頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『愛なき世界』三浦しをん

2018-10-16 | books
文京区本郷のT大学の向かい辺りにある洋食屋「円福亭」で働く藤丸陽太。大将の作る美味い食事に魅せられ修行を始め、今では調理の一部を任せられるようになって来た。常連客たちの中で何をしている人たちだかよく分からない人たちは、実はT大学で植物の研究をしている人たちだった。教授の松田はいつも黒いスーツを着ていて、殺し屋のよう。宅配を始めたら注文が入り、研究室まで持って行くようになった。見たことのない世界。その中でも特に本村さんと仲良くなった。博士課程にいる女性で、シロイヌナズナの研究をしている。藤丸はこの人のことが好きになってしまう。この恋の行方は・・・植物の世界はどんなに奥深いのか・・・

うーむ。この手のお仕事小説を書かせれば三浦しをん先生はジャパンでナンバーワンだと大声で言っても叱られないだろう。

シロイヌナズナに夢中で、でも研究以外ではドジで、真っ直ぐな本村。本村に対する気持ちも真っ直ぐで、料理にかける情熱も真っ直ぐな藤丸。こういう人たちの話を読むと「真っ直ぐすぎてムカつく」とか言う人がいるけれど、そう思う人の心が曲がりすぎているのではと思わなくもない。こういう人たちがリアルに、いそうな人たちなのかということよりも、「こういう人がいて欲しい」と思わせてくれるのが大事な気がする。

植物にはあまり興味がなかった(プチトマトを育てたり、室内に観葉植物があった時もあったけれど、今は何も育ててない)のに、なんだろーこの植物に対して感じる暖かい感覚は。もしかすると優しくなったのかも知れない。(本村と話せばきっとそうなるだろう)

そして植物研究の奥深さ。かなり詳しく研究の手順が描写されていて、ピペットマンとかボルテックスとかエッペンチューブとかチビタンとか聞いたことのない器具が活躍する。易しく説明してくれているので、DNAを調べるにはどうすれば良いのかという(特に知りたくもなかった)ことも分かってしまう。こういう本を沢山、中学生とか高校生の頃に読むと、自分のやりたい仕事を考えるヒントになるのかも知れない。

全編しをん先生による、植物に対して、そして登場人物たちに対する深い愛情を感じる作品だった。

追伸 : 映像化するとすれば、本村は、欅坂46の長濱ねる一択で。お勉強できそう、ピュアな感じ、ドジな感じ、彼女しかいないだろう。


愛なき世界 (単行本)
三浦しをん
中央公論新社



今日の一曲

Larkin Poeで、"Bleach Blonde Bottle Blues"



では、また。
コメント    この記事についてブログを書く
« 2018秋ドラマちょいとレビュ... | トップ | 2018秋ドラマちょいとレビュ... »

コメントを投稿