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『墨東奇譚』永井荷風

2012-08-29 | books
「墨東奇譚」永井荷風 1937年

(墨の字には正確にはサンズイがつく)

作家である私、大江と、私の小説の主人公種田をシンクロさせつつ進む随筆風小説。ちょっと読んだことのない不思議な小説。

話そのものは他愛もない。いい歳したおっさんが若い女とくっつくというようなもの。しかし、そこへステキな文章と、当時の風俗を語る描写が加わると、独自の味をもつなかなかの作品となる。

銀座の街が大きく変わってしまったと嘆く辺りで、

四竹を鳴して説経を唱っていた娘が、三味線をひいて流行歌を歌う姉さんになったのは、孑孑(ぼうふり)が蚊になり、オボコがイナになり、イナがボラになったのと同じで、これは自然の進化である。マルクスを論じていた人が朱子学を奉じるようになったんのは、進化ではなくして別の物に変ったのである。前の者は空となり、後の者は忽然として出現したのである(新潮文庫版88頁より引用)


マルクスから朱子学か。この時代、そんな雰囲気だったのね。進化とそうでないものの区別も、なるほど。これ以外にも、ステキな表現があちこちにあるけれど、基本的には男女の仲についてが多い。

69歳にして浅草六区の女優と昵懇(死語?)になった荷風らしい。

では、また。


墨東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)ぼく東綺譚 (新潮文庫)
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