風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

J・ウェブスター 『あしながおじさん』

2006-02-28 21:59:45 | 

 Christmas Rose

 
 わたしは一秒一秒を楽しむつもりです。そして、楽しんでいる間は、そのことを意識していようと思います。たいていの人たちは、生きているのではなく、ただ競争をしているだけ。遥か彼方の地平線にある決勝点にたどりつこうと一生懸命です。そして、そこに行くことに熱中するあまり、息がきれ、あえいでしまって、自分たちがいま通過している、美しく静かな田園風景も目に入らないのです。そして、そのあげくに知ることは、もう自分たちは年老いていて、疲れ果てていて、決勝点に着いても着かなくても、結局、何の違いもない、ということ。わたしは、たとえ大作家になれなくても、道草をして、小さなしあわせをたくさん積み上げることに決めました。
...J・ウェブスター『あしながおじさん』より  

  I'm going to enjoy second, and I'm going to know I'm enjoying it. Most people don't live; They just race. They are trying to reach some goal far away on the horizon, and in the heat of the going they get so breathless and panting that they lose all sight of the beautiful, tranquil country they passing through; and then the first thing they know, they are old and worn out, and it doesn't make any difference whether they’re reached the goal or not. I've decided to sit down by the way and pile up a lot of little happiness, even if I never become a Great Author. ...from "DADDY LONG LEGS"

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旧柳下邸 @根岸

2006-02-27 00:58:12 | 旅・散歩


週末はお天気がよかったので、根岸にある旧柳下邸へぷらっと行ってきました。
横浜市指定有形文化財に指定されている大正~昭和初期の和洋折衷建築です。
さほど広い住居ではないのですが、凝った造りの浴室や洋室など大正ロマンの香り漂う可愛らしいインテリアを満喫でき、大満足♪
この時期は江戸後期~昭和初期の雛人形をいくつも展示してあり、それがこの建物とよく合っていて素敵でした。
邸宅前の梅の花は5分咲きくらい。
もう春なんですねぇ。

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谷川俊太郎と中島みゆき

2006-02-25 01:02:17 | 

また朝が来てぼくは生きていた
夜の間の夢をすっかり忘れてぼくは見た
柿の木の裸の枝が風にゆれ
首輪のない犬が陽だまりに寝そべってるのを

百年前ぼくはここにいなかった
百年後ぼくはここにいないだろう
あたり前の所のようでいて
地上はきっと思いがけない場所なんだ

(中略)

今朝一滴の水のすきとおった冷たさが
ぼくに人間とは何かを教える
魚たちと鳥たちとそして
ぼくを殺すかもしれぬけものとすら
その水をわかちあいたい

~谷川俊太郎「朝」より


中島みゆきさんがオーディションを受けた時、谷川さんの詩「私が歌う理由」に曲をつけるという課題が出て、その詩をみゆきさんはとても真剣に受け止めてデビューを躊躇した、と何かのアルバムの解説で読んだ記憶があります。
このお二人は言葉や世界観がよく似ていると思う。例えば上記の詩の百年前~のくだりは『永久欠番』を思い出させますし、魚・鳥・けものという単語も。

谷川さんやみゆきさんと同じ時代に生きることができて、よかった。

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中島みゆき 「夜会 24時着00時発 @青山劇場」 3

2006-02-22 20:19:41 | その他観劇、コンサートetc

昨夜、夜会の2回目鑑賞行ってきました~。
良かったぁ。。。
2回目なので、余裕をもって観ることができました。
みゆきさんはもちろんですが、香坂千晶さんやコビヤマ洋一さんも相変わらずお上手!とくにコビヤマさんは、とっても良い味出されてます。
前回よりも前の席だったので、舞台が近いのも嬉しかった♪みゆきさんはつくりは言うまでもなくお美しいのですが、それだけじゃなくて、すごく良い表情をされるんですよねぇ。真剣な顔も、笑顔も、すごく綺麗で魅力的で、目が離せませんでした。

今回はじめて分かったこと。
サケたちが手にしているのって、ミラージュホテルのルームキーだったんですね。前回は席が遠くて、そこまで観えなかったのです。
そして。「980tim」が「mirage」を鏡の表裏で読んだ名前だと、実は今回初めて気がつきました、私…。前回はみゆきさんを目で追うのに夢中で、舞台のバックに980timがひっくり返ってmirageと映し出されてるのに気づかなかったんですょ。だから私的に一番の謎だった980tim。意味がわかってすっきりしましたー。
あと、第4幕の「命のリレー」、二番の歌詞は歌っていないんですね。あまりにインパクトが強かったので、フルコーラスのような記憶になっていました。

この舞台は前半(第1幕)は割とあっという間に過ぎてしまうのですが、後半がほんと圧巻。
第2幕「我が祖国は風の彼方」「帰れない者たちへ」の熱唱はこの舞台のクライマックス。この2曲とその後の「無限・軌道」あたりでは、周囲からすすり泣きが聴こえていたほど。その後の第3幕で「サーモン・ダンス」を躍るみゆきさんは、もういつまでも観ていたいくらい格好いい。
そしてなんといっても、第4幕。みゆきさんがジョバンニの恰好をして少年のような声で歌う「命のリレー」。何度観てもやっぱり素晴らしい!!迫力あるのに、可愛い!!
DVD、出てくれないかなぁ。絶対に買うのに。

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茨木のり子さん

2006-02-20 23:51:41 | 

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄 

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ

~茨木のり子『自分の感受性くらい』より



昨日、詩人の茨木のリ子さんが79歳で亡くなりました。
上の詩は茨木さんの詩の中でも、私が最も好きなものの一つです。

心が弱っているときは、自分の思い通りにならないあれこれに苛立ち、そのすべての原因が他人にあるように思われて、さらに惨めな気持ちになる。
自分は本当はこうしたかったわけじゃないのに、あの時親が(友人が、世間が)こうした方がいいと言ったからしたのに、結局うまくいかなくて、こんなことなら自分の思ったとおりにすればよかった・・・・・・うんぬん。
順調な時にはそんなこと思いもしないくせに、ほんと勝手ですよね。

でも、本当はちゃんとわかっているの。「そもそもが ひよわな志にすぎなかった」のだと。周りが何て言おうと拒否することはできたはずで、結局最後に決めたのは自分自身、その責任も全て自分にあるのだと。
だからこそ胸をはって「自分の人生」といえるのだから。
この詩はとても厳しいけれど、「あなたの不幸を、誰かのせいにしてしまいなさい」と言われるよりも、ずっと私を幸せにしてくれる。
だって、もし自分の抱える不幸を他人のせいにばかりして、その人達を恨み続けるとしたら、それは他人の人生を生きていることになってしまう。そんな不幸なことってない。

世の中とは本当にいい加減なもの。でも一方でその世の中から色々な刺激を受けて自分が成長していけるのも、また事実。
自分の感性を信じて、素直に、しなやかに、このいい加減な世の中を生きてゆけたらと、いつもそう思います。

人生の時々で心の支えとなってくれた人達が去ってゆくのを見送るとき、最初は、もう彼らから励ましてはもらえないんだな、って無性に寂しくなる。でも、少しすると、彼らが「あとは自分の力でがんばりなさい」って微笑っているように感じるのです。
そして心から思う。
沢山の元気を本当にどうもありがとうございました。どうか、ゆっくりと休んでくださいね。

茨木のり子さんインタビュー「二十歳のころ」:
http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp/~ctakasi/hatachi/ibaragi.html

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『愛という名のもとに』 2

2006-02-16 00:59:12 | テレビ

「お父さんがね、酔うといつも言ってたことがあるの。人生は、小さな箱を開けるようなものだって」

「箱?」

「うん。それを開けるとね、その中にはまた箱があって、開けても開けても中には箱があるだけなんだって。 ひょっとしたら、結局その中にはなんにも入ってないのかもしれない」

「......」

「でも、そうしてあきらめて開けることをやめてしまった者は......もう、二度とその中を知ることはない」
 
~野島伸司『
愛という名のもとに』(角川文庫)より


健吾と貴子がチョロの墓参りへ行くと、そこには彼を自殺へ追い込んだ一因でもあった証券会社の上司が花を持って訪れていた。組織の中で人を思いやる心や優しさを忘れてしまっていただけで、殆どの人間がそうであるように、彼も決して真から悪い人間ではないのだ。
これから社会へ出ようとする人たちに、そして社会のなかで生きる人たちに、オススメする一冊です。 貴子の生き方、 健吾の生き方、時男の生き方、それぞれの生き方の中から、きっと読んだ人それぞれが何かをみつけられるはず。 人はどんな風にでも生きられる。今の世界がすべてではない。これでもうお終いだなんていうことはないんです。
箱を開けることをやめさえしなければ。

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『愛という名のもとに』 1

2006-02-13 21:23:53 | テレビ

「...俺...」
「なに?」
「卒業して...社会に出るのが...怖かった...」
「...」
「けど、いまは、社会から出るのが...怖い...」
「...」
「きっと、いつも、俺は...なにかに怯えて生きてきたんだ」

~野島伸司『愛という名のもとに』(角川文庫)より

大学生活も終盤の春休み、私は友人とアメリカを旅していました。
ある夜、寝る前の話題にあがったのが上の台詞です。

有名なテレビドラマなのでご存知の方も多いと思います。
ご存知ない方のために簡単に説明しますと、この台詞の彼(チョロ)は大学の仲間達の中でも落ち零れで、大学卒業後は証券会社に就職しますが、そこで上司から執拗な苛めを受けます。けれど彼は会社を辞めず、かつての仲間達へも心の奥の苦痛をさらけ出せないまま、遂には自らの命を捨ててしまいます。

当時私達は社会に出るのが嫌で嫌でたまりませんでした。大学の4年間は夢のように自由な時間を親からも社会からも公然と許されていましたから、これから定年まで卒業のない社会人生活を送らねばならないのかと思うと、それはもう苦痛でした。まあ社会人となってしまった今では、なぜあそこまで苦痛に感じたのかが不思議なくらいですが、その頃は超超超真剣だったのです。そんな私達は「社会に出るのが怖い」気持ちは身を持って感じることができましたが、「社会から出るのが怖い」というのはどういう感じなんだろうね、、、とぼんやりとした想像をめぐらすことしかできませんでした。

あれから8年。
私はすぐに深刻に悩むくせに、妙なところで「人生なるようになるさ」というところがあり、正直まだ「社会から出るのが怖い」という気持ちをリアルに感じたことはありません。まぁ土壇場まで追い詰められないと焦らないのが私なので、これから実感することになるのかもしれません。
そんな私ですが、嫌なことがあって「この会社、辞めちゃいたいなぁー」と思うとき、なぜか必ずこの言葉が頭に浮かぶんです。そして、なんとなく思いとどまってしまうのです。だからどうというわけでもないのですが、私の心の片隅にいつもある印象深い言葉の一つです。

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中島みゆき『転生』

2006-02-10 00:12:00 | その他音楽

『転生』は、夜会 Vol.13&14の曲目の中から11曲が選ばれ、新たに編集・レコーディングされた、みゆきさんの33枚目のオリジナルアルバムです。
初めてこの舞台を観る方は、事前にこのアルバムを聴いてから行かれるといいのではないでしょうか。みゆきさん自身もインタビューで言っていますが、「舞台で歌われる曲それぞれの全体像が、歌詞として目に入ると便利」ですし、「目で舞台を見ながら、聴いたことのない歌詞を追いかけていくっていう作業は、とてもじゃないけどついていけないスピードだったりしますから」。

とはいえ、このアルバムは夜会のサントラといってしまうのはもったいない完成度だと思います。みゆきさんの歌唱力は言うまでもなく、収録曲も綺麗め揃い。
でも何より感心したのはその構成。最後の『無限・軌道』は、最初の『遺失物預り所』へと繋がり、アルバム全体が一つの人生を描いているのです。
全体を通して聴くと輪廻転生のような体験をすることができ、色々なことを考えさせてくれる、優しくて深いアルバムです。
人生を終え、鉄道に乗ってたどり着いた駅でみゆきさんが「お待ち申し上げておりました」って笑顔で迎えてくれる光景を想像して、そんなだったら死ぬのも怖くないな、とちょっと笑ってしまいました。

インタビュー記事:
読売新聞
MUSIC LOUNGE
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中島みゆき 「夜会 24時着00時発 @青山劇場」 2

2006-02-08 21:10:30 | その他観劇、コンサートetc

「生まれ変わるという優しさとか、生命力が欲しかったんです」
~アルバム『転生』のインタビューより

さて、この夜会。簡単に言うと、みゆきさん演じるある女性の人生と、サケの一生と、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を組み合わせたようなお話です(これだけでは何のこっちゃ、という感じですが・・)。テーマは輪廻転生。
以下、感じたことをつらつらと書きますが、長いです。うざいと思ったら適当に流しちゃってくださいませ。ストーリーを消化するために自分用に書くようなものなので。また、皆さんと異なる見方だったとしても「こんな風に観た人もいるんだな」と気楽に読んでいただければ嬉しいです。

生きて泳げ 涙は後ろへ流せ
向かい潮の彼方の国で 生まれ直せ
『サーモン・ダンス』

サケは川で生まれ、海で成長し、最期はまた故郷の川へと帰り、産卵し、その一生を終える魚です。そしてその卵から新しい命が生まれ、彼らもまた同じ旅を繰り返してゆく。つまりサケは輪廻転生の象徴ですね。
またサケ達が故郷の川へ帰れずその魂が彷徨っているのは(後に読んだ粗筋によると)人間の身勝手な観光開発により川が塞がれたためですから、環境破壊の犠牲の象徴でもあります。

生まれ故郷を捨て都会へ出た主人公アカリにも、この世界に帰るべき故郷はありません(ここで歌われる『帰れない者たちへ』がすごく良かった)。
では彼女のような者達はどこへ向かえばいいのか……?

この夜会から私が想像した「世界」のイメージは次のようなものです。
まず私達の日々の暮らしの中にも、小さな輪廻転生がいくつもある。上記インタビューでみゆきさんはこう言っています。
「(今回の舞台では)ここまで育ててもらったシアターコクーンを卒業していくけれど『夜会』をやめるわけではないっていうことで、<24時着>ここで到着しますけど、<0時発>でここからもう一度旅立って行くという、必ずしもフィクションだけではないものをいっぱい込めたいという思いはありました。舞台の最初に歌った「サヨナラ・コンニチハ」という曲も、シアターコクーンとはサヨナラだとしても、また新しく始まる何かにコンニチハと言いたいです、という意味も込めていたんです。」

そして人の一生は一本のレールのようなもの。このレールは並行して無数に走っているが、人はそれらのうち一本だけを意識的にまたは無意識に選択し、その上を走る列車に乗り、進んでゆく。
そしてこの物語の冒頭のアカリはというと、デザイナーの夢は挫折し針仕事の過労で倒れるような人生を送っている。決して「当たり」の人生とはいえない。

当たりは あといくつある
残した甘菓子の中 あちらにすればと悔やんで悔やんで
取り替えたら 捨てた菓子のほうが当たりだったかもしれない
『フォーチュン・クッキー』


彼女だってそんな人生を望んでいたわけではない。よかれと思って選んだレールが必ずしも当たりとは限らない。そんなとき人は「もっと別の人生があったのでは」と思う。
時計の針を戻すことができないように、列車も同じ線路で後ろへと戻ることはない。けれど前へ前へと進んでいくことはできる。人は転轍機を動かし、線路を切り換えることはできるのだ。

動かせない 動かせない 動かせない転轍機 
この線路で掛かってるから
掛かった鎖を解く方法 思い出して
梃子を0に戻してから 次へ掛け直すんじゃないか 
それはもしや過ぎ去った時計の針と似ている
生きて泳げ 涙は後ろへ流せ
向かい潮の彼方の国で 生まれ直せ
『サーモン・ダンス』


もっとも皆が皆、その一生を終えるまでに線路を切り換え願いを叶えられるわけではない。
けれどみゆきさんの世界では、私達のレール(=一生)もまた、輪廻転生の螺旋を描いている。つまり、今生では川を失くしたサケ達にも、アカリのような者にも、ちゃんと帰るべき故郷がある。

我が祖国は砂の彼方 我が祖国は空の彼方
誰に尋ねん 空の道標を
血の色は幾百 旗印の色は幾百 限りもなく
遥か辿る道は消えても 遥か名乗る窓は消えても
遥か夢の中 誰も消せるはずのない
空と風と波が指し示す天空の国
いつの日にか帰り着かん 遥かに
『我が祖国は風の彼方』


そしてそこからまた、アタリもハズレもある、新たな人生が始まるのだ。
たとえ志半ばで倒れても、それは次の人生へ受け継ぐことができる。だからみゆきさんは「生きて泳げ 涙は後ろへ流せ」と歌う。そして「願いを引き継いでゆけ」と歌うのだと思います。サケが故郷の川まで辿り着けるかどうか分からなくても、体中ぼろぼろにして、川を上ってゆくように。
今がどんなに苦しくても大丈夫。安心して精一杯今の世界で生きておいで。あなたが流す血や涙は決して無駄にはならないから。そう歌っているように私には聴こえました。

そしてこの複数の線路は、一本の大きな「真空の川」となる。そこはすべてが無限で、始めも終わりも同じ。

行く先表示のまばゆい灯りは 列車の窓から 誰にも見えない
本当のことは 無限大にある すべて失くしても すべては始まる
無限・軌道は真空の川 ねじれながら流れる
無限・軌道は真空の川 終わりと始めを繋ぐ
『無限・軌道』


この川がどこへ向かっているのか、それは誰にも分からない。けれどその先にきっとある「ほんとうの幸福」を目指して、いつかその場所に辿り着けると信じて、今は前へ進もう。そうみゆきさんは言っているのではないでしょうか。
こういう見方をすると、最後の世界でアカリが幸せな人生を送っているのは、嬉しい気がします。それはまた、サケのもう一つの暗示である環境問題の視点から見ても、明るい未来を予感させてくれます。

「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでもいっしょに行こう。僕はもう、あのさそりのように、ほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない」

この「人の幸せのためなら自分を犠牲にしよう」というジョバンニの決意は、アカリが夫の無実を証明するために自分は妻ではなく他人であると証言する場面に重なりますね。

「さあもうきっと僕は僕のために、僕のお母さんのために、カムパネルラのために、みんなのために、ほんとうのほんとうの幸福をさがすぞ」 
そのいちばん幸福なそのひとのために!
「さあ、切符をしっかり持っておいで。お前はもう夢の鉄道の中でなしにほんとうの世界の火やはげしい波の中を大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない。天の川のなかでたった一つの、ほんとうのその切符を決しておまえはなくしてはいけない」
~宮沢賢治『銀河鉄道の夜』 第三次稿


輪廻転生はまた、みゆきさんが一貫して歌い続けてきたテーマです。

そんな時代もあったねと いつか話せる日が来るわ
あんな時代もあったねと きっと笑って話せるわ
だから今日はくよくよしないで 今日の風に吹かれましょう
まわるまわるよ 時代はまわる 喜び悲しみくり返し
今日は別れた恋人たちも 生まれ変わってめぐりあうよ
めぐるめぐるよ 時代はめぐる 別れと出会いをくり返し
今日は倒れた旅人たちも 生まれ変わって歩き出すよ
『時代』
  ※夜会の曲目外

子供の頃の私は、この歌を聞いて「今の人生で幸せになれないのならあまり嬉しくないな」と感じたものです。この歌では、今の人生では恋人達は別れ、旅人は倒れてしまいますから。当時はもっと単純な「がんばれ!」という応援歌みたいな歌の方が元気づけられました。けれど大人になってどん底の精神状態を初めて経験したとき私を救ってくれたのは、みゆきさんの歌の方だったのです。


さて話を戻して、最終幕。
ジョバンニ姿のみゆきさんが一人舞台に立ち、アカペラから「命のリレー」を歌い始めます。これはこの舞台のテーマそのもので、この瞬間のために今までの舞台があったのではないかと思わせるほどの迫力でした。それまで必死でストーリーを追って頭の中でこねくりまわしていた理屈が全部ぶっとんで、同時にこの舞台でみゆきさんの伝えたかったことがすっと心に入ってくるような不思議な時間でもありました。このみゆきさんをもう一度見たくて高いお金だして2回目のチケットを買ったようなもんです、私。

ごらん夜空を星の線路が
ガラスの笛を吹いて 通過信号を出す
虫も獣も人も魚も
透明なゴール目指す 次の宇宙へと繋ぐ
この一生だけでは 辿り着けないとしても
命のバトン掴んで 願いを引き継いでゆけ
『命のリレー』


そして、銀河鉄道へ向かうジョバンニが笑顔で私達に手を振って、2時間半の夢のような時間は終わりました。
パッと照明がつくと別世界から戻ってきたような気分になるのはどの舞台でも同じですが、今回は特にその感覚が強烈でした。そして劇場から出ると、いつのまに降ったのか地面に雪がうっすら積もっていました。どうりで寒いはずです。
ストーリー的に私の中で消化しきれていない部分もまだまだ多いですが、こんなに迫力ある、優しい舞台を作り上げてくれたみゆきさんに心から感謝!

さて。以上長々と述べておいてなんですが、このように小難しく観なくても、このお話は充分に面白いです。それに終盤は「我が祖国は風の彼方」「帰れない者たちへ」「命のリレー」「サーモン・ダンス」「無限・軌道」と、聞かせる歌のオンパレードで、とにかく圧巻。大阪公演はこれからですし、東京公演も当日券があります。まだ観ていない方でご興味のある方はぜひ観てみてください。みゆきさんの歌からだけでも、充分に元気をもらえますよ^^。
願わくば、も~うすこしチケットのお値段が安いと嬉しいのですが(S席20000円、A席18000円、パンフ3500円)。。。
高いよ…、みゆきさん。。。

DVD『夜会vol.13「24時着0時発」』のあらすじ

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中島みゆき 「夜会 24時着00時発 @青山劇場」 1

2006-02-06 00:20:19 | その他観劇、コンサートetc


青山劇場にて上演中の、中島みゆきさんの「夜会vol.14 24時着00時発」へ行ってきました。
彼女の舞台はコンサートも含めて実は一度も行ったことがなかったのですが、先日新聞で今回の夜会は素晴らしいという記事を読みどうしても行きたくなってしまい、急遽チケットを買ってしまいました。発売開始後30分で完売と書いてあったので無理かなと思ったのですが、ぴあを見たらまだ僅かに残っていたので。

さて、感想ですが。。
良かったです!!とっっっても。
買うのを一瞬躊躇わせた高いチケット代(A席18000円)も、あれならまったく惜しくない。それどころか観終わった後に(というより観ている最中から)もう一度観たいと強く感じ、帰宅してからぴあを覗いたら、すでに全公演分が完売…(T_T)。そうよね…今回こんな直前で取れただけでもラッキーだったのよね…と思い、泣く泣くvol.13のDVDで我慢するか・・とアマゾンを見たら、今回一番感動した4幕(アンコール)の「命のリレー」が収録されていないというではないですか(しかも前回はあの可愛いジョバンニ姿ではなかったらしい…)。
あぁやっぱりもう一度観に行きたい。それに私はみゆきさんも好きだけど宮沢賢治も好きなのよー…、次に夜会をやったとしても銀河鉄道ではやらないだろうし…と思うとどうしても観たい。
……待てよ。そうだ、Yahoo!オークションがあるじゃないの!
さっそくチェックしてみたら、おぉ、ありますあります夜会チケット。結局、今回よりずっと良い席を定価で落とせました。大満足♪というわけで千秋楽直前に2回目行ってまいりま~す。

ところでこの夜会。夜会というだけあって、開演が20時で終演が22時半なのです。
それがこの舞台の不思議な雰囲気にとてもよく合っているのだけれど、遠い家の人は終電大丈夫なのかなぁ(私は終電に乗るためには23時15分に渋谷の店を出る、というのが学生時代からの目安)。でもあまり急いで帰っている風の人はいないし。泊りがけなのかしら。と渋谷駅までの帰り道、そんなことを思いました。

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