滅亡、困窮と栄達、貧と富、賢と愚、謗りと誉れ、飢えと渇き、寒さと暑さ、これらはすべて事象の変化であり、運命の流転である。昼となく夜となく人間の眼前に現れ出てくるのであるが、人間の知はそれがどうして生じるのかをはかり知ることができない。それゆえ、このような変化によって心の平和を乱す必要はなく、これらを心の奥深くに侵入させてはいけない。…それよりも、日夜、遭遇する出来事を春のような暖かな心で包むべきである。
1.老子
2.墨子
3.荘子
4.朱子

答えは老子。老子や荘子の思想について読むと、なんだか癒される。毎日意識することは難しいのだけれど、苦しくなったときにたまに読み返したりすると、すぅっと楽になることがある。

知るとか分かるということで癒される。私はヘンタイなのだろうか。

考える力が身につく ディープな倫理

今日の一曲

そのものズバリ。Black Sabbathで"God Is Dead?"



では、また。
コメント    この記事についてブログを書く
« 『名画で読み解くロマノフ家... | トップ | 『鬼はもとより』青山文平 »

コメントを投稿