「虐殺器官」伊藤計劃 早川書房 2007年
2009年に34歳で亡くなった伊藤計劃の2007年のデビュー作。対談やインタビューをまとめた「伊藤計劃記録」が今年出版されたのでそれを書店で目にした人もおられるかも知れない。
本書は、近未来、アメリカ情報軍の特殊検索群i分遣隊大尉として暗殺を行うクラヴィス・シェパードが「ぼく」という一人称で語る。先進資本主義諸国と較べ虐殺が進行する国にはジョン・ポールという男の姿が。どのようにして虐殺が行われるのか。ジョン・ポールを追いかけながら目にする核戦争後の世界は・・・
いやいやいや。こりゃ凄い。面白い。表紙がマンガのようなタッチの本はなんだか苦手で基本的にはあまり読まない。しかし「虐殺器官」は近未来・軍事・情報を絡めながら、国家観や哲学的な問いなどこちらにこれでもかと考えるネタをくれる。
ことばを実体としてイメージする「ぼく」とは違って、「国家」や「民族」という抽象を現実としてイメージできるひとがいる(=こういうひとが政治家や官僚である)という話。あるいはルツィア・シュクロウブが言う、言葉が認識を作るのではなく、現実認識の方が言葉に先行するという話。ジョン・ポールの言う、腎臓などの臓器と同様「心」も遺伝コードで作られている(=我々は遺伝コードで生成された肉の塊にすぎない)という話。
虐殺の文法が存在するという本書の本筋と絡んで、これらのネタがぐいぐいと飛び込んで来る。映画化希望。
最後に計画を計劃とするこのセンスが私はとても好きだ。
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