陽だまりの旅路イスキア

あ、slice of life…日向香を感じる日々の暮らし…

口縄坂の秋 夕陽丘女学校跡

2019年09月20日 | slow life

口縄坂の勾配を少し上がると碑(いしぶみ)がある。
碑には“大阪府立夕陽丘高等女學校跡”と刻まれていた。

ここでまた織田作の「木の都」の一節を
紹介してみよう。

“ただ口繩坂の中腹に夕陽丘女学校があることに
年少多感の胸をひそかに燃やしてゐたのである。
夕暮わけもなく坂の上に佇んでゐた私の顔が
坂を上つて来る制服のひとをみて
夕陽を浴びたやうにぱつと赧くなつたことも
今はなつかしい想ひ出である。”

織田作はこの女学校のある生徒に密かに
恋心を抱いていたのであろう。

“私はちやうど籠球部へ籍を入れて四日目だつたが
指導選手のあとにのこのこ随いて行つて
夕陽丘の校門をくぐつたのである。ところが
指導を受ける生徒の中に偶然水原といふ
私は知つてゐるが向うは知らぬ美しい少女がゐたので
私はうろたへた。” 

この短編を想い出しながらこの坂に
しばし佇んでいると、坂の向こうの
棕櫚の空き地に、ふっとその水原という
少女の影をつい追ってしまう。

しかしこういう感傷に浸っていると
俳句は全然できないのである。なるほど
俳句は写生からしか生まれないのだな
とつくづく思ってしまった。

それにしても織田作も見たであろう
この坂から眺める難波津の夕陽は
とても美しかったのだろうな。

大夕焼あの日あの刻あの瞳
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