ようやく終りが見えてきた夏コミ戦利品レビュー。とか言ってるうちに来月はもう紅楼夢ですよ。
・きりさめのみはかし Regalia of Lotus-easter(折葉坂三番地)
本作は厳密には夏コミ新刊ではなく今年6月に遠野の地で開催された「東方紅楼夢/夢の世紀 魅知の旅」にて頒布された掌編小説。今回の夏コミで頂きましたのでここで感想を。
雨の降るある日、香霖堂を訪れた慧音。いつもどおりガラクタばかりの香霖堂の店内に、慧音は驚くべきアイテムを発見します。そのアイテムとは、由緒正しき皇位継承の証である三種の神器のひとつ、草薙の剣だった!
「ちょ、おま、これッ、お前これ霖之助ええッ!」が好きすぎる。そういや香霖堂にはガチモンの草薙の剣が置いてあるんだっけか。
……という話から始まる草薙の剣=天叢雲剣にまつわるあれこれ。作中でも言及されている通り、草薙の剣の形代(レプリカ)は安徳天皇とともに壇ノ浦の水底へ消え、本体は熱田神宮に安置されているといいます。それが幻想郷にあるということは、言われてみればすなわち外の世界で不要となった=幻想入りしたということ。じゃあ外の世界での草薙の剣は失われてしまったのか?
……というところ疑問を、本作では「草薙の剣とされるアイテムは学説の数だけ無數に存在する可能性がある」、さらにはみんな大好きヒヒイロカネにも触れて「たとえ始まりは嘘でも、広く認知されればそれは実在してしまうのだ」というところまで話を広げているのが実に幻想郷的解釈で好き。いわゆる偽史やトンデモ学説、陰謀論なんかでも広く認知されることでその存在強度が強化され、「事実」「現実」に限りなく近づいてしまうってことですよね。逆に考えると、新しい発見や理論が見つかることで、それまで「常識」「正史」とされていたことがいきなり覆ってしまうこともあるという。
そうしたところから霖之助の「道具の名前と用途が判る程度の能力」に触れて、「道具に新たな名前と用途を後付で与えることができる」という解釈に持っていくという発想が筋が通ってて好き。作中の理論や理屈に一貫性があると読んでるときの喉越しがスムーズなんですよね。
そして霖之助が幻想郷に流れ着いた神器宝剣に与えた名前と用途というのが実にこーまりで俺によし。この「本人を出さずにカップリングを表現する」というのが実に上手いです。
・Re:live(給食頭蛮)
音楽制作にVtuberにとマルチな活躍をすっげーなあとモニターの向こうで眺めているぱらどっとさんの新作は東方永夜抄アレンジメドレー。
これまでの制作物と同じように一連のメドレーの中にさまざまなアレンジを詰め込んでいるので、曲数は1曲なのに実質東方永夜抄全曲アレンジアルバムに等しい聴き応えとなっています。ほんとに「永夜抄 〜 Eastern Night. -」から「Eternal Dream 〜 幽玄の槭樹 -」まで揃ってます。ちなみに19分15秒の長尺! いや逆にこの尺で永夜抄のBGM全曲をまとめているのがすごいとも言える。
これまでも給食頭蛮さんの東方アレンジのレビューは何回か書かせてもらっていますが、個々のアレンジはもとよりその取りまとめ方が非常に上手いと思います。料理に例えるなら、限られた容量の弁当箱にすべての料理を無理なくまとめて収めている感じとでも言いましょうか。
アレンジ豊富さもすごい。これまた料理に例えますが、ただ単に量が多いだけのメニューだとボリュームはあってもどうしても味に飽きが来てしまうもの。しかるに本作はただ単にアレンジが豊富なだけでなく、一連のメドレーの中で曲調を何回も変え、いわば味変してくれるんですよね。そしてそのタイミングも素晴らしい。聞いてるほうが飽きる前にしっかりタイミングを図って意外性のあるアレンジに切り替えてるのがわかります。特に「ヴォヤージュ1969」のあたりから曲調が大きく変わるのがいかにも「後半戦突入!」と言った感じで好き。
そしてこれは毎回書いてる気がしますが、何種類ものアレンジをひとつながりのメドレーとしてつなげておきながら破綻していません。それどころかタイトル画面からエンディングまで「19分で振り返る東方永夜抄」になってるのがすごい。
今日はここまで。