風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ラファエル前派展 @六本木ヒルズ(2月27日)

2014-03-31 00:18:26 | 美術展、文学展etc




それは懐古か、反逆か?

このコピーかっこいい

在英中はいつでも見ることができていた作品達にまたこうして日本で再会できるとは、なんて嬉しいことでしょう。
昨年のルネサンス祭りといい、フランシスベーコン展といい、ターナー展といい、素晴らしい企画展が目白押しで本当に幸せです。

ミレイは2008年に日本でも企画展がありましたが、今回はロセッティがいっぱいですよ。
この2008年のミレイ展は私はロンドンで観たのですが、それは人がいっぱいで(常設展はとっても空いているんですけども)・・・。
今回もやはりロンドン、ワシントン、モスクワからの巡回ですが、東京会場は割と空いていて、好きな絵を心ゆくまで見ることができました。
昨年のターナー展のときにも思いましたが、不思議と現地で見るよりも作品が立派に見えます。テートは建物も内装も立地も大変素晴らしく大好きな美術館ではありますが、有名どころの絵が所狭しと展示されているため、東京で見る方が一つ一つの絵が大切に飾られている印象を受けるのかもしれません。
それでもやっぱり画家の本拠地であるロンドンで観るのがベストでしょうけれど。

以下、今回のお気に入りの絵です♪



アーサー・ヒューズ 『4月の恋』 1855-56年
入口近くに展示されていた作品。
女性の青とも紫ともいえない服の色がそれはそれは美しく、見惚れました。
ジョン・ラスキンはこの絵の繊細な心理描写と色彩を絶賛し、当時まだ学生だったウィリアム・モリスは、ロイヤル・アカデミー展の講評を読んで1856年にこの絵を購入しています。


アーサー・ヒューズ 『ロムニーを退けるオーロラ・リー』 1860年
この画家は青系の色がお得意なのか、この作品も地面のブルーがとても綺麗でした。



ジョン・エヴァレット・ミレイ 『オフィーリア』 1851-52年
今回の企画展の目玉のひとつ。
私が最初にこの絵を見たのは、17年前のワシントンのナショナルギャラリーでした。二度目は2008年のロンドンのテートギャラリー。今回は三度目の再会になります。
在英中には何度も見ていた絵ですが、にもかかわらず今回も同じ感想をもちました。「記憶の中より色が鮮やか」。
この絵の色って印刷で再現しにくいのでしょうか。花の鮮やかさを正確に印刷したものをほとんど見ません。
今回の図録は比較的実物に近いように思いますが、それでもまだ暗い。。
昨年の「漱石の美術世界展」を特集していた『芸術新潮』のものが、一番うまく再現されていたように思います。

この絵のモデルは、ロセッティの奥さんのエリザベス・シダル。
ミレイは彼女をバスタブに入れ実際にお湯をはって(!)この絵を描きましたが、描くことに夢中で水温が冷えていることに気付かず、風邪を引かせてしまった逸話は有名です。完璧主義者ミレイのモデルを務めるのも大変ですね

漱石の『草枕』に出てくるオフィーリアもこの絵。
カーライル博物館に行ったときも感じたことだけれど、漱石が100年前にロンドンで見た絵を今私は東京で見ていて。100年後にはもう私はいないけれど、きっとまた誰かがこの絵の前に立って漱石に思いを馳せるのだろうなぁと思うと不思議な気がします。



ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 『ベアタ・ベアトリクス』 1864-70年頃
こちらも大好きな絵。
モデルは上の『オフィーリア』と同じ、エリザベス・シダルです。
シダルは浮気なロセッティのために心身を憔悴させ、結婚2年目に多量のアヘン剤を服用し32歳の若さで亡くなりました。この絵はロセッティが亡くなったシダルを思い、彼女を『神曲』のベアトリーチェになぞらえ描いたものです。
なんて書くとロセッティがクズのようでミもフタもありませんが(実際そうなんですが)、芸術家の恋愛は一般人の理解の及ばない独特な世界でもありますしね・・・。
ちなみにこの絵、在英中の帰国直前に見に行ったら「今イタリアに貸し出されてるの。来年1月には戻るわよ」と言われ「その頃私はロンドンにいないので・・・」と泣く泣く退散。その後の旅行時にようやく出会えた思い出の?絵です。


ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 『ダンテが見たラケルとレアの幻影』 1855年
「神曲」の煉獄篇より。
左上にダンテ(アリギエーリ)の姿が見えます。


ジョン・エヴァレット・ミレイ 『両親の家のキリスト』 1849-50年
ディケンズから「聖家族を労働者階級のように描いている」と批判された作品。
習作も並んで展示されていました。


ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 『薔薇物語』 1864年

漱石も「カーライル博物館」で書いているロセッティの家は、現在も変わらずロンドンのチェルシーにあります(ご興味のある方はこのブログのメインページもご覧くださいませ^^)。
チェルシーはお散歩するとほんっとーーーーーに楽しいですよ。
オスカーワイルドの家とか、A・A・ミルンの家とか、それはそれは沢山の作家や画家の家が今でもそのまま現存しているのですよ。こういう文化的意識の高さは、日本は英国に遠く遠く遠く及びませぬ。
そして今こちらのサイトで知ったのですが、1848年にミレイやロセッティがラファエル前派兄弟団(the Pre-Raphaelite Brotherhood)を結成した家も、ロンドンに残っているのですね。7 Gower Streetって漱石の最初の下宿のすぐそばじゃないですか。漱石はそのことを知っていたのだろうか。
ミレイが亡くなったのが1896年、漱石がイギリスに留学したのは1900年。彼らは本当に同時代人なのですねぇ。
ああ、19世紀イギリス、私のたまらない憧れです(>_<)


ラファエル前派展は六本木ヒルズ森アーツセンターギャラリーにて、4月6日まで。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

歌舞伎座新開場こけら落 鳳凰祭三月大歌舞伎 昼の部(3月26日)

2014-03-28 00:28:14 | 歌舞伎

今月はまず夜の部を鑑賞し、その後にバレエが3本連続で入っていたため、昼の部は千穐楽での鑑賞となりました。
『対面』は今回はパスで。昨年2回観ているので、しばらくはいいかなと。。。
ちなみに4階で幕見を待っていたら橋之助さん@五郎の声が聴こえてきたのですが、やっぱり高音で(これってそういうものなの…?)、昨年6月の海老蔵のトラウマを思い出しました。。。

※幕見


【身替座禅】

最高

菊五郎さんの右京と、吉右衛門さんの玉の井。
これ以上の配役は思い浮かばない完璧なニン!(と言われても吉右衛門さんは嬉しくないかもしれないが^^;)
芸の色気は経験による自由と余裕から生まれるものなのだなぁ、ということを再確認しました。

右京@菊五郎さん。
大好きな遊女の花子(はなご)さんが上京してきて、もうルンルン♪
会いに行きたい!でも奥方“山の神”は怖~~~~い。。。
こういう役の菊五郎さん、だぁ~~~~~い好き(*^_^*)
めっちゃニン!
がんばって抜け出して、廓で存分に遊んだ後、酔っぱらってご機嫌でご帰宅な花道の右京さん。耳の下に紅をのせて、耳もほんのりピンク色。いいねぇ。The 歌舞伎役者!
四階席からもわかるこの華と色気こそ、なによりも歌舞伎役者に大事なものに思えます。
はたして数十年後に菊ちゃんがこの色気を出せるだろうかと思わず考えてしまい、先日の弁天小僧を観てしまった今では出せる気が全くしないのが悲しい・・・・

玉の井@吉右衛門さん。
んもうカワユイカワユイカワユイ(>_<)
「一夜でござりまするぞ。二夜はなりませぬぞ」
旦那さんのこと、本当に愛しちゃってるんだよねぇ。
ふすまを被ってコクンって頷いたり、ぶんぶん首振ったり、足をばたばた鳴らしたり、かわゆすぎる。。。
面白いだけじゃなく、なんかほろりとする切なさも感じちゃって、二人の間に夫婦の妙を見たよ。
また玉の井さんが引き連れている腰元二人(壱太郎&右近)が若くて美人なものだから、三人並んでいる光景が可笑しくて!

菊五郎さんも吉右衛門さんもウケを狙わない自然な演技で、なのに面白い。品もある。
やっぱりあなたたちは世界遺産

それと、又五郎さんの太郎冠者がこれまた最高で。
右京に脅され、玉の井にも脅され。
でも絶対に玉の井の方をより恐れてるよね、笑。
そしてこの作品が舞踊劇であることを思い出させてくれたのも、又五郎さんでした^^;
舞踊のような振りはほんのちょっとだけなのに、キッパリと美しい動き。お見事。

また、松羽目物のシンプルな舞台上に広がる黒の小袖と橙色のふすまが、はっとするほど鮮やかで。
これは三&四階席だからこそ堪能できた光景ですかね(たまにはこういうこともないと)。
ただのドタバタ劇だけじゃない、こうして視覚的な美しさでも感動をくれる歌舞伎は日本の誇り!


【封印切】

上方役者による上方和事。
正直あまり期待していなかったのですが(藤十郎さんの演技は私の好みには濃すぎることが多いので…)、嬉しい意味で裏切られました。

なにより、藤十郎さんの忠兵衛が素晴らしかった!
まずは、お若い!あまりにお若いので、花道の出では一瞬翫雀さんかと思ってしまいました。
残念ながら前半はほとんど台詞が聞き取れなかったのだけれど(本当に)、それでも舞台の上にいたのは忠兵衛以外の何者でもなかったのが不思議だった。
役者の貫録をいい意味で見事に消し去って、観ている方がハラハラしてしまうような愚かさと愛らしさを備えた忠兵衛という人間そのものでした。
舞台の上に散らばる小判。
この黄金色が美しければ美しいほど、悲しさが増すこの効果の素晴らしさ。。。
もうさぁ、歌舞伎ってホント凄いよね。これで「庶民の芸能」なのだもの。江戸の庶民ってどれだけセンスあるの。。。
藤十郎さん、泣いてたなぁ。こういう役への入り込み方も、時代物ではしつこく感じるときもあるのだけれど、上方和事では胸に迫る。。。
花道のあの表情。引き返せないところに来てしまった人間の、もう前に行くしかどうしようもない、それ以外に道のないあの表情…。忘れられません。
この方はやっぱり扇雀さんや翫雀さんがまだまだ追いつけない域に達していらっしゃるのだなぁ、と感じた封印切でした。
山城屋!ブラボーです!

扇雀さんの梅川。
若い娘らしさが少々足りなく感じましたが(傾城なんだけど、恋する乙女の初々しさは欲しいというか…)、しっかりしたお姉さん風なところは、子供のような危なっかしさのある藤十郎さんの忠兵衛とお似合いでした。
すごくいいなと思ったのは、最後の花道の引込みの直前。
「嬉しいやら、悲しいやら、夢のようじゃわいなあ…」
梅川の心情が滲み出ていて、とても雰囲気がありました。

翫雀さんの八右衛門。
雰囲気と台詞回しが現代風?で上方の嫌味~な男のネチっこさはイマヒトツに感じられましたが、ハキハキした台詞はストレスなく聞くことができました(とくに今回はこういう方は貴重…)。
この八右衛門も、封印を見てしまった後の花道の引込みがよかったなぁ。
今回は役者さん全員、花道の引込みが素晴らしかった。

そして、秀太郎さんのおえん。
藤十郎さんとの掛け合いでは台詞が聞き取れないときもありましたが(引きずられちゃいました^^;?)、もう本当にこの方は上方演目に必須。。。
なにかあるんですよね、秀太郎さんって。上方の空気というか。今回のおえんも、綺麗ごとだけじゃない廓の裏側に生きる人間の強かさもちゃんと持ち合わせながら、深い情がある。そして、この世界の人間のなまめかしさも。
最後に一人舞台に残って「お近いうちに」と忠兵衛を見送る表情、すんごくよかった。。。おえんは忠兵衛が二度と戻らないことは知らないんですよね。だからといってアッサリと「またね」的な感じでは幕は閉まらない。この絶妙な空気感。松嶋屋!
あ、そうそう。秀太郎さんの演技とは関係ありませんが、裏座敷でおえんが手にしていた蝋燭が電動式だったのはちょっと興醒めでした。どうして本火にしなかったのかしら。。。

そしてもう一人の松嶋屋。我當さんの治右衛門。
これがまた素晴らしいのよ。。。廓をまとめる男の重みと迫力があって。治右衛門ももちろん綺麗なだけじゃない世の中の表も裏もしっかり知っている人。娘同然の梅川だけど、身請け金を用意できなければ忠兵衛にやるわけにはいきません。でも八右衛門のような腐った男にもやりませんよ。そういう人だから、廓をまとめられるのだと思います。
忠兵衛と八右衛門が言い合いをしている間、舞台下手でおえんと作り上げる雰囲気といったら。。。いいもの観ました。松嶋屋!

ここまで来ると・・・・・・・・・“もう一人の松嶋屋”の不在が惜しまれて惜しまれて。。。。
はやく松嶋屋三兄弟の揃った舞台が観たい(>_<)!!!

最後に、観客について。
まったく笑うところじゃないところで笑いが起きていて、カオスでした。。。今更ですけど。。。でも千穐楽でこういう感じになっちゃうのは珍しいな。。。
忠兵衛の最後の「さようなら」で笑いって、あり得ない…。
初見の私でもわかるけどなぁ。。。


【二人藤娘】

最初の真っ暗闇に吃驚。自分の手さえなんにも見えない。
ここまで真っ暗にしたのは昨年の『将門』以来?
大人だけど子供のように楽しくてワクワクしました。今後「安全性の問題が…」とか言い出す輩が出てこないことを切に祈ります。

と、始まりは非常にワクワクしたのですが、明るくなってからは、、、うーむ。。。
玉さまも七之助も、とっても綺麗。あり得ないほど綺麗。なんですけど……。
このお二人、決定的に合わないような。。。。。
お互いがお互いの個性を弱めてしまっているような……。昨年5月の菊之助との『娘二人道成寺』では、そういうのは殆ど感じなかったのですが。
もしかしたら、今回のお二人はタイプが似ているせいかもしれません。どちらも、どこか現代的な美しさ。
七之助が一人で踊るときがあるのですが、そのときの方が伸び伸びと七之助らしく踊っているように見えました。表情も色っぽくて、でも可愛らしくもあり、よかった。
でもきっと今回は、玉三郎さんの七之助に芸を受け継ぎたい、という気持ちを汲むべきなのでしょう。

玉さまは、相変わらず衰えを知らぬ美しさでしたが、“この世のものじゃない”感は今回は少々薄め…?
でも、ときどき藤の房の間からチョコンと顔を覗かせる愛らしさや、お酒に酔ったときの色っぽさ+可愛らしさは無類。
玉三郎さんにしか作り上げられない世界というのが確かにあるのだな、ということを改めて思い知りました。

何回かある衣装替えの中では、特に赤の振袖が華やかで艶やかで素敵でした。客席からも溜息と歓声が上がってた。
二人ともが最高に似合いますね。
今更ですが、63歳で赤の振袖を違和感なく着こなす玉さま、奇跡!

と、なんのかんの思いながらのあっという間の22分。
そしてふと気付いたのですが、私、本気で二人が男性だということを忘れて観ていました。。
本当です。本当に忘れていたんです。
これまで何度もこの二人の女方は観てきたはずなのに。
やはり恐るべし、歌舞伎の女方。。。


怒涛のこけら落としも今月で終了!
本当に、本当に、本当~~~~っに良い一年でした・・・。
歌舞伎の楽しさをいっぱい教えてもらった。
大御所の皆さんも、中堅の皆さんも、花形の皆さんも、若手の皆さんも、その他諸々の方々も、心からありがとうございました
ラストは超キュートな人間国宝コンビで〆!日経新聞さんより。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

歌舞伎座新開場こけら落 鳳凰祭三月大歌舞伎 夜の部(3月11日)

2014-03-27 21:00:25 | 歌舞伎




こんにちは。
職場の「エレベーター」という文字が「エルヴェ」に見えてしまう重症患者なcookieです。 ※?な方はここ参照

さて、今月の歌舞伎座は、夜の部→昼の部の順で行ってまいりました。勧進帳以外は、どの演目も初見です。

夜の部は、3月11日に行きました。
チケットをとったときは意識していなかったのですが、必然的に3年前のその時間のことを思い出しながらの鑑賞となりました。
毎年この日は、ただこうしてこの日を迎えていられること、それ自体に感謝しています。
観客の方々も、おそらくは役者さん達も、皆それぞれに何かを思わないではいられない日だったのではないかな。。

※3階B席


【加賀鳶】

思いのほか楽しめました

幸四郎さんの道玄。
最初のうちは「幸四郎さんは悪人を演じても心底悪人には見えないな~。どこかいい人に見えちゃうな~」と思っていたのですが、話が進むうちに、ああ道玄はこれで正解なのだな、と。どこか愛嬌がある悪人。幸四郎さん、ぴったり

そして秀太郎さんのお兼との掛け合いが楽しくって。
今月昼の部とともにつくづく感じたのが、秀太郎さんという役者の貴重さでした。この風合い。
秀太郎さんって“役者の花”とでもいうようなものがあるのですよねぇ。

ところで今回、幸四郎さんを観ていて、初めて吉右衛門さんを思い浮かべました。今までも逆はあったのですけれど。やっぱりこのお二人、兄弟なのですねぇ。ふと見せる表情がよく似ていらっしゃる。
同じように、秀太郎さんを観ながら、初めて仁左衛門さんと重なりました。演技のタイプというか、表情や仕草が同じだなあ、と。なんかほっこり(*^_^*)

梅玉さんの松蔵も爽やかで素敵でしたが、あまりニンなお役ではないような?


【勧進帳】

時しも頃は如月の、如月の十日の夜。 月の都を立ち出でて・・・・・

この長唄、情緒があって大好きです。毎回聴き惚れる。。。
一行が京を発った如月十日は、現在の暦では三月下旬。先々月の山科閑居につづき、季節感バッチリ。
松竹さん、今後もこの調子でお願いします(って5月にまた勧進帳ですか…。そうですか…)。

吉右衛門さん@弁慶。
出の瞬間から、姿は見えねど(3階なので…)その朗々とした台詞にうっとり。。。吉右衛門さんの台詞回し、本当に好きだなぁ。。。
そして、吃驚するくらいの熱演。
最初からこんなに飛ばして最後までスタミナもつのかなと思ったら、もった。ブラボー!

義経を打つ場面の自然さ(ほぼ迷いを顕しません)、義経の前でのしょんぼり具合、そして何より素晴らしかったのが「弁慶の運命」が常に背後に感じられたこと。特に後半は、この人はこれから義経を守って死んでいく運命にある人なんだな、ということがじんわりと伝わってきて何ともいえない気持ちになりました。もちろんこの勧進帳の段階ではそれは未来にすぎなく、本人達は知る由もないわけですが。でも、決して予想ができない未来でもないのですよね。現実化しつつある未来。これは逃避行なのですから。それでも可能な限りその未来に抗おうとしている、そんな姿がこの弁慶からは見えてくるのです。こんな弁慶を見たのは初めてでした。

とはいえこの弁慶、確かにこれまで観てきた中で最も私のイメージに近い弁慶ではあったのですが…、理想的ドンピシャ!からは本当に僅かに、ほんの1mm程度、ずれていたのでございます……。贅沢な話なのはわかってるんですけど!
ちょっと、熱すぎた。というか感情を出し過ぎ?の割には時々妙に冷静で。
インタビューによると、今回吉右衛門さんは演じ方を変えられたのだとか。もしかしたら私の好みは以前の演じ方の方だったのではないか、という気がしております(観てはおりませんけども)…。

菊五郎さん@富樫。
こちらも声がよくて、聞き惚れる。今回は聞き惚れる勧進帳だなぁ。
菊五郎さんの富樫って独特ですよね。他の純粋まっすぐ系の富樫と違って、「簡単には騙されまいぞ」的な。これはこれで嫌いじゃありません。
でも昨年4月のときも思ったのですが、富樫って一度目の引込みで「く…っ」と顔を上げて涙をのむじゃないですか。これは型なので仕方がないですが、菊五郎さんの富樫のタイプはここで泣いたりはしないように思うのですよね…。そういう感情的な心の動かされ方はしなさそう、というか。
この富樫は冷静に状況を理解し、納得し、自らの命をかけて義経を通し、たとえそのことで死罪になろうと最期まで淡々と死んでいきそうな気がするのです(お、なんかカッコイイ)。
そういう富樫なので、吉右衛門さん弁慶が熱い分、ときどき弁慶を見る目が「こいつ随分熱くなってんなぁ」と眺めているようにも見えてしまって…^^; 私の心の目のせいだと思います。。。

藤十郎さん@義経。
この弁慶とこの富樫に釣り合いのとれる義経は、この方しかいないでしょう。
気負いのない自然な演技が心地よかったです。
藤十郎さんのこの風合い、つくづく貴重ですねぇ。

さて、あちこちのレビューで絶賛されている上記三人のアンサンブルですが、実は私はあまり感じることができませんでした。。。ここで嘘をついても仕方がないので正直に書きますが。。。
人間国宝三人のバランスは完璧でしたが、演技のアンサンブルという意味では少々一方方向に感じられました。それぞれが、それぞれの弁慶、富樫、義経を演じているような。。。
相乗効果という点では、昨年の海老蔵×愛之助×孝太郎さんの方が圧倒的に感じられたのが正直なところです(海老蔵弁慶が基本的には好みでなかっただけに一層)。我ながら不思議ですが。
吉右衛門さんの弁慶&仁左衛門さんの富樫の組み合わせだと、最高にそれを感じられる気がするのだけれど、いかがなものでしょうね。

あ、あと四天王(東蔵さん、扇雀さん、歌六さん、又五郎さん)が、とてもよかった。
特に歌六さんと又五郎さん。
四天王って意外と重要かつ難しい役なんだなぁと今回感じました。リアルに演じすぎては品がなくなるし、といって緊張感や若さはなければならないし。ただ座っているだけでそういう空気を出さなければならないのだから、大変だ。

以上、本当に素晴らしい勧進帳ではありましたが、世間の殆どの方々の「号泣!!!」という感動ほどには達せなかったことは、本当に残念でございました。。。本当に。。。
個人的には昨年十月の吉右衛門さんの知盛の方が、遥かに感動をもらえました。。。


【日本振袖始】

楽しかったです♪

米吉(稲田姫)、カワユイ。若くてお肌も真っ白で綺麗なお姫様。古風なお人形さんのようで、人身御供がぴったりでした。といって白痴っぽいわけではなく、賢そうな雰囲気もあって宜しいです。
玉さまの年齢不詳な美と並ぶと、それぞれが効果的に引き立って、舞台上の美しいこと美しいこと。

玉三郎さん(岩長姫)。
玉さまって素で連理引きができそう、笑。
3階席にも伝わるオーラは圧倒的で、やっぱり変わりのいない女方なのだなぁとしみじみ。
次々と壺の酒を飲み干す様はもはや人間ではなく。

勘九郎の素盞嗚尊。
勘九郎は綺麗ですね~。動きがとっても綺麗。
今回は白塗りの化粧もカッコよかった!いつもこれくらい作り込むといいと思うのだけれど。

後半、玉さま(八岐大蛇)がお疲れ気味に見えたのは、勘九郎が元気一杯だったからだろうか。。。心配です。。。

舞台セットも、民間伝承のお伽話を視覚的に観ているようで楽しかった。
玉三郎さんは、妖しくも悲しい横笛の音がとても似合う。
ときどき歌舞伎で聴きなれない楽器の音が下座から聴こえたけれど、あれは胡弓でしょうか?筋書を買っていないので確かめられません。。


「昼の部」の感想へ

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『椿姫』 パリ・オペラ座バレエ団 @東京文化会館(3月22日マチネ)

2014-03-23 22:41:18 | バレエ




一日たっても興奮冷めやらず頭がぼー……としておりますが、がんばって感想書きます。
結局行っちゃいました、、、椿姫。
だって、、、ど~~~っしても我慢できなかったんですもの(>_<)!
この世界↑を生で観たかったんですもの!
行かないと一生後悔しそうだったんだもの!
直前にヤフ〇クで定価で譲っていただき、人生で初めて舞台チケットに25000円払いましたよ。
でも本当に行ってよかった。。。
この世界で最も美しいもののひとつを観ることができた。。。
舞台の上だけ完全に別世界だった。19世紀のパリ以外の何物でもなかった。


【第一幕(ヴァリエテ座)】

マルグリット役のオレリー・デュポンは、大輪の花のような美しさで、まさに“椿姫”。
周囲に男達をはべらせる姿は一幅の絵のよう。

そしてアルマン役のエルヴェ・モロー。
このアルマンならそりゃあマルグリットも落ちるわ~~~と心の底から納得。。
以前DVDで見たときはアルマンがただの世間知らずの坊ちゃんに見え、奔放に男達を手玉にとってきた高級娼婦がこの青年に“恋”するものかなぁ…?と感じたのだけれど、今回は違いました。
モローのあの色気…あの翳…フランス映画から抜け出てきたよう。
あんたこれまで何人の女を泣かせてきたのさ?的なアルマン(じゃないとあんな魅力でるわけない!という意味で)は、原作的には違うのかもしれませんが、日本に絶対にいないレベルの美男を3時間生で見られて幸福でした。。。

マルグリットの部屋でのパ・ド・ドゥ。
「ちょ、スカートたくし上がりすぎでは…っ」なリフトも、連続足に口づけ場面も、もう我慢できませんって感じなこれまた服たくし上げての首筋に口づけ場面も(これDVDで見つからないんだけど…)、若いアルマンのマルグリットへの想いの激しさが伝わってきてよかったぁ。

そしてつくづくS席でよかったと思ったのが、この作品は美味しい場面がことごとく上手の端っこで行われるから。
Rサイドのエコノミー席でも買っていようものなら、悔やんでも悔やみきれないところだった…。
舞踏会に出かけたマルグリット(@舞台中央)を部屋で一人待つアルマン(@上手)。
ごろんと寝そべったり、本を読んだり。そして時々思い出したようにマルグリットがくれた椿を眺めて、嬉しそうに微笑むの(>_<)!私、この繰り返しを24時間見ていても飽きない自信ある!
だってモローが美しすぎて…。額にぱらって落ちた前髪を無造作に掻き上げる仕草まで美しい。。。
すみません、私ここは舞台をほとんど観ずにアルマンばかり観てました。。。

田舎へ出掛けるマルグリットをマントを翻して追いかけていく姿も、黒のマントが超絶似合う。


【第二幕(田舎)】

真っ白なポスターのあの場面ですよ!
美しい。。。美しすぎる。。。
最初はこの演目はガルニエで観たいって思ったけど、東京文化会館でよかった。舞台の上だけ完全に別世界になる奇跡を目の当たりにすることができた。
この種の美しさは日本のバレエ団にはムリだろうなぁ・・・。
舞台セットが白い籐の椅子とテーブルだけというシンプルさも素晴らしい。

首飾りを投げ捨てて公爵との関係を絶った後の、二人のパ・ド・ドゥ。
下した髪が愛らしいオレリー。
ほんの僅かな、二人の幸福な時間。。。

アルマンのパパン役は、ゲストエトワールのミカエル・ドナール氏。
DVDで観たときにとても好みだったので、同じ配役で嬉しい!
当時より歳をとられたせいかオレリーを持ち上げるのが少々重たそうだったけれど、そんなことはどうでもよろし。
このパパンが、もう本っ当にいいのよぉ~~~泣。「息子と別れてくれ」って言いに来たのに、マルグリットに対する理解と愛情もしっかりとあって。このパパンの前では、マルグリットも小さな少女のよう。
地面に丸く蹲ってしまったマルグリットの頭にパパンがそっと手をのせる場面、大好き。仕草に深い優しさが感じられて…。
パパン、大人なんだよねぇ。。
だけど息子の将来ために、一線は決して譲りません。

アルマンのために、身を引く決意をしたマルグリット。別れの手紙を残して、一人パリへと帰ります。
手紙を読んだアルマン、ショック!
ここで舞台をのたうちまわるように踊る姿は、マルグリットに対する怒りというよりも、深く深く傷ついているように見えました。
ぼっろぼろになって踊るモロー。なんて美しい。。。(すみません、見惚れてました・・・)
こんなになるほど一人の女性を愛せるなんて。。。
いいなあ、こういう恋愛。。。
一生に一度してみたい。


【第三幕(シャンゼリゼ)】

ここのオランプのピンクの冬服、すっごい可愛い^^
DVDではマルグリットの気持ちもわからず当てつけるようにオランプとイチャつくアルマンが子供過ぎて腹が立ったのだけれど(でもステファンはこの原作どおりのアプローチがいい意味で似合っていた)、今回はもう少し大人な恋愛の一場面のように見えた。マルグリットだって自分を愛しているはずなのにこんな風になってしまって、イラつくアルマン、みたいな。

オランプとのベッドシーンも色っぽくて。。。
このシーンでこんなに素敵だったら、次のシーンは一体どうなっちゃうの(><)!冷静に見る自信ない!とこのときは何気に不純な期待でいっぱいだったのだけれど。
――とんでもなかった。
不純な気持ちなんて起こる隙もないほど、二人の姿が美しすぎて。。。。。。

黒のパ・ド・ドゥ。
もうここからラストまでは舞台の空気があまりにも濃密で、呼吸するのも忘れて見入ってしまいました。
熱いのに澄んでいて、激しいのに切なくて、官能的なのに純粋で……。
“愛”がそのままカタチになって目の前にあった。
ただただ美しくて、涙が出た(今もこれを書きながら思い出して泣いてます…)。
アルマンを訪れないではいられなかったマルグリットの想い。
そんなマルグリットを全身で愛するアルマン。
このときだけは過去も未来もなく、躰だけじゃなく、心も本当に一つになっていたのだと思う。
そしてモローの息づかいも、汗で濡れた前髪も、セクシーすぎて…(あ、また不純の虫が…)。
でも本当に二人とも、服の乱れも髪の乱れも、そのまま全てが完璧な美の形でした。

上手で重なって眠る二人は、ただの若い恋人たちのように無垢であどけなくて…。もう本当に切ない…。
そんな二人にしのび寄る、マノンとデ・グリューの影。
先に目を覚ますマルグリット。彼女はマノンの幻を見、アルマンの元を去ります。
このオレリーの表情に、このとき彼女は本当に覚悟を決めたのだと思いました。愛するアルマンを道連れにせず、一人で死んでいく覚悟を。

眠るアルマンの傍らで踊る、デ・グリューの幻。
やがて目を覚ますアルマン。
一瞬嬉しそうな笑みを見せて(これすごい切なかった…。DVDのステファンは見せていませんでしたが)隣を見ると、そこにマルグリットの姿はなくて。
このときに、アルマンも一つの答えを出したのだと思います。
もう本当に駄目なんだなと悟ったような、自らの想いに決着をつける覚悟を決めたような。怒りだけじゃない、哀しい表情に見えた…。
ゆっくりと舞踏会に出かける準備をするアルマン(肌蹴たシャツに気だるげにネクタイを締める仕草がセクシー…)。舞台上手にいるアルマンの心が客席の私のところまで伝わってきて、胸が苦しくなった…。
舞踏会でマルグリットを強引に引き寄せて、渡す札束。
痛い……。ここの二人の擦れ違いは、本当に胸が痛い……。
アルマンから札束を渡されたマルグリットの悲痛な慟哭。
でもマルグリットからは見えなかったけれど、このときアルマンもまた傷ついていたのだと思う。下手のアルマン、必死に気持ちを抑えていたけれど、見ているのが辛くなるような表情をしてた…。

舞台が暗転して、パパンの胸に飛び込むモロー、違った、アルマン。さっきまであんなに俺様だったくせに、このギャップに思わず胸きゅん…。
そしてここからが号泣のフィナーレですよ。すでに号泣してますが。

舞台左右から洪水のように襲ってくる二人の想い。
病の悪化したマルグリットは、青白い顔色を隠すために頬紅を真っ赤に塗り、真っ赤なドレスを着て、初めてアルマンと出会った夜と同じ『マノン』を観に出かける。
降り注ぐショパンのメロディ。
彼もまた、19世紀パリの社交界を煌びやかに彩り、肺病で若くして世を去った作曲家でした。

死の淵に立ったマルグリットが最期に見たマノンの幻が切ない。
マルグリットはアルマンに別れを告げたことを後悔しているわけでは、決してないと思います。
でも、本当は寂しかったんだと思う。本当はマノンのようにアルマンに縋りつきたかった。抱き締めてほしかった。
でも、決して道連れにはすまいと決めた。
そして、一人で死んでいった。
なんて、誇り高く、強く、深い愛情だろう。自分よりも相手の幸福のために、あえて自分が悪になるなんて…。

でも、遺されたアルマンはどうなのだろう。
彼はマルグリットと一緒に最後までいられた方が幸福だったのじゃないか、と思ってしまう。たとえ将来に傷がつこうと。
こんなに激しい恋愛をしてしまって、彼は残りの人生を生きていけるのだろうか。特にモローのアルマンは、アル中とかになって後を追って死んでしまいそう…(舞踏会でもお酒ぐびぐび飲んでたし)。
願わくばマルグリットとは全く違うタイプの家庭的な可愛い奥さんをみつけて、温かい家庭を築いて、でも心の奥の奥の部屋にはマルグリットとの思い出があって…的な幸福な人生を歩んでほしい(映画とかでよくあるあれ)。マルグリットのためにも。


カーテンコール。
最初に幕が上がった瞬間から、オレリーは感極まった表情で涙をためていました。
まだマルグリットの気持ちが残ってるのかな?と思ったのだけれど、後から知りましたがこの日が彼女がパリオペで椿姫全幕を踊る最後だったのですね。ルテステュとシアラヴォラが引退なのは知っていましたが、彼女も引退が間近なことは知りませんでした。今日の舞台、観られてよかった。
数えきれないほどのカーテンコールと、文字どおり総立ちのスタオベ。
モロー、泣き笑いのオレリーの頭を抱き寄せて、オデコにちゅって。
うわぁ…、なんて絵になる二人…。
この二人の椿姫が映像で残っていないことが本当に残念だけれど、だからこそ生で観ることができてよかったです。
舞台って本当に儚いものですね。。。

最後に。
ピアノの生演奏が嬉しかった!まさかこの作品を生ピアノで観られるとは思ってもいなかったので、感動しました。
衣装もどれもセンスがよく、ライティングも品があって、もう完璧(このセンスを熊哲にも見習ってほし…)。
マノン役のローラ・エッケ、プリュダンス役のサブリナ・マレム、ガストン役のクリストフ・デュケンヌ、その他脇の方々も皆さん素晴らしかったです。
アニエス×ステファン、イザベル×マチューも、お金があったらぜひ観たかった。特にステファン、パンフで見るといい感じに男臭く成長していたし^^。3人の公演を全部通った人の気持ちが、よくわかります。

ああ、この世でもっとも美しいものを見てしまって、しばらく現実に戻れそうにありません。。。いや、戻りたくありません。。。
でも戻らねば。
急がないと歌舞伎座が千穐楽を迎えちゃう!こちらも日本人にしか作り上げられない世界!
もう少しだけ待ってて吉右衛門さん、菊五郎さん、玉さま~~~~。


※追記 インタビュー(chacott):エルヴェ・モロー

Comments (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ラ・バヤデール』 K-BALLET COMPANY @オーチャードホール(3月20日マチネ)

2014-03-20 20:11:55 | バレエ




バレエファンだったら、パリとかロンドンとかモスクワに住みたいと思う人も多いかもしれません。
でも私は、東京に住んでいて本当によかった。
だってKバレエがあるのだもの!

『ラ・バヤデール』は一昨年にヴィシニョーワ&コールプ&コンダウーロワで観てこれ以上ないくらい満足していて、それは今も変わらないまま。
でも今回の舞台を観て、Kバレエというのは全く別の世界なのだなと思いました。熊哲が作り上げた、一つの世界。

婚礼の場の踊り子たちのピンクや水色のファンシーなチュチュ、ガムザッティの原色に近い紫の衣装、ニキヤのこれまた原色に近い真っ赤な衣装、そして百円ショップのオモチャのような色合いの花籠。ドンキのピンクブーツと同じく、どれもまったく私の好みではないのだけれど。
なのに、なんででしょうね。
「ああ、“熊哲は”きっとこういう世界を作りたいのだな」と、感動してしまったのですよ。もうそれでいいよ、と。
「リアルなんかじゃなくていいんだ、夢を見させたいんだから」と言っていた熊哲。
本当にこの人は観客に夢を見て帰ってほしいんだな、と思った。まるでディズニーランドのような、そのときだけは思いっきり日常を忘れさせてくれる夢。
バヤのドキュメンタリーで「自分がいいと思うものはみんなもいいに違いないって思っちゃうんだよね」と笑っていたけど。
影の王国も、不気味さや気だるさが少なくどこか明るめで、この人の中の明るさを見たようでなんだか楽しかった。
この綺麗な綺麗な舞台の上に、愛も、嫉妬も、喜びも、悲しみも、憎しみも、この世界の全てがあって。
でもそれは決して現実ではなく、全てはバレエというものを通して熊哲が見せてくれる夢の世界で。
バレエっていいなぁと、ミンクスの切なく美しい旋律とともに、なんだかちょっと泣きそうになってしまいました。

以下、ネタバレありです。


【一幕(寺院の外~宮殿の一室~宮殿の庭)】

荒井さんと白石さんは、体形が前回見たヴィシニョーワ達に比べると女というより子供のように見えてしまい、それは海外バレエ団より不利なのは仕方がないこと。
でもお二人とも踊りに危なげがなくて、安定感抜群。上手い(特に荒井さん)!
荒井さんのニキヤは表情豊かで、ソロルとの逢引のときも嬉しそうな恋人の笑顔。ここでこういう嬉しさを見せてもらえると、これからの悲劇がちゃんと引き立ちますよね。
白石さんのガムザも、ただの意地悪な女ではなく、ソロルを愛する(といっても出会ったばかりですけど…)がゆえの必死さが伝わってきて、好みでした。
対決場面はお二人とももっと熱くてもよかった気がしますが、まぁまだ二日目ですしね。

しかしやっぱり、なんといっても熊川さんのソロル。
まさかの口髭のちょいワル親父風で、コールプにしても、私が観るソロルはこんなのばかりだな^^;と苦笑していたら、早速一幕のソロで泣かされた。。。
高い!軽い!全然体重を感じさせない。
本当に42歳?白鳥のときにも感じたけど、この人の踊り、観る度に若くなってる気がする。
速くて綺麗で、なにより本当にバレエが好きそうに踊るから。
この数十秒のために14000円払っても惜しくない、と感じてしまう。
そういう種類の感動をくれる、本当に稀少なダンサーなのです、私にとって。
ソロを終えた後は本当に嬉しそうな笑顔全開で(ステージ中でここまで笑顔な熊川さんも珍しいような)、こういう顔を見ると、ああ本人的にもちゃんと満足のいく踊りだったのだな、とこちらも嬉しくなる^^

他の特筆ポイントは、婚礼の場の登場場面で、象の上でキザにポーズを決めてる熊哲。笑っちゃうほどお似合い、笑。さすが。
でもニキヤが現れると、途端に大焦りでうろうろ。ソロルって、いちいち親友に泣きつく優柔不断さも見ていて楽しい。
そして花籠をソロルがニキヤに手渡したのには吃驚しました(ソロルはラジャから受け取っていた)。マリインスキーのときは「ソロル様からです」と乳母が手渡していたので。この演出だと後のソロルの苦悩は倍増ですね。熊川さん、Sだ。。^^;
毒がまわったニキヤを残し、ソロルはガムザと手を取り合い退場。残るは、ニキヤと大僧正。マリインスキー版のように、駆けつけてニキヤを抱いてほしかった気もするけれど、そうすると「影の王国」で終わらないこの演出では不自然になっちゃうのかな。


【第二幕(影の王国)】

寺院の仏像の前で後悔にさいなまれるソロルに、親友が阿片を差し出す。
戸惑いを見せながらもついにそれを吸い、そして見る夢の世界。影の王国。
全体的に場が明るく感じたのは、既に書いたとおり。
精霊達の雰囲気もどことなく明るい。
この明るさは決して私の好みではないのだけれど、この場が明るめだと再びの寺院の場面の暗さが引き立つので、今回の演出の場合はこれも悪くないかも、と思いました。
コールドはいつもどおりとても綺麗。

ソロルは結局、夢から目覚めないのですね。死んでしまった、ということでいいのかな。 
「影の王国」の後でまだ優柔不断なソロルというのは見たくないので、この演出は好きです。
下手に横たわるソロル。
ガムザッティが駆け寄ると、どこからか現れた毒蛇が彼女に噛みつき、混乱するラジャ達を照らす稲妻。そして寺院の崩壊。スローモーションで落ちてくる岩(これはロイヤルと同じですね)。

あらゆる命を呑み込んで寺院が崩壊し、残るのは静寂と暗闇のみ――。
そこに突如現れるブロンズアイドル。
真っ暗な瓦礫の残骸の中を、黄金に輝く躰で明るい音楽にのって軽快に踊ります。
神の怒りの象徴ではなく、浄化、かぁ。
この演出、もっのすごくいいですね!ぞくぞくしました。はじめて熊哲って演出家として天才じゃない?と思った。熊川版として後世に残すべし。
これは西洋人ではなく、日本人の熊哲だからこその発想のように思います。
いつもニザ様や玉様を世界遺産と呼んでいる私ですが、あえて言いたい。

熊川哲也は日本の宝


ブロンズアイドルの池本さん。スラリとした体形が清廉な少年の仏像(阿修羅像的な)のようで、よく似合っていました。踊りも上手!もう一歩人間らしさが抜けて神々しさが出ていたら、もっとよかったけれど。もちろんパントマイムのようにいかにも像っぽく踊ってほしい、というわけではありませんが。マリインスキーのときのキム・キミン(こちらは披露宴の場で登場)もやっぱり人間に見えてしまっていたし、難しい踊りなのかな。そういえばTVでも練習で息を上げていて、熊川さんが楽しそうに笑ってましたね。

ラストは空の上の世界を思わせるセットに、微笑んで待ってるニキヤをソロルが見つけ、嬉しそうに駆け寄っていくところで幕。
あと5秒くらい長く二人の姿を見ていたかったけれど、ラブラブのラストはやっぱりバヤには似合わない気もするし。きっとここで終えたのが、演出家としての熊川さんのこだわりなのだろうな。

長い長いカテコがただのお約束に感じないのは、今回も同様。
まだ2日目のせいか全体的に少しぎこちなさも感じられた公演でしたが、熊哲の踊りと、彼の作ろうとする世界にいっぱいの感動をもらえたKバレエ版『ラ・バヤデール』でした。


※帰宅してから寺院崩壊“前”にブロンズアイドルが踊る版も観たくて数ある映像から見つけ出したのですが、そのブロンズアイドルがとても好みで誰かしら?とエンドクレジットを調べたら、"Tetsuya Kumakawa"、笑。1991年のロイヤルの映像でした。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ドン・キホーテ』 パリ・オペラ座バレエ団 @東京文化会館(3月16日)

2014-03-16 23:55:22 | バレエ



楽しかった~~~~(*^_^*)
やっぱりドンキ大好き!!

キトリ役がミリアム→リュドミラ→マチルド・フルステーと二度も変更になったのでどうなることかと思ったけれど、フルステー、派手で情熱的でとってもよかった。
さぁ私を見なさいなオーラいっぱいで。でも貫録がありすぎることもなく、おきゃんな可愛さもあって。
扇子の使い方もキレがあってカッコよかったなぁ(あのザッていう音、わくわくする)。
この赤い衣装も、彼女の勝気そうな顔立ちによく似合っていました。
とまぁそういうダンサーなので、二幕のドルシネアはふわふわ感が今ひとつでしたが^^;。この方、オデットやジゼルは似合わないかもしれませんねぇ。でもドンキはキトリな場面が殆どなので、ノープロブレム!

バジリオ役のマチアス・エイマンが、また素晴らしくて。。。
一見プレイボーイ風だけどとても優しくて。
難しそうな振りも楽々こなしていて、跳躍もふわっと軽くて、この人の踊り、品があって好きです^^
でもってエイマン、なんて可愛い顔で笑うの。。。カテコのときもとっても嬉しそうで、あなたが嬉しいなら私も嬉しいよ、と思ってしまった。

とにかく二人とも華と色気があって、やっぱり主役はこうでないと
二幕の森の中でのイチャつきも、熊哲&佐々部さんは可愛らしい感じであれも好きだったけど、こちらはエロくて素敵だった、笑。
踊りも、時々「ん?」となっても、二人ともしっかりした実力があるのがよーく分かるから、安心して観ていられました。
黒髪もラテンぽくてよい。

一方、エスパーダ(ヴァンサン・シャイエ)とメルセデス(サブリナ・マレム)は、なんというか、地味でした・・・
シャイエは外見は悪くないのだけれど、踊りに華がないというか、どうもお行儀が良すぎて。。。
宮尾さんのときも書いたけれど、エスパーダって主役を食っちゃうくらい俺様でいいと思うの。
ああ、舞台を制すような華のある色男エスパーダが見てみたい。。。年末のボリショイはどうなのかしら。でもジャパンアーツはエコノミー券がないからなぁ。。。

オペラ座は、衣装やセットもセンスがよくて素敵ですねぇ。
期待していた闘牛士の衣装は、一幕の緑&赤は昆虫みたいで微妙でしたが、三幕の方はなかなかお洒落でよかった。
ジプシー達の衣装も、ああいうくすんだ色合いが向こうのダンサーは似合いますよねぇ。日本人だと地味になりがちだけれど。ジプシーの振付も、エロくてにやにや。こういうの、やっぱり日本のバレエ団より自然にこなしますね。
最後は群舞でハッピーにエンド(ヌレエフ版)。

今回は初5階席でしたが、2列目だったので全く問題ありませんでした。どうやら1列目じゃなければ、私の高所恐怖症は発症しないらしいです。
サイド席でも踊りはほぼ全部見られたし、6000円で大満足。NBSのエコノミー券、貧乏人の強い味方です。

そして海外バレエ団の来日公演を観る度に感じるのが、やっぱり熊哲って稀有なダンサーなのだな、と(42歳なのに!)。今回もしみじみ。
バヤが楽しみです♪

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大浮世絵展 @江戸東京博物館(2月12日)

2014-03-05 21:01:53 | 美術展、文学展etc

東京会場は終わってしまいましたが(名古屋と山口はこれから)、好みだった絵をざっと。
写楽、広重、北斎、清長、晴信から橋口五葉や伊東深水まで名画のオンパレードで、とっても見応えのある企画展でした♪
※写真はネットからの拝借のため、実際の展示とは色合いが異なります。


【江戸の雪】


歌川広重1797-1858  『東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪』
音もなく深々と降り積もる雪。夜の蒲原の街道。


歌川広重  『東海道五拾三次之内 亀山 雪晴』
雪がやみ、晴れた朝。この朝焼けの空の色!
大名行列が登る坂のあり得ない急さ加減は、広重流のデフォルメでしょうか。


歌川広重  『名所江戸百景 浅草金龍山』
The広重な構図。赤と白と雪空の対比も見事です。


鈴木春信1725-1770  『雪中相合傘』
左は男性、右は女性ですよ~。写真ではわかりませんが、黒の着物にも白の着物にも空摺という手法で地模様が入っています。また、降る雪、積もる雪、それぞれに技巧を尽くした表現の素晴らしさ!絶対に実物を見るべき作品の一つです。
それにしても、この二人の男女の美しいこと。。。


【江戸の男女の粋な日常】


鈴木春信  『風流五色墨 長水』
こちらも左が男性、右が女性。女の子二人にしかみえませんが^^;
手紙を取り合って戯れる可愛らしいカップルです。


鳥居清長1752-1815  『風俗東之錦 萩の庭』
清長さんの絵は、まるで絵の中から風が吹いてくるよう。
私もそこに一緒にいるような気分になります。


鳥居清長  『大川端夕涼』
夏の夕暮れの風を感じられる作品。
大川端、黙阿弥の『三人吉三』の舞台ですね。


鳥居清長  『吾妻橋下の涼船』
舟の上でカツオを捌いてますよ
こんな納涼がしてみたい。


鳥居清長  『美南見十二候 六月』
『九月』も見たかったなぁ。


【その他】


歌川国芳1798-1861  『日本駄右エ門猫之古事』
やっぱり妖怪絵は外せない!


葛飾北斎1760-1849  『富嶽三十六景 山下白雨』
有名な『凱風快晴』も素敵だけど、この漫画みたいな雲と稲妻がなんともいい味。
下界の荒天を物ともしない晴々とした頂に、日本一の山の崇高さを感じます。


歌川広重  『月に雁』
EDO万歳!!!

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

歌舞伎と江戸東京博物館

2014-03-03 00:34:01 | 旅・散歩

歌舞伎ファンなら一度は行くべし、お江戸は江戸東京博物館
できた頃から何度も行っている、大好きな博物館です。



ご存じ『忠臣蔵』の舞台、江戸城松の廊下と大広間(1/30縮尺)



19世紀初期の中村座正面(なんと原寸大)



もしタイムスリップできるなら、絶対に江戸の芝居小屋に行ってみたい!



『東海道四谷怪談』のジオラマ。
解説員さんが、提灯抜けや仏壇返し等の仕掛けを種明かししてくれます。
雰囲気ありますよ~。



『助六』
衣裳や小道具は、現在の舞台で使われているものと同じだそうです。



ちゃんと足の親指が立ってる



北斎の画室。
こんな風に描いていたんですねぇ。

この他、小道具や芝居小屋の模型など見所いっぱい



小腹が空いたら7階桜茶寮へ
カウンター席からは目の前に隅田川と両国国技館。
Theお江戸な眺めを独り占め



お値段も手頃で美味しいですよ。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする