「明暗」夏目漱石 1916年(初出朝日新聞1916年)
主人公は津田、三十路。妻はお延長、やや派手好み。津田は働いているにも関わらず金がない。京都の父親にいまだ無心していたらついに断られた。妹のお秀は見た目が評価される女、夫あり子供あり。津田の友人、暗い小林、お延の親戚と少しずつ増える登場人物。うじうじと考える津田。このうじうじとした物語の行方は…
うーむ。本当にうじうじしている。凝ったプロットがあるわけじゃなく、あるのはひたすら、人物の内面描写。これが暗くジメジメとしている。
しかしこれが嫌かと言えばそうでもない。百年も前の小説なのに現代に通じることがあまりにも多いし、ドキッとする言葉も多い。
津田は女に穢いものを見せるのが嫌な男だった。ことに自分の穢ない所を見せるのは厭であった。もっと押し詰めていうと、自分で自分の穢ない所を見るのでさえ、普通の人以上に苦痛を感じる男だった(新潮文庫版115頁より引用)
「それでこうなんだ。男と女は始終引張り合わないと完全な人間になれないんだ。つまり自分に不足な所が何処かにあって、一人じゃそれをどうしても充たす訳には行かないんだ(219頁)
男が女を得て成仏する通りに、女も男を得て成仏する。然しそれは結婚前の善男善女に限られた真理である。一度夫婦関係が成立するや否や、真理は急に寝返りを打って、今までとは正反対の事実を目の前に突き付ける。即ち男は女から離れなければ成仏できなくなる。女も男から離れなければ成仏し悪くなる。今までの牽引力が忽ち反撥性に変化する(221頁)
この小説のあらすじ紹介の中に、結婚前に津田と恋愛関係にあった女性のことが書いてあるが、その人のことが出て来るのがなんと405頁になってから。このじらしがなかなか巧みであるということと、水村美苗が「続明暗」を書いているのでそれを読むのが楽しみだということを付け加えさせて頂く。
では、また。
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