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『大人のための社会科』井出英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作

2018-08-19 | books
大学の先生が、大人のために、個人主義とかGDPとか多数決とか公正や信頼などについて解説してくれる本。

多数決は何かを決めるときに必ずしもベストな手段ではないとか、なるほど。

利己主義は昔からあるけれど、個人主義は比較的新しいもので、国によって発生過程が異なり、「フランス革命に反対する勢力が、社会を解体する良くないものだと否定する文脈から登場し、19世紀半ば以降の英国では、個人の自由な経済活動が『小さな政府』とセットで強調されるようになり、哲学と文学が盛んだったドイツでは多様な個性を重んじる個人主義が重んじられ、アメリカでは他人の力を借りず一人でやりとげる『セルフ・メイド・マン』の概念と結びついた」という話。

統計的に言えば、一定の社会的属性に入る人たちが例えば失業という共通のピンチに瀕していても、一人ひとりにとっては自分だけの問題のように感じてしまう。このことを、「集団・階層」から「個別の状況や個人史」への「社会学的革命」と呼び、本来は社会的な背景をもっており個人のせいにはできないような事柄までも個人の問題のようになってしまった。なるほどねー。社会問題の個人化ってわけだ。


という具合に興味深い話が多かったのだけれど、特に、第二章の「勤労」が面白かった。

岸信介政権の「国民皆保険」と「国民皆年金」は、日米安保が批判されていたので、アメとムチとして導入された→池田勇人内閣では、社会保障はぜいたくだとされ、働く者たちへ減税で報いた→経済成長とともに増える税収→減税、1947年以降国債発行しなくてもよくなった=「小さな政府」となった→貯蓄が増える、財政投融資も増える→さらに成長=「勤労国家」→バブル崩壊→消費低迷、物価下落、貸し渋り→企業は非正規雇用増やす→政府債務悪化、1995年財政危機宣言→政治家は個別の有権者の利益を提供するようになり(中小企業対策、農家の所得補償、地方向け公共投資など)→特定の誰かのための利益の寄せ集めのような財政→ジニ係数が増え、相対的貧困率も高くなった。福祉国家の実態は、経済成長に依存しており、景気が停滞するとすぐに不安定になっていった。なるほどー。


大人のための社会科 -- 未来を語るために
井出英策
有斐閣



今日の一曲

Jeff Beckで,”She's A Woman”



では、また。
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