2月は中旬からまた上映スケジュールがえらいことになってきたのでいるべきものはさっさと見ておかねばということで見てきました。
というわけで今日見てきたのはこれ!
本作も例によって例のごとく塚口がきっかけで知った作品。予告から妖怪アンテナがハイクオリティ胸糞後味最悪映画の気配を感じ取ったので見に行きました。
結論から言うとわたくし人形使いの妖怪アンテナの精度はゴルゴ並みであることが判明しました。わたくしあんまり自分に自身がない人間ではありますが、この妖怪アンテナの精度だけは自慢できる。
若者たちが集う平和な学園を訪れた栄養学の先生、ノヴァク。彼女は生徒を募り、独自の食事法である「意識的な食事」をグループ内で教育していきます。校長や集まったグループ内で信頼を集めていくノヴァク先生ですが、彼女の説く食事法はだんだん過激で極端なものになっていき、最終的には一切食事を摂らない「不食」にまで生徒を誘導していきます。そして生徒たちは摂食障害が徐々に顕著になっていき……。
本作はいわゆるホラー映画ではありませんが、そこにある恐怖の種類は完全にホラー映画の文脈でした。
本作におけるホラー映画文脈は「感染」です。こないだ見てきた「邪悪なるもの」がそうであったように、感染源からじわじわと、ゆっくりその恐怖は広がっていき、気付いたときには深く根を張っている。そしてその感染経路は、昨日今日作られたものではなくずっと昔から形成されたものである、という……。
最後にはお約束の「感染者を倒したと思ってたら実はまだ残ってた」展開もあるよ!
本作はとにかくホラー映画ではないのに非常に怖い映画でした。じゃあなにが本作の恐怖を形成しているかと言うとまずはBGMです。
本作のBGMにはいわゆるジャンプスケア的な要素はないんですが、とにかく「聞くものを落ち着かない気分にさせることに特化したBGM」と言った感じ。「ヘレディタリー」や「ミッドサマー」の「常に不穏な雰囲気が漂うBGM」とはまた違った、なんとも心をざわつかせる音です。これのおかげで上映時間中ずーっと終始じわじわと恐怖が這い寄ってくるような気分になってました。
また、ノヴァク先生が生徒のグループを徐々に支配していくプロセスが実に丁寧なカルト宗教のそれでぞわぞわ来ました。
グループはそんなに大きな派閥ではなく少人数なんですが、あとから思えばこれ、無作為ではなく摂食障害を持っている、片親、持病がある、奨学金をもらいたいなどという「弱み」を持っている生徒をあらかじめピックアップして声かけてたんでしょうね……。
そしてお約束の「真実」。
食べる量を減らすことで自制心を養い、経済格差をも解消できるという「真実」をちらつかせることで「自分たちだけが真実に気付いている」という特別感と優越感を与える。
お次はこれまたお約束の「特定の行動の制限・禁止」。
これは特定の行動、本作では「ものを食べること」を制限、禁止しています。これは禁止事項を破ることによる罪悪感でグループメンバーの思考と行動を縛るとともに、相互監視の状況を作り上げてグループ内の結束を強める効果もあるでしょう。また、この「特定の行動の制限・禁止」は、その行動(本作では「食べること」)をしている人々を共通の敵として認識させる効果もあります。共通の敵がいるときにこそ人間は団結するもの。
そして上手いのがこれらのプロセスを段階を踏んで進めていること。いきなり食べることを禁じるのではなく、徐々に食べる量を減らさせていき、それとともに少食、不食のメリットを説いていくという。さらに上手いのが、劇中でさすがにこれは怪しいぞとグループを離れるメンバーも出るんですが、離脱していくメンバーを引き止めないこと。これによって逆に残ったメンバーに「離脱したメンバーと違って残ったあなた達は優秀」という意識を植え付けるわけです。
この辺のプロセスをたっぷり尺を取って描いているので、本作はズブズブ沼にハマって最終的に手遅れになる過程が楽しめます。
さらに救いがないのが、一連の事件の発端であるノヴァク先生も不食推奨団体「クラブゼロ」の会員でしかなく、彼女自身も同じように呪いを感染させられたひとりに過ぎないという点。別に彼女は教祖的なポジションではなく、彼女が洗脳しようとしている生徒たちと同じように欠落を抱えてそこを付け入られて洗脳されてるというのが後半パートでわかりますし、なんなら彼女にも自分のやっていることが正しいと信じきれてない=洗脳され切ってないって側面が見え隠れするのも辛い。
最終的にノヴァク先生はグループに残ったメンバーとともに姿を消し、「よりよい世界のよりよい場所」に行ってしまいます。最後までグループに残っていたメンバーのうち一人は、たまたまスキー旅行に行っていたおかげで難を逃れた……と思いきや、感染はすでに……というやはりホラーな終わり方でした。
この終わり方、こういう「呪いの感染は終わらずに連綿と続くというエンド」であるとともに、「呪いの感染が継続するには感染者がひとり残っていれば十分エンド」でかなりぞっとしました。2025年怖い映画TOP3に早くもノミネートされる良作でした。